10 おわりに

 あの地震から10ヵ月余りが過ぎ、神戸の被災地では瓦礫もかなりが取り除かれ、交通機関もほぼ復旧し、新しい街の復興が本格的に始まろうとしている。しかし、本校のグランドをはじめ多くの仮設住宅には被災された人々の生活があり、震災の大きさがあらためて認識させられる現実がある。
 幸い、神戸高専では学生、教職員とも1人の犠牲者もなく、また施設設備も大きな被害を免れた。突然やってきたこの災害と、その後の対応はほとんど未経験のことばかりであった。我々に共通することは「まさか神戸でこんな地震が起こるとは」という意外性であろう。この予期せぬ災害に対して、日々の生活で、また神戸高専の職員としてその時々の最善と思われる対応でなんとか切り抜けてきた。
 今から考えれば反省すべきことも見えてくるが、あの状況では仕方なかったと思えることもある。この忌まわしい出来事は、早く忘れ去ってしまいたいという気持ちもある。 しかし、このような経験は、何らかの方法で記録として残すべきではないかとの提案があり、神戸高専としてこの震災記録集を作ることになった。
 高専研究会は毎年発行する研究紀要の編集の経験から、多少のノウハウも持っておりこの記録集の編集を引き受けることになった。そして原稿を依頼した両主事室や事務室、教職員、学生諸君の協力により震災1周年に合わせて完成することができた。
 この歴史に残る災害に遭遇し、幸いにも命の助かった我々は、この冊子を通じてこの出来事を多くの人々に伝え、災害に備えるために参考となるものを少しでも提供する役割が果たせたのではないかと思う。
 この春の本校の入学式で新入生代表の宣誓の中に「わたしたちは神戸の復興に貢献できるエンジニアをめざして・・」という言葉があった。工学が、自然現象の真理を研究し、それを人々の幸福に役立つもの作りに応用する学問であれば、地震という自然現象のメカニズムの解明と被害を最小にとどめる防災や、安全で快適な市民生活を取り戻す復興への支援も我々の重要な使命であろう。
 11月には「震災から復興へ」のテーマで産学官技術フォーラムを本校で開催し、都市工学科を中心としたこの震災に関する研究発表をはじめ、産業界、神戸市の対策や復興計画に関するシンポジウムが行われ、今後の神戸の街づくりの指針を議論した。
 神戸高専としても、その教育・研究機能を生かして今後の神戸の産業の復興、発展と新しい街づくりに積極的に協力したい。そして、人々の安定した日常生活が一日も早く取り戻され、神戸が魅力あるすばらしい街としてよみがえることを願いたい。
 最後に、この記録集を作るにあたり協力していただいた、教職員、学生の皆様にお礼申し上げます。

(高専研究会委員長 藤井 富朗)