Uno's Lab.

ようこそ 神戸高専 都市工学科 宇野研究室へ。
当研究室では、河川、沿岸域の水辺の環境保全・防災に関する研究を行なっています。.
明石海峡 夙川 伊川 ハクセンシオマネキ 加古川 成ヶ島

2016年 読書記録

願わくば,学生時代に一日のたとえわずかでもよいから本を読む習慣をつけてもらいたい. ちなみに私は,行き帰りの通勤電車が「読書部屋」となっている.

12月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
女の一生伊藤比呂美岩波新書詩人でジャーナリストの伊藤比呂美さんが,女性の悩み相談にズバリお答えする1冊.文科省の検定教科書の教材として採択される可能性は限りなく低いかもしれないが,単刀直入でズバリな回答は読んでいて痛快である.最近女子学生や女性教員が増えてきたうちの学校の教員向け「課題図書」にしてもいいんじゃないだろうか.悩み悩んでどうしようもなくなったら,男女を問わず,是非手にしてみて下さい.エッセー

人生相談
知られざる日本
‐山村の語る歴史世界
白水智NHKブックス山村といえば,いまや「過疎」とか,「限界集落」といった言葉が思い浮かぶ人気の少ないさびしい場所というイメージでしかないが,かつてはそうではない面があった.日本の国土の大半を占める「山村」での地域再生を考えることは,これからの日本の姿を見つめることにもつながる.本書に書かれる山の暮らしを支えてきた“循環”思想が,モノ・カネ依存の現代の社会の救世主となるような予感が持てた.民俗学
古市くん,社会学を学び直しなさい!!古市憲寿・著光文社新書都市工学は,機械や電気などの他の工学に比べると,より「社会的な」学問領域である.例えば,自動車やテレビなどは型番こそあれ基本的には「大量生産」となるのに対し,都市工学は地域のニーズに応じたオーダーメイド型のまさしくonly oneのものづくりの世界である.当然,数学や物理だけなく,地理・歴史・文化などを踏まえた「社会学」というものをかじっておく必要がある.本書は,新進気鋭の若手・社会学者による,社会学分野で著名な方々への体当たりのインタビュー集で,初学者が,社会学とはどういった学問であるかを俯瞰するにうってつけの1冊.社会学
文明の海洋史観川平平太中公文庫私が着任した当時の校長先生が,専攻科生を相手に隔週で「校長セミナー」なるものを実施されていた.私も学生に入り混じってこっそりと聴講していたのだが,モノや人の動きをグローバルな視点で捉えることは,教養として必要ではないかと思う.本書は,それまでの陸地史観による通説に対し,「近代はアジアの海から誕生した」という大胆な仮説を検証する.文明論
江戸はこうして造られた鈴木理生ちくま学芸文庫「太平の世」と言われた江戸時代だが,徳川家康が江戸入りして以来の百年間は実は多くが謎に包まれている.本書は,開府時の江戸の街づくりの様子に迫る1冊.たゆまぬ土木事業の末に,あの磐石な江戸時代が築かれたのかと思うと感慨もひとしお.ドボク屋として必読の1冊.土木史
敦賀長浜鉄道物語敦賀市立博物館同左青春18きっぷの旅で,福井県の敦賀まで足を運んだ.数年前に新快速が湖西線経由で乗り入れるようになって,「越の国」というよりも,「亜関西圏」ですね.港周辺も整備されて観光施設も充実している.本書は,その中の一つ敦賀港駅(復元)にある鉄道資料館で購入した.本書は,北陸本線と湖西線の直流化を記念し敦賀市立博物館と長浜市長浜城歴史博物館と共同で実施された企画展の図録.旧・北陸線はまだまだ遺構も残っているようなので,機会があれば是非訪れてみたい.鉄道

歴史
落日燃ゆ城山三郎新潮文庫年末にNHKスペシャルドラマ「東京裁判」を観た.実際の映像も時おり踏まえながら,連合国側によって選び抜かれた11人の判事のそれぞれの苦悩がよく描かれていた.この裁判では七人のA級戦犯が絞首刑を宣告された.本書は,このうちただ一人の文官であった元総理・外相広田弘毅の生涯を記した1冊.戦争防止に努めながら,その努力に水をさし続けた軍人たちと共に処刑される運命は,皮肉であり,ここにも戦争の残酷さがあるように感じた.ノンフィクション
未来のだるまちゃんへかこさとし文春文庫子どもの頃,かこさとしさんの絵本をよく読んだ.当時,科学的な読み物の挿絵は,かこさんの作品が多かったように思うし,表紙に「え:かこさとし」とあるだけで,その内容が絶対に裏切らないものであると感じていた.本書は,そんなかこさんが,サラリーマンとの二足のわらじ生活や自身の子育てなど,自身の人生について語る.国民的人気絵本作家の子どもに対する飽くことのないまなざし,教育の現場に身を置くものとして,少しでも見習いたいものである.エッセー

教育論
甲子園ホテル物語三宅正弘東方出版西宮市の主催するまちあるきツアーで,甲子園ホテルにも寄った.その際に紹介された本であるが,著者が,私が学生の頃に同じ学科におられた建築の先生であることにビックリ.「東の帝国ホテル」に比して「西の甲子園ホテル」と呼ばれた当ホテルは,昭和5年に開業するも,戦争激化によりホテルとして営業したのはわずか14年であった.本書は当ホテルの栄枯盛衰と取り巻く人々の人生が描かれる.阪神間モダニズムを考える上で貴重な建物だけに,これからもなんとか保存してほしい.願わくば,ホテルとしての再生にも期待したい.建築

阪神間モダニズム
読んじゃいなよ!高橋源一郎岩波新書標題のとおり,薦められるままに通勤中に読んでみた.この本には,なんの変哲もない文系大学生が3冊の岩波新書『哲学の使い方』(鷲田清一),『憲法とは何か』(長谷部恭男),『女の一生』(伊藤比呂美)を読み,合宿も行って徹底的に準備した上で,それぞれの著者と真剣勝負の対話を重ねるというもの.発言も立派だし,若者の本離れに対する心配は全くないと感じた.文系・理系の違いはあるかもしれないが,高専生は果たしてどうか.この本を読んだ後,ついでに他の本も読んじゃいなよ! ノンフィクション

読書論



11月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
大阪アースダイバー中沢新一講談社いまや「ブラタモリ」などで,地形の凹凸を意識した街あるきがブームになっているが,本書はそうした見方の「はしり」ともいえる1冊.「アースダイバー」とは,心の無意識までを含んだ四次元の地図を作成する作業の全体のことをいう.最近の地形凹凸本との違いは,単に空間的な履歴を追うに留まらず,古代人の心の構造を教える人類学,歴史学,心理学などあらゆる知の履歴にも焦点をあてている点にある.「文明をつくる」使命を担う土木技術者にとって,この視点はものすごく重要であろう.江戸・東京を舞台にした『アース・ダイバー』もおススメ.地理学
民俗学
ローカル鉄道という希望田中輝美河出書房本やCD・DVDなどのレンタルでおなじみの蔦屋書店の発祥は大阪の枚方市.京阪枚方駅前にこの春開業した関連施設での著者のトークイベントに参加した.赤字にまみれたローカル鉄道を「乗るか・乗らないか」の議論ではなく,どう活かすかということを熱く語られる姿に感動.その場で著書を「即買い」した.本書は,全国各地のローカル鉄道を訪ね歩き,地域再生の方向を探る1冊.著者の話を聞いているとなんとなく同世代かな〜と思っていたら,なんと同い年!(誕生日5日違いの姉さんでした).今後の著者のご活躍にも注目.地域再生

鉄道
希望のレール山田和昭祥伝社上記のイベントで田中さんと一緒に出演されていた.東京のIT企業から,一大決心されて,ローカル鉄道会社の公募社長に転身.その奮闘が描かれる.おそらくこれまでは考えられもしなかった「稼ぐ」という意識を持ち込んだことが何よりの功績だと感じた.若狭鉄道は鳥取県東部を走るローカル鉄道で,兵庫県境とも近い(トークイベントでも「関西まで5分」とアピられていた).これは近いうちに乗りに行かねば.地域再生

鉄道
瀬戸内海モダニズム周遊橋爪紳也芸術新聞社瀬戸内海は,日本で最初に制定された国立公園の一つである.風光明媚な多島美は,古くから国内外の観光客を集めてきた.本書は明治以降戦前までの,同地域のパンフレット・絵葉書等をもとに瀬戸内海国立公園のこれまでを辿る.表紙めくってすぐに収められている見開きの鳥瞰図が圧巻だ.観光学

民俗学
古文書はいかに歴史を描くのか白木智NHKブックス学校の歴史の授業で習うのは,有名人や大きな出来事ばかりであるが,どの時代にも市井に生きる人々の姿があった.それを明らかにしてくれるのが,蔵に収まっていたり,ふすまや屏風などの下張りに使われていた古文書(当時は単なる要らなくなったメモだった・・)である.本書は,そうした古文書を後世に残すことの重要性を自らの体験をもとに語るとともに,具体的な保存方法まで言及されている点が素晴らしい.そうした「蔵入り」された文書から「歴史が動く」可能性はまだまだあるはずで,そのことに思いをはせると,歴史は退屈な科目では決してないと言える.歴史
この世界の片隅にこうの史代双葉社最近公開された映画が人気を博しているという.私にとって衝撃だったのは,戦後生まれの著者(どちらかというと終戦の年より私が生まれた年に近い)が,戦時下の日常を描くということをやってのけた点である.それも,ヒロシマでなく,呉という町で.映画の方はニュースなどで観ただけだが,原作とは絵のタッチが少し違うように感じた.戦争の中にも日常生活があった‐この事実から,戦争について考えることに意味がある.漫画
生きていく上で,かけがえのないこと若松英輔亜紀書房古今東西の名著などに出てくる言葉を引用しながら,眠る 食べる 出す 休む 書く ふれる 悲しむ 喜ぶ 嘆く 老いる 読む 見る 聞く ときめく 忘れる 働く 癒す 愛する 耐える 念ずる 待つ 憎む 見つめる 壊す 祈る の25テーマについて考える.ここにとりあげられるのは各名著のクライマックス(あるいは平凡)な一節の引用に留まるが,そこへ至る,あるいはそこからのひろがる著者の言葉が深い.エッセー
大京都モダニズム観光橋爪紳也芸術新聞社『瀬戸内海モダニズム周遊』の著者による京都編.いまでも京都はわが国を代表する観光地だが,昔から人気があったんだなあということを痛感.鉄道事業者が次々と繰り出す誘致アイディアが面白い.いまでは大型テーマパーク一本勝ちの感があるが,昔は各沿線に家族で楽しめるハレの場があった.それはある意味,贅沢でしあわせな時間だったのかもしれない.観光学

民俗学
真田丸の謎千田嘉博NHK出版大河ドラマ「真田丸」もいよいよ大詰め.史実は変わらない(はず?)なので,大坂方の負けは目に見えているのだが,このドラマばかりは逆の予感.さて,本書のタイトルになっている出城はいまではその跡形もなく想像のしようもないが,城郭考古学の第一人者である著者が,最新調査と資料の新解釈からその実像に迫る.日本史
コーヒーの科学旦部幸博講談社ブルーバックス一日の仕事の始まりは一杯のコーヒーからと,学生時代より決めている(本格的に豆をひいて淹れています)が,それを科学的な視点で考えたことはなかった.本書は,科学論文の知見も引用しながら,自家焙煎店で培われた職人の技術と知恵を徹底分析.本書を読めば,自分好みの味のコーヒーを淹れる秘訣がわかるかも.食品

科学



10月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
生きる哲学若松英輔文春新書NHK教養番組100分de名著に出演されていた若松氏の「弱者へのまなざし」に感銘を受けて手にした1冊.人間の真理についてや,高尚な書物にある難解な言葉について考えることばかりが哲学ではない.本書は,歩く,祈る,見る,聴くといった行為の中に「哲学」を体現した者たちの姿を描く.とりあげられる人物の中に,精神科医の神谷美恵子さんの名があったことが嬉しかった.本書に登場する人物の著作を読むきっかけにもなる1冊.哲学
日本震災史
−復旧から復興への歩み−
北原糸子ちくま新書災害史の研究の第一人者で知られる北原氏の近刊.本書は,古代・中世から近代までの象徴的な自然災害の歴史の記述に留まるのではなく,救済と支援,復旧・復興の技術的進展を具体的に分析しているところに読み応えがある.「歴史は繰り返す」が,果たして,社会の持つ災害への対応力は向上しているといえるのだろうか.歴史

防災
水の旅富山和子中公文庫後期になり環境水工学I(河川工学)の講義が始まり,授業の冒頭で紹介するために読み返した.「木を植える文化」の国・日本のもつ水の文化を,各地の流域でとれる米,酒,鮭,杉とのつながりを通して描く.「水を理解するには一にも現場,二にも現場,三にも現場である」との言葉が非常に胸に刺さった.河川に携わる技術者は是非とも読んでおきたい1冊.
文化

紀行
春の小川はなぜ消えたか田原光泰フィールドスタディ文庫
之潮
♪春の小川はさらさらゆくよ〜・・♪,小学校で誰しも習ったあの曲に歌われる小川が東京・渋谷を流れていたことは最近ちょっとしたクイズ番組などでも取り上げられている.いまやその川は暗渠化され,行き交う人々の目には見えないが,その足元を轟々と流れ続けている.本書は,地理的・歴史的なアプローチから都市河川の姿を明らかにする.歴史

河川工学
東京「暗渠」散歩本田創・編洋泉社川を覆う暗渠−,その蓋の一枚一枚を剥がすかのごとく,丁寧に見ていくと,そこにはかつての東京の風景がよみがえってくる.いや,風景だけではない.川沿いにつくられた自然や生活の足跡までも浮かび上がってくるから不思議だ.本書は「暗渠マニアック!」より数年前に上梓された兄貴分的存在.もちろん「暗渠マニアック!」の著者らは,本書にも登場する.写真もいいが,シブい文章がこれまたステキだ.地理学

サブカルチャー
四大公害病政野淳子中公新書高度成長社会の犠牲ともいえる水俣病,新潟水俣病,イタイイタイ病,四日市ぜんそくの全貌を明らかにする1冊.原因不明であった時代はともかく,自分たちに原因があるとわかってなお目をつぶり,ひたすら利益を追求した企業の歴史が悲しい.“認定”をめぐる国と被害者との訴訟・齟齬は,今もなお続いている.産業史

社会学
銀の世界史祝田秀全ちくま新書世界史は「銀」の流れでつかむことができる−このキャッチフレーズに惹かれて本書を手にした.16世紀に南米ポトシ銀山の開発により銀はまず宗主国であるスペインに流れ込んむ.ここから巡る時空を超えた銀の旅は,明治の近代化や日清戦争につながっていく.歴史の面白さ,ロマンを感じること請け合いの1冊.世界史
基督信徒のなぐさめ内村鑑三岩波文庫明治24年,不敬事件(教育勅語の拝礼を拒否して教職を追われた)で不遇の身にあった内村鑑三が,困窮の中から世に送り出した処女作.逆境にあるキリスト者の見出すべき慰めは何かを問うた魂の自叙伝は,愛するものの失せし時,国人に捨てられし時,基督教会に捨てられし時,事業に失敗せし時,貧に迫りし時,不治の病に罹りし時に,どのように克服すべきか,その思想の過程が綴られている.信じる・信じないを超えて,人生で打ちひしがれた時に,心の伴侶となりうるかもしれない1冊.日本思想

NHK大河ドラマ特別展 図録「真田丸」NHKほかNHKプロモーションNHK大河ドラマ「真田丸」が面白い.いつもなら原作に沿った書籍が出るのだが,三谷作品にはそのようなものはないということで,残念に思っていたところ,大阪歴史博物館で開催中の同企画展で本書を手にした.真田一族のことはもちろん,関が原の戦いや大坂の陣,織豊時代の文化までバランスよく収められている.ドラマのストーリーの展開に忠実なのも嬉しい(というより,ドラマが史実に忠実というべきですね・・).日本史
博物学
長い道宮崎かづゑみすず書房ハンセン病については,北条民雄などの文学作品として扱われるもの以外では,患者でないプロの書き手によるものをこれまで読んできた.患者自身の声は,インタビュー記事などで目にしただけで,まとまった文章を読むのは本書がはじめてであった.ハンセン病療養所長島愛生園で70年余を暮らした83歳の女性が,肉親との思い出,療養所での慎ましい日々の喜びなどを綴る.入所してからも家族と面会できるなどの境遇は比較的恵まれていたのではないかと思うが,感謝の思いあふれる文章から学ぶことは多い.随想
ハンセン病
大津絵
−民衆的風刺の世界
クリストフ・マルケ角川ソフィア文庫大津絵というと,日本舞踊の「藤娘」のイメージでしかなかったが,他にもさまざまなものが対象となっており,庶民絵画として人気を博していたことがわかる.妖怪ほどおどろおどろしくなく,ゆるキャラのようなユーモアを漂わせている大津絵の魅力に迫る1冊.オールカラーがそのいろどりの魅力を鮮明に伝えてくれる.日本美術
民俗学



9月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
日本開国渡辺惣樹草思社文庫江戸時代末期,ペリー提督率いる大艦隊が浦賀に再来航し日米和親条約が結ばれた.開国の目的は,捕鯨船を通じた交易だったと学校の授業では教わったが,本書によれば,中国市場との距離を縮めるべく立案された「太平洋ハイウェイ(シーレーン)」構想の実現にあった.そんなはるかな将来に見通しを立てていた国と戦争するなんて,無茶にもほどがある・・.世界史
日本1852チャールズ・マックファーレン草思社文庫幕末,ペリー来航前に大英帝国の歴史学者が書いた「All about Japan」の本邦初全訳.米英が恐るべき精度で日本のことを把握していたことがわかる.鎖国を続けていた日本だけが,まさに「井の中の蛙」であった.歴史
苦海浄土石牟礼道子講談社文庫水俣病を世に知らしめた1冊で,NHK教育テレビ『100de名著』にも取り上げられた「いのちの文学」.この地に育った著者は,声なき患者とその家族の苦しみを自らのものとして,壮絶かつ清冽(せいれつ)な記録を綴った.ノーベル文学賞は某氏ではなく,石牟礼さんのこの作品が相応しいと思うのは私だけなのでしょうか・・ノンフィクション
高熱随道吉村 昭新潮文庫言わずと知れた土木文学(そんな言葉があるかどうか知らないが・・)の金字塔.本書は,アーチ式でおなじみの「黒四ダム」の下流にある黒部第三発電所を舞台とした話である.昭和11年8月着工,昭和15年11月完工のこの事業は,人間の侵入を拒み続けた嶮岨な峡谷にある岩盤最高温度165度という高熱地帯に隧道(トンネル)を掘鑿する難工事を伴った(犠牲者は300余名).技術者たちの執念と大自然の猛威とが対決する構図にページをめくる手が止まらない.記録文学
暗渠マニアック!吉村 生
高山 英男
柏書房10月に著者らを招いての「どぼくカフェ」を前に,予習?のため本書を手にした.暗渠はもともと川だったところが多く,そこを辿ればかつての地形が見えてくる.ドブ臭いところは,人間臭い空間でもあるとの思いを強くした.神戸市内にもたくさんの地下河川が流れているということで,来年度の卒業研究では是非これをテーマの一つに取り上げたい.地理学

サブカルチャー
ライン河幻想紀行ユゴー岩波文庫シュツットガルトでの国際会議参加を機会に,列車でライン河沿いを往復した.たくさんの船の往来を目の当たりにして,舟運さかんな国際河川の姿に感動した.本書は,文豪ヴィクトル・ユーゴーによる170年前のライン河のスケッチ紀行である.本文もさることながら,時折のぞかせるユーゴー自身の手によって描かれたスケッチがいい.そしてその景色の多くが,今日でも楽しめることに畏敬の念を覚えずにはいられない紀行文
車輪の下ヘッセ岩波文庫ヘッセといえば,中学校の国語の教科書に載っていた『少年の日の思い出』が印象に残っているが,本書は,その題名が暗示するように,周りの人々から期待されその期待に踏み潰されてしまった少年の姿を描いたものである.ヘッセ自身の体験をもとに書かれた自伝的小説といわれるが,彼の人生は,この小説の主人公のようなアンハッピーな結果にはならずに済んだ.それは,周りに支えてくれる人がいたからだと言われている.ドイツ文学
森と山と川でたどるドイツ史池上俊一岩波ジュニア新書以前,著者の『パスタでたどるイタリア史』や『お菓子でたどるフランス史』(同 新書)が大変ユニークで面白かったので,それに期待して本書を手にした.「森と山と川」という視点にも惹かれた.結論から言えば,前回の2作に比べると,地味な仕上がりだったかなと思う.やはり食べ物の魅力には叶わないということだろうか.それでも,かの国の,特に思想や生活習慣の面をこれらの自然が形づくったのは間違いないと感じた.石畳の肌寒い街を歩いているとなんとなく「哲学」したい気持ちにもなるのもうなずける.地理学



8月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
川の博物誌高山茂美丸善10月にとある講演イベントで川の話をすることになり,ネタ探しも兼ねて手にした.往年のベストセラー『理化年表』の読み物シリーズとして刊行された本書は,河川にまつわるさまざまなエピソードがわかりやすく述べられている.川ガキから川を専門にする研究者・技術者まで,幅広い読者層の期待に応えてくれる1冊.自然科学
まるごととれたて日本語談義桐島 周勝木書店高専在学中に国語の授業でお世話教わった先生が上梓(じょうし)されたことを偶然FBで知り,さっそく取り寄せてみた.ラジオ番組の企画コーナーを再現したものだが,その内容は,私にとって興味の尽きることがない「国語」と「鉄道」にまつわる話がほとんどで,一気に読み終えたことは言うまでもない.もう一度,この先生の授業や作文指導も受けてみたいな.私ももう,エエ歳やけど・・.国語学
辞書になった男−ケンボー先生と山田先生佐々木健一文春文庫主人公は,見坊豪紀(けんぼう ひでとし)と山田忠雄.わが国を代表する国語辞典『三省堂国語辞典』と『新明解国語辞典』の著者である.二人は東大の同期で,元々一緒に同じ辞書を作っていた.それがどうして袂を分かつ結果になってしまったのか.本書には小説よりも奇なるドラマが描かれる.別れて以来,一切会わなかった二人だが,お互いにどこか意識し続けていたのではないかなと思う.好敵手とはかくあるべきということを伝えてくれる1冊.ノンフィクション
京都の凸凹を歩く梅林秀行青幻舎京都高低差崖会の崖長で,人気番組「ブラタモリ」にゲストとしてこれまで最も多く出演されている筆者による京都のまち歩き本.地形に隠された古都の秘密が明かされる.学年行事で京都を訪れる際のルート選定にも是非活用してほしい.地形学
山びとの記
−木の国 果無山脈−
宇江敏勝中公新書新神戸駅の近くにある「竹中大工道具館」の図書コーナーで目にし,中古本を入手した.祖父から三代にわたる炭焼きをはじめ,「きのくに」(木の国)・熊野の山々を遍歴する山びとの労働と生活が描かれる.おそらくここに描かれるような暮らしは,国内のどこを見渡してもほとんど残されていないのではないだろうか.「生業」(なりわい)とは何か,考えさせられる1冊.民俗学
日本文化の形成宮本常一講談社学術文庫フィールドワークで日本列島をくまなく歩き回った民俗学の巨人による新しい日本文化論.『古事記』『日本書紀』『万葉集』『風土記』などの古代文献をもとにした考察が大変ユニークでいまなお色あせてはいない.民俗学
海の教科書柏野祐二講談社ブルーバックス海水はなぜ塩辛いのか,波はどうして起きるのか,潮の満ち引きの不思議などなど,一般の人々にはあまり知られていない海の姿を,最新科学でわかりやすく解説.海洋学の入門テキストとして最適.自然科学
天平の甍井上靖新潮文庫唐招提寺を訪れたのを機に本書を手にした.鑑真来朝という史実をもとに,翻弄される僧たちの運命を描く.井上氏の作品は中学校の国語の教科書で読んで以来.氏の手がけた歴史小説は初めてだが,ロマンと儚さのあふれる筆致に感服した.日本文学



7月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
夜を乗り越える又吉直樹小学館よしもと新書お笑い芸人で芥川賞受賞作家の又吉さん.彼の著作はこれまで1冊も読んだことがなかったが,テレビやネットなどで時折ふれる読書に対する彼のコメントに共感するところが多かった.本書は,「なぜ本を読むのか」「文学の何がおもしろいのか」「人間とは何か」といったテーマに対する考えが書かれている.彼自身,多くの文学との出会いの中で,様々な夜を乗り越えて生きてきたというが,「自分」に向き合うことの大切さがよく伝わってくる.読書は,その際の手助けの一つの手段になりうるものである.読書論

エッセー
徳川社会のゆらぎ倉地克直小学館江戸時代といえば,成熟した社会であり「太平の世」であったイメージを描きがちだが,実際はそうではなかった部分も多い.本書では,相次ぐ地震・火災・水害・旱魃・飢饉に動揺する庶民と,「公儀」の名において復興や救済を行なう幕府の姿が描かれる.日本史
日本建築入門
−近代と伝統−
五十嵐太郎ちくま新書本書は建築史・建築批評の第一人者である著者が,オリンピックや万博などでの日本のシンボリックな有名建築をとりあげ,それらの議論を詳細に追う.建築というのは,工学である点では土木と同じジャンルだが,芸術や文化でもある点でこれとは異なるように感じた.建築学に興味のある学生は是非.建築
高校野球を100倍楽しむ
ブラバン甲子園大研究
梅津有希子文藝春秋甲子園球場はプロ野球某人気球団ではなく,高校球児にとっての「聖地」であると考えているのは私だけだろうか.春と夏,年2回必ず観戦に訪れるのは,ゲームそのものももちろんだが,アルプススタンドの応援をライブで聞くためでもある.スタンドの熱気に「若さ」「青春」を感じ,元気をもらえること請け合い,本校の学生には是非一度足を運んで,その活気に触れてほしいと願う.本書は,伝統校の定番応援曲の隠された秘密など盛り沢山で,読めば必ず,甲子園で聴きたくなるはず・・.サブカルチャー
松永安左ェ門―自叙伝松永安左ェ門日本図書センターどこの世界にも「○○の鬼」(うちの学科にも,学生から「土質力学の鬼」とか「水理学の鬼」とか言われている先生がいますが・・)がいる.本書で取り上げられる松永安左ェ門氏は,戦前の電力事業に携わり,「電力の鬼」や「電力王」などと呼ばれた.ピンチをくぐり抜けるたびに成功のヒントを掴んだ彼は「小説にしたら最も面白い男」とさえ言われたという.ところで,彼の出生地・長崎県壱岐には彼の名を商品名にした麦焼酎が作られている.ラベルには「電力の鬼」の字も.メチャクチャ度が高そうだが,是非一度飲んでみたいものだ.自伝
漱石追想十川信介岩波文庫近代日本文学のお気に入りの作家は誰かと尋ねられれば,私なら間を置かず「夏目漱石」の名を挙げるだろう.本書は,同級生,留学仲間,同僚,教え子,文学者や編集者,禅僧に担当医に芸妓(!),ともに暮らした家族やお手伝いの人まで―同じ時間を過ごした49人が,それぞれの記憶の中にある素顔の漱石を語るもの.やっぱり漱石には人間的な魅力的があるとつくづく思った.随想
日本人のための怒りかた講座パオロ・マッツァリーノちくま文庫本書で紹介されている「叱り方の3原則」が参考になる.原則@は「真面目な顔で」,原則Aは「すぐに」,そして原則Bは「具体的に」.叱るということ−これ今の教育の現場でもなおざりにされているように感じるので,この夏休みの教員の課題図書にしてはどうだろうか.日本人論
凹凸を楽しむ 大阪「高低差」地形散歩新之介洋泉社『東京「スリバチ」地形散歩』の姉妹編?大阪高低差学会の「おせわがかり」(会長?)をされている著者が,一見,平坦と思われがちな大阪の地形から凹凸を見出し,その魅力を伝える.道明寺などの郊外にも足を延ばして,是非,続編が出ることを期待したい.地形学



6月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
第二次世界大戦外交史芦田均岩波文庫芦田均は,日本国憲法が施行されてから2番目の内閣総理大臣であり,外交畑から政界入りした人物である.本書は,第二次世界大戦下の世界各国が展開した外交の全貌を描く記録誌.こんなに冷静に世界情勢を俯瞰できる人物がいながら,戦争への道を突き進んでしまったのは,やはり軍部の独走によるところが大きかったのだろうか.外交の立場から描かれた「第二次世界大戦史(太平洋戦争史)」ともいえる本書は,わが国の近現代史を知る上で外せない1冊である.近・現代史
これだけは見ておきたい日本の産業遺産図鑑二村悟平凡社全国各地に点在する鉄道・工場・水道などの日本近代化産業遺産を,豊富な写真と解説で紹介してくれる1冊.出張の際には,是非持ち歩きたいということで,浜松出張の際に,ここに紹介されている旧・住吉浄水場関連施設に早速行って来ましたよ.サブカルチャー
地形で謎解き! 「東海道本線」の秘密 竹内正浩中央公論新社世の中「ブラタモリ」ブームで,ちょっとマニアックなまち歩きなどが各地で流行っている.明治以降に敷設された鉄道路線の経路もまた,「まちあるき」のような楽しさを味わうことができる.東海道新幹線はわが国随一の大動脈であり,その路線からは,これを実現するための先人たちのさまざまな工夫や苦労が見えてくる.昼間に乗るなら,スマホとか爆睡とか,とてつもなくもったいない・・.まばたきすらもったいない.是非,車窓からの眺めに目を向けて.地形学
18歳からの民主主義岩波書店編集部・編岩波新書今年の夏の参議院選挙から,参政権が拡大され18歳から投票に行けることになった.高専でも3年生の一部,4年生以上の全員にこの権利が与えられる.学校でも「模擬投票」なんかやったりしていたけど,形式的なリハーサルのようで,「まつりごとに参加する」ことの本質には触れられていないように感じた.本書は,お偉い先生がただけでなく,若者も含めたさまざまな世代の人々が「センキョ」のついてわかりやすく解説してくれる1冊.投票所に行かないわりに世の中に文句ばかり言っている大人にも是非.政治学
18歳から考える国家と「私」の行方松岡正剛春秋社松岡正剛氏のことを知ったのは,「千夜千冊」という一日一冊の書評を千日続けるというプロジェクトであった.この企画は今も続いていて,ネットで閲覧することも可能である.本書は,そんな本を読みまくっている氏による近現代史論.リスク社会,金融工学,中国,IS(イスラミックステート),インターネット,安保などなど,現代を取り巻くさまざまな社会の問題を18歳にもわかりやすく解説.氏の「引き出し」の多さに圧倒され,知的好奇心をくすぐられること間違いなしの1冊.文明論
関西人の正体井上章一朝日文庫今年2月に発表された新書大賞2016の受賞作『京都ぎらい』の著者の本.新しい視点での関西文化論といったところだが,好き嫌いはわかれるだろう.大阪贔屓の私は,ちょっと苦手な印象を持った.本音で書かれていると言ってしまえばそれまでだが,少し品がないようにも感じた.ところで,神戸の人は大阪と括られることをものすごく嫌う印象があるが,同じ関西人とちゃいまっかと思うのはマズイんやろか?文化論
夫婦で行くイスラムの国々清水義範集英社文庫高専時代にお気に入りだった作家の一人に清水義範さんがいる.有名作家の作風(文体)を模倣するパスティーシュ作家として有名だが,私はむしろ,日本語や名古屋弁をテーマにしたものや,理系の話題について文系視点の素朴な疑問からそれを解決していくような作品を好んで読んでいた.社会人になってから特に理由もなく読む機会がなかったが,先日ひょんなことで標題の本を手にすることに.最近はこうした夫婦で海外旅行された際の見聞をネタにしたエッセイを出されているようだ.最近何かと話題のイスラムの国々のこと,よくわかります.作品の節々からにじみ出る好奇心がステキだ.紀行エッセー



5月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
幕末遣外使節物語
−夷狄の国へ−
尾佐竹猛岩波文庫江戸時代末期,外国奉行として日米修好通商条約の批准書を交換する正使の大役を帯びた新見(しんみ)豊前守とその一行は,初めてアメリカを巡行する.サムライたちは,言葉や風俗の全く異なる文化に驚きながらも日本人としての矜持を持ちつつ西洋を理解しようと努める.本書はそのときの日記類,新聞記事等の資料をダイジェストで紹介したもの.幕末のロマンあふれる1冊.日本史
神と肉
−日本の動物供犠−
原田信男平凡社新書私たち日本人は,古来,肉を食べない民族だと考えられてきた.肉は穢れであり,日常から遠ざけるべきものと長いこと意識されてきたという.本書はこうした通説を否定し,実際には肉が食されてきたことを各地域の事例を引き出しながら紹介している.その名目としての「動物供犠」の歴史や農耕との関係などが描かれている.食べ放題はなかったかもしれないけど,みなこっそり?やっとったんですね.民俗学
風土記の世界三浦佑之岩波新書風土記とは日本の奈良時代に地方の文化風土や地勢等を国ごとに記録編纂して,天皇に献上させた報告書のことである.『出雲国風土記』がほぼ完本として残っている(あくまで写本ですが・・)ほか,『播磨国風土記』,『肥前国風土記』,『常陸国風土記』,『豊後国風土記』の4つが一部欠損して残る.本書は各書の特徴を明らかにし,生き生きとした古代の姿が描かれる.『播磨国風土記』は滑稽譚が多いとされるが,それはやはり関西だからか?日本史
ブッダが説いたことワールボラ・ラーフラ岩波文庫大台に乗ったのを機に,仏像めぐりにはまっている.そんな中,「仏教とはなんぞや」との思いに至り手にした1冊.本書はスリランカ出身の学僧によって書かれたもので,仏教の基本的な教えが体系的に説かれていて読みやすかった.他の宗教の存在を認める太っ腹さが気に入った.なお,本書は英語圏では最良の仏教概説書という位置づけにあり,西洋の立場から東洋起源の宗教の姿が描かれる.宗教
逸翁自叙伝
−阪急創業者・小林一三の回想
小林一三講談社学術文庫またまた面白い自伝を見つけてしまった.阪急グループの創業者,小林一三氏はアイデア経営者として知られるが,慶應義塾に学んだ若き日は小説をものする文学青年であった.卒業後,三井銀行に入るも評価されず,放蕩に明け暮れる問題行員だった.徐々にその才覚をあらわしていくのだが,それには本人の努力や運もあっただろうが,大物を醸成する,時代の「懐の深さ」もあったのではないかと思われる.自伝
奈良の寺
−世界遺産を歩く−
奈良文化財研究所岩波新書奈良文化財研究所の研究者による最新(といっても,10年以上前に出た本ですが・・)の知見を盛り込んだ一般向けのユニークな案内書.ところで,京都にも奈良にも有名どころの寺社が多くあるが,私は個人的にはなぜか奈良の方が落ち着くと感じますが,それは何故?日本史
日本美術
道と川の近代高村直助山川出版社いまや日本では川は水が流れているところでしかないが,昔は重要な交通手段の一つであった.本書は1995年に行われた史学学会大会日本史近現代部会シンポジウムでの内容をまとめたもの.明治前期における川と道路をめぐる諸問題をさまざまな角度から検討しているところが素晴らしい.土木はやっぱり歴史が大事.土木史
群青の海へ−わが青春譜平山郁夫中公文庫)薬師寺の玄奘三蔵院壁画などの作品で知られる平山郁夫さんの自伝.広島での被爆,迷いと苦闘,仏教画への第一歩とシルクロードへのはるかな旅立ち,自らの半生の軌跡をたどりながら,「仏教伝来」以来の壮大な画業の内面が描かれる.自らの被爆体験が,その後の活動や作品のテーマにあらわれているのではないかと感じた自伝



4月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
家紋の話泡坂妻夫角川ソフィア文庫我が家の場合は「三つ柏」だが,日本には実は様々な柄がある.日,月,星の天文から雪や波などの自然,はたまた植物や花々,身の回りの品々まで.究極の日本のデザインともいえるその世界の魅力をあますところなく伝える1冊.自分の家の紋にどういう言われや願いが込められているのか調べてみると面白いかも.民俗学
日本文化
海洋大異変山本智之朝日選書私たちの食卓にのぼる水産物に,今どんな異変が起きているのか?本書は,ガラパゴスから南極まで綿密な取材を重ねた朝日新聞記者が脅かされる日本の海洋資源の最前線を明らかにする.著者の取材力が秀逸で,事の深刻さがひしひしと伝わってくる.これからの海との付き合い方について深く考えさせられる1冊.環境学
幼き日のこと

青春放浪
井上靖新潮文庫『しろばんば』などの自伝的作品は中学校の国語の教科書にも取り上げられていて読んだ人も多いのではないか.これらの作品に描かれる思春期の繊細な心や淡い恋心など,共感するところは多かった.本書は,そうした作品の下地にもなったであろうと考えられる井上氏自身の人生が描かれる.自伝
「日本人」という,うそ山岸俊男ちくま文庫「勤勉」とか「義理固い」など,「日本人は本来〜である」というような「日本人論」は果たして本当なのか?本書は,既に植えつけられている日本人像を心理学の面から鋭く検証した1冊.勝手なイメージに踊らされてはいけないということは,異国の人々に対する像についても同様である.日本人論
シッダルタヘッセ岩波文庫ここに描かれるのはシッダルタの人生探究の物語であるが,驚くべきはそれがドイツを代表する文学者へルマン・ヘッセの手によって描かれたという点である.彼の深いインド研究と詩的直観とが融合して生み出された傑作は,東洋の心の結晶とも言うべき作品に仕上がっている.小説
伝記
曲線の秘密松下恭雄講談社ブルーバックス「自然は曲線を創り人間は直線を創る」とは湯川秀樹博士の有名な言葉だが,自然や宇宙を知る上においては曲線というものを捉える必要がある.本書は「太陽系とケプラーの3法則」「ピタゴラスの定理からフェルマーの最終定理へ」などといった数学・物理でおなじみの話題の中にある「曲線」の秘密に迫る.数学



3月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
隔離の記憶−ハンセン病と いのちと 希望と−高木智子彩流社ひょんなことがきっかけで人からプレゼントされた1冊.ハンセン病のことについて関心があるというと,「是非」と薦められた1冊.帰りの電車の中で一気に引き込まれ,グイグイ読んだ.著者は某新聞社の現役記者だけに文章がむちゃくちゃ巧い!ハンセン病の療養所(=隔離の施設)で想像を絶する絶望の淵を生き抜いた人々の姿が描かれる.もう少し早く出会っていれば,HRの人権教育で取り上げたかった.社会学

ハンセン病
青空娘源氏鶏太ちくま文庫遠い遠い昔,私が中学生だった頃に偶然テレビで見かけた映画が印象に残っている.『青空娘』(大映,1957年)である.見た当時は白黒の印象だったが,本作は総天然色(カラー)である.高校を卒業したばかりのヒロイン(若尾文子)が本当の母親探しに出かけるのだが,これがまたシンデレラの話にそっくり.なかなか味のある青春映画で,何よりどんな逆境にもめげないヒロインの健気な生き方に胸を打たれます.本書はその原作で,読んでみて映画が忠実に作られていることを改めて感じた.小説
四国遍路森正人中公新書恥ずかしながら四国には7年間も住んでいながら,お遍路さんにはほとんど参っていない.本書は,空海が起こしたとされる日本最大(いや,世界最大かも)の巡礼文化とその歴史,秘められた伝説に迫る.角川ソフィア文庫から出ている『四国遍路』(五来 重・著,上下2冊)も読み応えがあっておススメ.宗教学

民俗学
仏像に恋して真船きょうこ中経文庫わが家には,奈良・中宮寺の弥勒菩薩半跏思惟像の写真が飾られているが,私自身はあまり興味を持たなかった(センスのない私には学校の美術の授業はどちらかといえば苦痛でした).偶然本屋で手にした本書に「面白そう」と思い,家族も読むだろうと思って購入した.ほんわか系漫画だが,仏像の描写はかなりリアルで,読んでいてタメになる.また1人お気に入りの(おススメの とも言える)漫画家が出来た.次はいよいよ実物を拝みに寺社に行かねば.美術
しがまっこ溶けた金正美NHK出版本書は,ハンセン病を患い身体が不自由な詩人・桜井哲夫さんと,彼を献身的に支える筆者の心の交流が描かれる.まさに言い得て妙のタイトルだ.本書は私が学生時代に見て衝撃を受けたドキュメンタリー番組の内容が中心になっている.本番組の再放送も是非望みたいものだ.社会学
京都ぎらい井上章一朝日文庫2015年度の新書大賞受賞作.ベストセラーには手を出さない主義だが,お国柄とか県民性にはもともと興味があるので読んでみた.洛外に生まれ育った著者だから表現しうる洛中の「花」と「毒」.私は嵐山などの方が好きなので,洛中のことはどうでもいいやという感じだが,それにしても,ヨソ者にとって京都は実に恐ろしいところである.サブカルチャー
つなみ
-5年後の子どもたちの作文集
企画:森健文藝春秋震災直後に出版された作文集に寄せた子どもたちの5年後の姿.みなたくましく育っているのに安堵する一方,復興が思うように進んでいない事実があることも垣間見える.こうした仕事はその時でないとできないもので,企画した森さんのGood Jobぶりには脱帽の思いでいっぱいだ.10年後も是非「続編」を読んでみたい.東日本大震災
生涯を賭けるテーマをいかに選ぶか最相葉月ポプラ社最相葉月さんは最近になって気に成りだしたノンフィクション作家の1人.本書は,第一線で活躍する科学者たちが,どのような視点でものを考えているのかを明らかにする.星新一さんの「要素分解共鳴結合」と『空白の天気図』に描かれた観測者精神の話が特に印象に残った.こんな講義が生で聴ける東工大の学生がうらやましい.ビジネス
美しい都市・醜い都市―現代景観論五十嵐太郎中公新書ラクレ卒業認定,進級認定を終え平静を取り戻した専門科棟で,ある掲示が目に付いた.それは,とある専門科目の再評価の課題についての告知で,『美しい都市・醜い都市−現代景観論−』(五十嵐太郎・著,中公新書ラクレ)を読んで要約し,あなたの考えを述べよというものだった.韓国・ソウルの清渓流(チョンゲチョン)復元プロジェクトの話題などが書かれ,ちょうど10年ぐらいに話題になった本である.こういう本を読める機会を新たに与えられることはむしろラッキーだと思う.誰かが薦める本には必ず得るところがあるはず.単位取得の学生も,未履修の学生も是非.風景論



2月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
兵庫を築く−あなたの近くの土木・建築ものづくり−兵庫県建設業協会・編兵庫県建設業協会兵庫県内のさまざまな土木・建築遺産を,カラー写真と解説で紹介するガイドブック.阪神地区だけでもかなりの数にのぼる.「都市工学概論」を受講する1年生におススメしたい.現物を実際に目にすれば,都市工学に対する思い入れも一層深くなるはずだ.土木史

建築史
世界史ウィリアム・H・マクニール中公文庫少し前の話になるが,複数の高校で世界史の履修がないがしろにされていたことが明るみに出て話題となった.いまは高専でも世界史を習うようだが,グローバルな社会にその素養は必要でしょう.私自身は,中学で教わった歴史レベルに留まっている(当時の高専では世界史の授業はありませんでした).その反省も込めて,この1冊.世界で四十年余にわたって読みつづけられているらしい.地図・写真が多数収録されているのが嬉しい.歴史
娘と私獅子文六ちくま文庫NHK連続テレビ小説「あさが来た」がなかなか好調なようである.ところで,NHK朝の連ドラの記念すべき第1回作品はご存知だろうか.それがこの本である.小説といっても,昭和の文豪・獅子文六の自伝である.激動の昭和初期から戦後の時代を描いたクロニクル(年代記)として読むのもいいだろう.タイトルからは,本人と娘さんの関係を綴ったものかと思いきや,本書は継娘を育てあげ世を去った妻に捧げるものとして描かれる.クライマックスではハンカチのご用意を.小説
世界のしゃがみ方
−和式/洋式トイレの謎を探る−
ヨコタ村上孝之平凡社新書数年前の専攻科実験で,トイレのマナー向上に取り組んだ班があった.いまもその名残でポスターなどが貼られている.大きい方(食事中の方,スミマセン・・)の個室?の壁に貼られたポスターに「こんな使い方はないやろ!」と思わず笑ってしまったのであるが,世界各地のトイレには実に変わった事例があるようだ.本書はその珍事情を紹介するだけでなく,その背後に潜む文化的・社会的事情について考察している.トイレに持ち込んだら,思わず長居してしまうかも.社会学

身体論
南海トラフ巨大地震山岡 耕春岩波新書迫り来る巨大災害,近畿地方には今後30年以内に70%以上の確率で発生するとされる.この地震によって,何が起きるのか,どう備えるのかが,本書ではわかりやすく書かれている.「防災工学」,そして「高専生のための防災減災入門」を履修した学生は必読の1冊.とすると,本校の学生全員が対象になるかな.科学
僕は考古学に鍛えられた森 浩一ちくま文庫昨年,狭山池にまつわる講演を聴く中で筆者・森浩一先生のことが印象に残った.自分の生まれ育った地の近くに偉大な考古学者がいることを知り,手にした1冊.先生が,考古学の道に進むことになったのは,小学校五年の時に近くの川で拾った土器のかけらがきっかけであったらしい.私も同じように子どもの頃は近くの川でいろんなものを拾った経験があるが,それ以上の興味には至らなかった凡人である.南河内周辺での発掘体験記は同郷の私にとっては非常に面白かった.各部の冒頭に筆文字で書かれた言葉なんかも,学問に対する気構えが示唆されているようで,これを読むだけでも十分に価値がある.自伝
日本病金子勝・児玉龍彦岩波新書経済学者の金子さんは,テレビやラジオで時々コメントされているので,知っている人も多いのではないか.いつも冷静で,大衆の意見とは違った切り口から自論を展開される印象がある.本書によれば,日本経済は「長期停滞」から「長期衰退」の時代に入り,いまや「日本病」とも呼べる状態に陥っているという.国の将来は人任せではなく,国民一人ひとりが考えて選択していくことが必要だろう.相方の児玉先生は動脈硬化遺伝子の研究で世界的に名高い医学者で,ユニークな視点で日本という「満身創痍な病人」の治療法について述べている.経済学
美味礼讃海老沢泰久文春文庫辻調理師学校の創始者である辻静雄の半生を綴ったノンフィクションである.新聞記者だった辻は,義父の経営する料理学校を手伝ううちに料理の素晴らしさ,奥深さに目覚め,やがて自ら調理師学校を創立するに至る.パイオニアの苦労・バイタリティが描かれた労作.ところで「美味礼賛」と題する本は,ブリア=サヴァランの著作もある(岩波文庫,全二冊).食事にまつわる事柄に哲学的考察を進めてゆくこちらの随筆集も是非.ノンフィクション



1月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
アメリカの鏡・日本ヘレン・ミアーズ角川ソフィア文庫戦後GHQの一員として来日した女性による日本論.明治維新後,列強に追いつけ追い越せと躍起になっていた東洋の小国が,なぜ戦争への道にはまり込んでいったのか,非常に冷静に,そして公平に分析している.マッカーサーが本書の邦訳を禁じたのも,占領政策を思い通りに進めるのに不都合だったからだろう.日本が戦争に負けてしまったのは単なる物資力の差ではないなと感じた.人種のるつぼといわれるかの国には,どのような時代にあっても立派な人はいるものだ.歴史

社会学
へたも絵のうち熊谷守一平凡社ライブラリー極度の芸術家気質で貧乏生活を送り,「画壇の仙人」と呼ばれた画家・熊谷守一(くまがい もりかず,1880− 1977).「熊谷様式」といわれる,描く対象を輪郭線で区切る手法は非常にシンプルだが,どこか見る人を惹きつけるものがある.彼自身は,自分の画風を「下手も絵のうち」と表現した.そしてこんなことを語っている.「下手といえばね,上手は先が見えてしまいますわ.行き先もちゃんとわかってますわね.下手はどうなるかわからない.スケールが大きいですわね.上手な人よりはスケールが大きい」−ならば,下手でもいいのかと少し安心.エッセー

自伝
少年の夢梅原猛河出文庫梅原さんの講演録はこれまでにも何冊か読んだことがあるが,大変わかりやすくてよい.本書は,高校生と小学生に行なった「少年の夢」と「学問の楽しさ」の2つの講演が収録されている.未知の可能性を拓くにはいかに「夢」を大切に育てるか,「学び」とはどういったことか(少なくとも試験でいい点をとることではない),高専生にも是非触れて欲しい文章だ.エッセー
自伝を読む斎藤 孝筑摩書房かつて「声に出して読みたい日本語」シリーズで一斉を風靡した斎藤先生の読書案内.本書には福澤諭吉,ドラッカー,フランクリンからマイルス・デイビスや高峰秀子まで,「自伝マニア」の著者が選び抜いた傑作が並ぶ.個人的には荒畑寒村とか鈴木貫太郎も入れて欲しかったな.読書案内
新版 日本の自然8
自然の猛威
町田洋

小島圭二
岩波書店来年度の授業計画を考えるのに参考にした岩波書店の「日本の自然」シリーズが秀逸で,今更ながらこのような本が出回っていたことに驚き,そして自身の不勉強さを恥じ入った.なかでも本書は,自然災害について取り上げられている.旧版と新版があり,内容もかなり違う(例えば,1996年に出た新版には兵庫県南部地震や奥尻島の津波災害について触れられている)ので,両版を読むことをおススメする.自然科学
日本の神々松前健講談社学術文庫講談社学術文庫としては新刊だが,40年ほど前に書かれたものである.だが,少しの古さも感じさせないところがスゴイ.本書に描かれるのは,イザナギ,イザナミ,アマテラス,そしてスサノヲが中心で,八百万の神々が紹介されているわけではない.一地方で尊崇を有していたに過ぎなかったこれらの神々は、いかにしてメジャーになっていったのかがわかる1冊.民俗学
力士の世界33代木村庄之助角川ソフィア文庫初場所は10年ぶりに日本人力士の優勝で幕を下ろした.うちの学生に聞いてみると相撲にはあまり興味がないご様子.「国技やぞ」っての思いで本書を手にした.長く行司を務められた筆者が大相撲の魅力を持て余すことなく紹介.相撲を通じて,日本の文化についても学べる.歴史

日本文化
気象庁物語古川武彦中公新書明治初頭に誕生した気象台は,科学技術の進歩とともに経験を積み重ねてきた.幾多の天災と戦争をバネに進化し続けてきた「戦う技術官庁」と熱き「天気野郎」の140年のドラマに迫る.歴史

気象
日本列島人の歴史斎藤成也岩波ジュニア新書歴史の教科書では,過去から現代に向かって記述されるのが普通だが,本書は現代から過去に向かって,日本人のルーツを解き明かしていく点がユニークだ.また,人々の移動を引き起こした政治的中心地の変遷といった社会学的な見方,古今の列島人や近隣地域の人々のゲノム解析といった自然科学的アプローチによって,列島人の起源へと迫ろうとしている点も面白い.文系・理系と分けるのではなく,縦横断的に学問することの大切さや楽しさを伝える1冊.歴史

人類学