Uno's Lab.

ようこそ 神戸高専 都市工学科 宇野研究室へ。
当研究室では、河川、沿岸域の水辺の環境保全・防災に関する研究を行なっています。.
明石海峡 夙川 伊川 ハクセンシオマネキ 加古川 成ヶ島

2015年 読書記録

願わくば,学生時代に一日のたとえわずかでもよいから本を読む習慣をつけてもらいたい. ちなみに私は,行き帰りの通勤電車が「読書部屋」となっている.

12月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
歴史の中の狭山池
−最古の溜池と地域社会−
市川秀之清文堂11月に開催された河川文化講演会で,狭山池博物館の副館長さんの話を聞いた.子どもの頃,この池のほとりには遊園地があり,特に冬にスケートができることで知られていたが,肝心の池には目が行ってなかったように思う.講演を聴いて,いまなお現役の偉大な土木遺産であることがわかった.なお,博物館は無料であるし,水利土木のついての常設展は一度は見ておく価値があるでしょう.是非.土木史
小僧の神様志賀直哉岩波文庫国語の教科書でおなじみの志賀直哉.「小僧の神様」を書いた彼は,「小説の神様」と言われ,のちの多くの文学者に影響を与えた.この岩波版には,「小僧の神様」「清兵衛と瓢箪」「城崎にて」にてなど,著者が自ら選りすぐったとされる11編が収められている.自分の中では,「正義派」がベストだった.いずれも短編なので,どこからでも読み始められるのがいい.日本文学
日本史探訪20
幕末に散った火花
角川書店編角川文庫高専に入りたての頃,毎週金曜日に担任の先生の部屋を訪れ「日本史探訪」シリーズを借り,週末に寮で読み切るということをやっていた.普段は「純文学を読め」とか「1日1冊岩波文庫」としか言わない先生が,面白いからという理由で全22巻のこのシリーズを勧めてくれた.あれから20年以上が経ち,史実としては変わってしまった部分もあるかもしれないが,やはり面白い.特に18巻以降の幕末から明治にかけての時代は本当に面白い.ちなみに本書には,白虎隊,新撰組,白虎隊などの話が収められている.歴史
駅の社会史原田勝正中公文庫駅は,人が集散する結節点であり,次の行動への幕間としての役割を果たす.本書は,明治五年の鉄道開通にはじまる駅の変遷をたどり,日本の近代化の特質を明らかにする.私の中での駅の思い出といえば,学生時代のステ・ビバ(station bivouac)かな.駅で野宿するというドキドキ感がたまらなかった.今ではなかなかそういうこともさせてもらえないようだが・・.社会学
里山資本主義藻谷浩介

NHK広島取材班
角川選書技術士会の主催する講習会で本書の著者の藻谷さんの講演を聴いた.冒頭は何が言いたいだかよくわからなかったが,次から次に展開される話に次第に引き込まれていく.あ〜,授業でもこういう惹き付けができたらなあ.「目からウロコが落ちる」とはこのことか!と思う充実した講演であった.講演会の帰りにさっそく書店に立ち寄って本書を手にする.里山資本主義とは,「お金が乏しくなっても水と食料と燃料が手に入り続ける仕組み,いわば安心安全のネットワークをあらかじめ用意しておこうという実践」のことである.これがうまく行けば,地域の活性化につながるかもしれない.社会学
経済学
やなせたかし小島慶子筑摩書房アンパンマンの著者やなしたかせさんの伝記である.既に読んだやなせさん自身による『アンパンマンの遺書』でほぼわかっている話が多くこれといった発見はなかった.ただ,やなせさんは,やはり他者へのまなざしがやさしい,その一言につきます.子どものころにアンパンマンに親しんだ人は是非.アンパンマンよりも面白いエピソードが詰まっています.伝記
大世界史池上彰

佐藤優
文春文庫最近の大学では,文学部よりも理工学部の方で,「教養=リベラル・アーツ」を重んじる傾向にあるように思われる.本書は,社会人として知っておきたい世界史がコンパクトにまとめられている.対談形式で読みやすいのと,最後にお二人のおススメ本が載せられているのがいい.ここに挙げられている本は是非読むべし,です.歴史
田中希代子
−夜明けのピアニスト−
萩谷由喜子ショパン演奏することはまったく叶わないが,時おりピアノ演奏に耳を傾けたくなることがある.最近ひょんなことがきっかけで,終戦間もない時期に,ショパン国際ピアノコンクールに日本人として初入賞したほか,数々の国際舞台で活躍された天才ピアニスト・田中希代子さんのことを知った.彼女はまた,将来を嘱望されながらも36歳の若さで膠原(こうげん)病を発し,演奏家としての生命を絶たれてしまった悲劇のピアニストでもある.この自伝の前半に描かれる華やかな時代の話もいいが,病気をしてからの彼女の生き様に胸を打たれる.伝記
科学の文化史平田寛朝倉書店私たちは,つい短絡的に理系・文系とわけたがるが,両者は決して独立しているものではない.とりわけ自然科学は,哲学・思想を切り離して考えられるものではない.(そう感じるなら,それはまだ学びとしては浅いのではないかと思う).本書は,年代順に科学が発展してきた過程をわかりやすく解説してくれる.文字の役割や数学の役割などがわかる目からウロコな1冊.科学史
地図で読む国際関係眞淳平ちくまプリマー新書日本を取り巻く緊迫した世界情勢を,その地理的・歴史的背景をもとにした豊富な地図や資料でわかりやすく整理している.国土の広さを示す世界地図とはまた違った形のイメージが見えてくる.また,新聞やテレビの海外情勢を伝える報道の捉え方も変わってくるはず.政治経済



11月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
仏像の顔−形と表情をよむ清水眞澄岩波新書人の世にイケメン数々あれど,仏様の表情には叶わないと思っているのは私だけだろうか.菩薩系,如来系と好みは分かれるかもしれないが,眼,眉,唇,鼻,どのパーツを見ても無駄がないような気がする.本書は,法隆寺金堂釈迦如来,興福寺仏頭,鎌倉の大仏様など,各時代の著名な仏像の顔をつぶさに分析している.仏閣めぐりをさらに深める(楽しむ)ための1冊.日本美術
名字の謎森岡 浩ちくま文庫教員が最も緊張する瞬間,その一つは年度初めの最初の授業での出席簿の読み上げである.事前に読み方を予習しておかない限り,間違えずに最後まで行くことは難しい(最近では名字よりも名前の読みの方がはるかに難しくなっているが・・).必ず,クラスに一人や二人,「なんて読むの?」と思える名字の学生がいるものである.シンプルでも難しい場合さえある.例えば,河野は「こうの」か「かわの」かといった具合だ.本書は,ユニークな名字の成り立ちから日本の名家の誕生まで,名字にまつわるあれやこれやの話題が満載.自分の名字のルーツがわかるかも.民俗学
米欧回覧実記久米邦武岩波文庫明治維新後,政府は西洋の事情を把握するために,岩倉具視を特命全権大使とする使節団を送った.本書は,明治4年11月から明治6年9月までの1年9カ月余を掛けて米欧の条約締結国12か国を歴訪した使節団の公式記録である.使節団の見聞は広く国民に知らせるべきだと言う当初からの考えがあり,岩倉は編者の久米邦武を随行記者として参加させた.格調高く,かつ簡潔明快な文章は文語調でありながらも大変読みやすいので是非!(全5冊)日本史
土佐堀川古川 智映子潮出版社連続テレビ小説「あさが来た」が好調のようである(私も久しぶりに録画してまで見ています).本書は,その原作となった小説.「九転十起」の精神で難局を切り開き,大坂随一の実業家として大成した広岡朝子の生涯が描かれる.一念さ,行動することの大切さがよく伝わってくる.歴史に埋もれてきた人物を広く世に知らしめた点でもGood job!な1冊と言える.小説
あんドリアン助川ポプラ文庫HRの人権教育でハンセン病を扱った作品を探していたところ本書にたどり着いた.作者の名前は以前から存じ上げていたが,奇抜なペンネームだからという理由だけでした(スミマセン).ところが,本書を読んですっかり見る目が変わった.ハンセン病についてかなり勉強(取材)された上で書かれた労作であることがよくわかった.読み終えた後,「誰にも生まれてきた意味がある」ことについてズシリと感じるものがあるでしょう.河瀬直美監督のもと,映画化されているので,こちらも是非見たい.小説
富士山宝永大爆発永原慶二吉川弘文館宝永4年(1707),富士山は620年ぶりに大噴火を起こした.山麓の村はテフラに埋もれ,酒匂川が洪水を起こして足柄平野の村を押し流した.本書は,災害の概要,幕府の対応(結構モタモタしていた感がある),生きる手段を失った住民たちの生活復興の姿が描かれる.宝永の噴火以来,大きな爆発はないようだが,日本列島周辺一帯が活動期に入った今,「ひょっとして」はあるのかもしれない.火山災害
ハンセン病重監房の記録宮坂道夫集英社新書1907年制定の「らい予防法」により強制隔離されたハンセン病患者たち.所長には懲戒検束権が与えられ,特に群馬県の草津栗生楽泉園には,「重監房」と呼ばれる監獄があり反抗的な患者たちが全国から送られ収容された.本書は過酷で非道な懲罰に光を当てる.信じられないが,100年も経たない歴史の真実は知っておくべきだと思う.社会学
三陸の海津村節子講談社文庫作者の津村氏は,私の大好きな吉村昭氏の妻で,福井県のご出身.「三陸海岸大津波」の作品を遺した夫と,三陸の海岸をたびたび訪れておられたようである.本書は,亡き夫が愛した三陸海岸を,東日本大震災後に訪れた時の随想である.大切な人々との再開,いつまでも三陸を想う夫婦の人柄が伝わってくる.随筆
南極点征服ロアルド・アムンゼン中公文庫二十世紀初頭に繰り広げられた南極点到達競争において,英国のスコット隊に先んじ南極点初到達の栄光を手にしたノルウェーのアムンゼン自らが著した南極探検の記録.この戦いに敗れ,帰りに全員が遭難死したスコット隊が悲劇のヒーローと讃えられるのに対し,アムンゼンは最初は北極点を目指すと言っておきながら,不意打ちで南極に向かったズルい奴という印象でしかなかったが,本書を読んで,その考えがすっかり変わった.装備の点とか,目的を達するための優先順位のつけ方とか,リーダーの資質という点でアムンゼンは圧倒的にスコットよりも優れていた.それにしても,南極点を争っていたのはたかだか100年前の話である.なので,本書には当時の写真もふんだんに載っていて,非常に興味深い.冒険心をまちがいなくくすぐられる1冊.冒険記
隔離
故郷を追われたハンセン病者たち
徳永進岩波現代文庫故郷の人々,最も親しい家族にも拒絶されるという悲しみを背負い,病苦と闘うハンセン病者たちのもとを訪ね,「終生強制隔離」の真実を聞く.学生時代,読んでいて涙が止まらなかった.いま再び読みかえしても,やはり涙が止まらない.立派な作家や学者でないごくごく普通の人々が発した言葉に,こんなにうちのめされるなんて.社会学
工学部ヒラノ教授のアメリカ武者修行今野浩新潮文庫大好きな工学部ヒラノ教授シリーズの待望の文庫化である.日米の大学の(工学部の)違いがよくわかる.メジャーはやはり凄いんだなと驚嘆した.そこに飛び込んでいくヒラノ教授も天晴れだ.なかなかサバティカルに踏み切れない自分が情けなくもあり,でも,行きたいなという気持ちもあり・・.随筆



10月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
カレーライスと日本人森枝卓士講談社学術文庫ハンバーグと並んで子どもにも人気があるカレー.家庭だけでなく,給食やキャンプでも定番のメニューである.それにしても,日本人はどうしてカレーが好きなのだろう.本書は,アジア全土のスパイス料理を食べあるき,カレー粉のルーツをイギリスにさぐり,明治文明開化以来の洋食史の記録を渉猟する.その結果明らかになった驚きの事実とは・・・民俗学
貞観政要呉兢ちくま学芸文庫貞観と聞くと,あの東日本大震災で話題になった歴史地震を思い起こす人もいるのではないだろうか.ここでいう「貞観」は太宗の在位の年号で,貞観地震よりも200年近く前のことである.本書は,大唐帝国の礎を築いた太宗が名臣たちと交わした政治問答集で,長らく帝王学の古典として読まれてきた.「指導者の条件」「人材の登用」「後継者の育成」など,およそ組織運営に関わる人間なら必ず迷い,悩むであろう問題に古人はどのように臨んできたのか.うちの上層部の方々にも是非読んで頂きたい.歴史
渋江抽斎森鴎外岩波文庫「しぶえちゅさい」と読む.江戸時代末期の弘前藩の医師・考証家・書誌学者である.資料を収集していた鴎外の目に偶然とまり,その人となりが明らかにされていく.理系・鴎外の澄んだ文章は読んでいて無駄がなくとても清々しい.もし,彼の目にかからなければ,渋江抽斎も脚光を浴びることはなかったかもしれない.日本文学
日本列島人の歴史斎藤 成也岩波ジュニア新書自分はどう見ても南方系の顔だが,奥さんのご先祖は大陸由来のような気がする.本書は,最新のゲノム解析の結果などを使いながら,列島に住んできた人々の暮らしぶりや地域差を明らかにし,列島人の起源へと迫る.日本列島人4万年の雄大な歴史を現代から旧石器時代へとさかのぼっていく書き方も面白い.歴史
道路の日本史武部健一岩波新書鉄道好きの「鉄ちゃん」ならぬ,道路好きの「道ちゃん」必読の1冊.日本の近代化はお雇い外国人の力によるところが大きかったが,道路についても同様である.ただし,明治時代のお雇い外国人の中には道路の専門家は一人も含まれていなかったので,鉄道などに比べて80年ほど後塵を拝した.さて,日本では一般に東西南北などは地名の前に付ける.東加古川とか西明石など身近な地名にも,思い当たるところがあるのでは?一方のアメリカはOregon-westなどのように後に付けるのが慣例である.インターチェンジ名の命名法もアメリカ流儀を採用した.これでうまく行ったインターチェンジがある.名神高速道路の「京都東」.日本流に命名していたら,エライことになっていた.そんなウンチクも詰まった1冊.日本史
ゼロからトースターを作ってみた結果トーマス トウェイツ新潮文庫本屋さんで見かけて思わずニンマリ,パラパラと数ページめくって即買いを決めた.著者のトーマス・トゥエイツ氏は英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アート卒業のデザイナーで,こういう馬鹿馬鹿しいこと(失礼!)に「大学院の卒業制作」で取り組んだ.認めた学校も太っ腹だ.身近な家電製品を一から作るなんて,普通なら誰も考えつかないだろう.パーツを買ってきて自分で組み立てるのがせいぜいだと思う.ところが彼の挑戦は原材料を作るところから始まるのだ.わからないことは自らの足でその筋の人を訪ね解決していく.この秋,卒研生に是非とも読んで頂きたい1冊.サイエンス



9月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
幸福論アラン岩波文庫NHK100分de名著でとりあげられていたことがきっかけで本書を手にした.「哲学を文学に,文学を哲学に」変えようとする独特の文章は「フランス散文の傑作」と評される.ただし,素人にはその味わいどころがなかなか見えないので,NHK「100分de名著」ブックス(合田正人・著)を傍らに置いて読み進めていくことをおススメする哲学
日本酒の科学和田美代子講談社ブルーバックス日本酒ほどいろいろな料理に合う酒はない(本科の学生にはまだその味を知らないはずだが・・)。鍋,ウナギ,焼き鳥,刺身に天ぷら…,中華,洋食,チーズ,そして塩をつまみになんでもありだ.最近では蔵元のある自治体では,乾杯は日本酒でというところもある.一方で,若者の日本酒離れも進んでいる(外国への輸出は逆に伸びている)そうで,なんとも寂しい話ではある.本書は,日本人のためのお酒−日本酒−について,様々な角度からその魅力を伝えてくれている.食品科学
忘れられた島々−「南洋群島」の現代史井上亮平凡社新書この4月,天皇・皇后のパラオ慰霊訪問で話題になったミクロネシア諸島.ここには戦前多くの日本人(その多くは沖縄人)が移り住んでいた.「楽園」といわれた島々は太平洋戦争で玉砕・集団自決の悲劇の舞台となり,やがて人々の記憶からも忘れられていく.戦後70年のいま,沖縄問題を考えるのに必読の1冊.
比喩表現の世界−日本語のイメージを読む中村明筑摩選書国語の文法の時間に隠喩,直喩などの比喩表現を習ったことがない人はいないだろう.日本文学には「睡眠は時雨空の薄日」「碧い空のかけらのように澄んだ眼」など,豊潤にして洒脱な比喩が数多見られる.本書は,そうした日本近代文学選りすぐりの比喩表現を鑑賞し,その根源的な力と言葉の魔術を味わうための1冊.日本語
くろがね風土記杉本春夫せせらぎ書房出張先の岩手県釜石市で入手.釜石といえば,新日鐵釜石,そう「鉄の町」である.本書は,鉄造りの歴史と背景に始まり,幕末期の国内の製鉄状況,釜石製鉄所の生い立ちと変遷について詳述される.近代製鉄の歴史がわかる.地誌

歴史
わが半生W・チャーチル中公クラシックス第二次世界大戦時の英国首相ウィンストン・チャーチルは,危機の時代の優れた指導者として知られる.それは,優れた歴史観をもった指導者であり,あらゆる問題を解決しないと気が済まない性格だったからだろうと言われている.偉大な政治家にならなくても,優れたエンジニア,特に土木技術者になるためには,歴史観とか倫理観というものが重要になってくる.さて文才に長けたチャーチルはノーベル文学賞を受賞したこともあるほどの人物で機知に富む数々の名言を残している.−「全力を尽くすだけでは十分ではない.時には必要なことをやらなければ」伝記



8月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
ふすま−文化のランドスケープ向井一太郎

向井周太郎
中公文庫日本家屋固有の表具である「ふすま」は,単なる間仕切りの役割を超えて日本人の世界観や自然観を体現してきた.気配を感じて気配りをする,「ふすま」のある家屋では当たり前のことであった.経師・表具師の家庭で育ち,西洋でデザインを学んだ息子・周太郎が,「ふすま」を日本文化の原風景と位置付ける.表具師として数多くの日本建築に携わった父・一太郎との類い希なる対談を併録も読み応えアリ.ところで,わが家の古いマンションにもふすまはあるが,困ったことにそれらはすっかり息子の遊び道具となっている.社会学
広島第二県女二年西組関千枝子ちくま文庫8月6日は広島の原爆記念日.今年おこなわれたNHK世論調査では,原爆投下日を正しく認識している人は3割程度なのだとか.これはちょっとショッキングな数値である.日付を正しく覚えることにどれほどの意味があるのかと問われればそれまでだが,70年前の今日の出来事は想像の限りを尽くし正しく理解しておきたい.本書は,この日たまたま勤労動員を休んで死を免れた著者が,40年後に,全滅した級友39名の遺族や関係者を訪ね歩きその姿を明らかにするもの.一瞬の閃光がもたらした悲劇もさることながら,遺族のその後の苦しみがひしひしと伝わってくる.ノンフィクション
妖怪学新考小松和彦講談社学術文庫空前の妖怪ブームである.科学文明が浸透した現代にあって人々は妖怪の存在を否定しながらも心のどこかでそれを認めている.本書は心の不安や恐れから人間が作り出した妖怪とそれを信じる心を考察し,日本人の心のあり方を探求する1冊.都市工学は工学の中では最も妖怪と関係が深い分野かも,と思える.民俗学
絹と明察三島由紀夫新潮文庫古い日本的家族意識の家父長経営で業績を伸ばす紡績会社社長が,「子」である従業員たちから労働争議を起こされ滅びてゆく物語.滋賀県であった実際の労働争議をもとに描いた小説である.「日本」および「日本人」「父親」というテーマを背景に,近代主義的な輸入思想の〈明察〉の男と,日本主義の〈絹〉の男との二重構造の対比や交錯が描かれている.小説
社会を変えるには小熊英二講談社現代新書いま多くの人が,世の中に不安や不満を抱えている.変えたい,変えなきゃいけないと思っている.では,どうすれば社会を変えられるか?社会を変えるというのはどういうことなのか,本書はその答を見出すために,歴史的,社会構造的,思想的に考え,社会運動の新しい可能性を探る.キーワードは,「対話」と「参加」.文句を言ったり批判するだけでは何の解決にもならない.社会学
心 日本の内面生活の暗示と影響ラフカディオ・ハーン岩波文庫わが国をおとずれた外国人の中で,ハーンほど日本を理解し,そして愛した人はないだろう(小泉八雲が本名で,ハーンがあだ名かと思うくらいである).本書はわれわれが,うかつに見逃している身のまわりのことから,思いがけない深遠な思索のいとぐちを教えてくれる.「戦後」で日清戦争からの帰還兵を見て爺やの万右衛門がハーンにいう言葉がとても印象的だ.−「西洋のかたは,死んだものは帰らないとおぼし召すでしょうが,わたくしどもは,そうは思いません.日本人はだれでも,死ねばまた帰ってまいります.帰る道をみんな知っております」 −日本文学



7月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
吉田初三郎の鳥瞰図を読む−描かれた近代日本の風景堀田典裕河出書房新社世の中には実に多くの地図が存在しているが,最もワクワクさせられる類に,パノラマ図がある.本書は,稀代のパノラマ絵師・吉田初三郎の作品を通して,都市・建築・美術の歴史を横断する秀作.眺めているだけで旅に出ている気分,あるいは鳥になった気分にさせてくれる.地理学
カンディードヴォールテール岩波文庫ライバル(と私が勝手に思っているだけですが)高専の先生から紹介頂いたフランスを代表する文学作品(らしい).岩波文庫版には,標題のほか5つの哲学コントが収められている.フランス啓蒙期の反権威主義者にして自由主義者であった作者のヴォルテール自らが「(この世が)あらゆる世界の中で最善の世界なんて,滑稽きわまります」と主張しているが,妙に納得できるのは今の世の中もそのようだからか.フランス文学
ああダンプ街道佐久間 充岩波新書高度成長の時代は,公害の時代でもあった.建築資材や埋立てに使われる山砂の主産地,千葉県君津市では,丘陵が次々に削られ,一日に四千台も通るダンプカーが沿道住民に騒音,振動,交通災害や粉じんによる健康破壊をひき起こした.その実態を精力的な調査によって明らかにした渾身のルポタージュ.ノンフィクション
女工哀史細井和喜蔵岩波文庫「これは,虐げられ,蔑まれながらも日々,「愛の衣」を織りなして人類を暖かく育んでいる日本三百万女工の生活記録である.」の書き出しで始まる大正時代の紡績女工たちの過酷な労働の有り様を伝えた1冊.社会学に興味のある学生には是非とも読んでもらいたい.映画『あゝ野麦峠』も当時の紡績女工の実態がわかるのでこちらもおススメ.社会学
奇想の図譜辻惟雄ちくま学術文庫今年は何かと伊藤若冲が話題となっており,本書に辿り着いた.日本美術史の第一人者である著者が,日本の美を貫くモチーフはなにかをテーマに,作品に伏流する日本美術の独創的な面白さ,好奇心,奔放で闊達な「あそび」の精神を見出そうとする意欲作.載せられている図版が全てオールカラーだったら言うこと無しなのに・・.日本美術
近代建築散歩 京都・大阪・神戸編アトリエM5・宮本和義小学館京阪神の三都には見応えある近代建築が今なお多く残っている.本書には,赤レンガの校舎と教会を訪ねる御所周辺コース,商都の面影を求めて歩く心斎橋・ミナミコース,モダンな家並みがつづく神戸異人館コースなど,厳選した近代建築を訪ねる17の散歩道が紹介されている.休日などのちょっとした時間を使って,「建築探偵」になった気分でこれらを訪ね歩いてみてはどうだろう.建築学



6月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
先祖の話柳田国男角川ソフィア文庫人は死しても霊は遠くへ行かず,故郷の山々から子孫を見守り,正月や盆には「家」に帰ってくる―.古くから日本人に通底している死後の観念や先祖への信仰と「家」のあり方を明らかにする.注目すべきは,本書は,柳田が東京大空襲で多くの死に向き合うなか記されたものであるという点だ.民俗学
日本の職人吉田光邦講談社学術文庫「ものづくりの学校」を掲げる以上,本書を読まないわけにはいかないだろう.青銅鏡,墨,刺繍,タタラ製鉄,漆,べっ甲細工,扇,鯉のぼり,蒔絵(まきえ),焼き物,竹細工・・・,こうした伝統工芸の繊細で闊達な手仕事の魅力を伝える1冊.日本の伝統技術のスゴさが伝わってくる.歴史

民俗学
望郷と海石原吉郎みすず書房今年は戦後70年だが,1945年の敗戦で全てが終わったわけではなかった.本書は終戦とともにソ連軍に抑留され,8年間のシベリア収容所体験をへてきた著者によるシベリア抑留の体験をつづったもの.日本人による『夜と霧』とも言われる.随筆
南方マンダラ南方熊楠(中沢新一 編)中公文庫南方熊楠は,博物学,仏教学,自然科学等をもとに独自の方法論を確立した,民俗学・粘菌学界のスーパーマンである.本書は中沢新一によってシリーズ化された熊楠作品コレクションの第1弾で,彼の中心思想であった南方マンダラとは何とやらを解き明かす.民俗学
アホウドリを追った日本人平岡昭利中公新書現在,絶滅危惧II類(VU)に分類されているアホウドリ.人の寄り付かない島での世代交代が繰り返されたため,警戒心がなく,近づいても逃げずに捕殺が容易だったことにその名は由来する.明治から大正にかけて,これの羽毛がヨーロッパ諸国で高く売れることに目を付けた日本人たちが,南洋の絶海孤島に出向いて密漁を重ね,一攫千金の富を築いた.その結果,日本近海の無人島は,次々と帝国「日本」の領土に組み込まれたのである.今日,領海と200カイリの排他的経済水域を合わせた広さは日本の国土の12倍にもなり,世界第6位である.この恩恵をもたらしてくれた鳥に「阿呆」呼ばわりは失礼や.歴史

社会学
神々の明治維新安丸良夫岩波新書明治維新で行われた神仏分離と廃仏毀釈の実態がよくわかる.また,それは実はずい分と前から始まっていたことにも触れられており,「宗教」というものがいかに時の為政者のとって大きな存在感を示すものだったかがよくわかる.参考文献に記載された関連書も是非読んでみたい.歴史



5月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
地名の研究柳田国男講談社学術文庫地名にも色々なものがあるが,柳田氏が注目したのは,有名な「大きな地名」よりも,小字などの「小さな地名」であった.地名学の源流となった本書は,地域の履歴を踏まえた地域防災を考える上で役立てることができるかもしれない.地理

歴史
好色一代男井原西鶴岩波文庫単なる「たぶらかし男」の話かと思っていた(実際にその部分もある.男のだらしのなさはいつの時代も同じなのかも・・)が,主人公の世之介が諸国を旅する様を描いた本書は,当時の「観光ガイド」的な意味合いもあった.こういう構想を描いた井原西鶴はホントにスゴイ!古典
地名に隠された「東京津波」谷川 彰英講談社+α新書『地名に隠された「南海津波」』の姉妹編.本書は,東京の高低図とそこの地名を照らし合わせていくことで,東京の地形と地名の安全度,危険度,震災への心構えを読者に訴える.「砂上の楼閣」にある日本の中枢部.副首都構想などバックアップ態勢の整備が欠かせない.地理

歴史
瑞穂の国うた−句歌で味わう十二ヶ月大岡信新潮文庫わが家では何故か最近「俳句」ブームとなっており,それを機に手にした.かつて朝日新聞に掲載された『折々のうた』の著者が,古今の名句・名歌を紹介する.国語

文学
新・東海道 水の旅浦瀬太郎岩波ジュニア新書本書については,旧編が中西準子先生より出されていたが,このほど新装版が出た.旧編と比較しながら読むと東海道新幹線沿線の移ろいを感じることができるだろう.本書は新幹線に乗る前に読み終えておくものである.そうでないとあのスピードでは「あっ!」と言う間に過ぎ去ってしまいます・・.あと東京から新大阪に向かって書かれているので,おのぼりさんの時にはわかりづらいかも.随所に散りばめられたウンチクもまた楽しい.地理

紀行
地図から消えた島々−幻の日本領と南洋探検家たち長谷川亮一吉川弘文館同じ職場の先生に「アホウドリを追った日本人」のことを話したら,「こんな本もありますよ」と紹介して頂いた.本書は,実在はしないのにかつての日本地図に載っていた南方海域の島々の“誕生”から“消滅”を描く.一攫千金を目指す男たちの夢とロマンを描いたミステリー(?)歴史



4月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
日本の空をみつめて倉嶋 厚岩波現代文庫雨続きの四月前半に,気の晴れない人も多かったのではないか?天気は私達の生活に大きな影響を与えている.本書は,気象学の研究や予報の現場で60年にわたり活躍してきた著者の気象エッセイの珠玉集.四季の移ろいや身近な自然現象から文化や歴史を考察する.「天気」に対する興味がますます増すこと間違いなしの1冊.気象

エッセー
高層建築物の世界史大澤昭彦講談社現代新書東京スカイツリーに,阿倍野ハルカス・・,より高いところを目指して高層建築物は作られていく.これらは時の為政者の権力や自己顕示欲,富を象徴する一方で,ランドマークとして人々に親しまれる存在でもあった.と同時に,その都市のスカイラインや景観をもつくり出してきた.本書は,高層建築物の歴史を丁寧に振り返ることで,人類が歩んできた軌跡を浮き上がらせている好著.建築
水と人の環境史鳥越皓之

嘉田由紀子
御茶の水書房水の環境問題を考える上で,たとえば水質指標をもとに科学的に考察するということは古くからなされてきた.本書は,水に対する意識構造の変化を社会学を軸にしながら人類学・民俗学・地理学・経済史などの知識を導入して探る方法でアプローチした点が素晴らしい.のちに環境社会学といわれる領域を造った画期的な書である.水環境

社会学
なぜ境保全はうまくいかないのか宮内泰介新泉社「環境」をまもることは大事だとは誰もが思っていることである.ところが,実際の自然再生の現場ではうまく行かない事例が数多く報告されている.それはどうしてなのか?本書は,地域社会の多元的な価値観を大切にし,試行錯誤をくりかえしながら柔軟に変化させていく順応的な協働の環境ガバナンス(順応的ガハナンス=アダプティブ・ガバナンス)の可能性を探る1冊.環境保全工学を受講する学生は必読の1冊.環境保全

合意形成
あそぶ神仏辻 惟雄ちくま学芸文庫NHK Eテレの新番組『趣味どきっ! 国宝に会いに行く』が面白く,仏教美術なるものに興味をもっていたところ,本書に出会った.本書で紹介される作品はどれも,アニミズム的感性に裏打ちされた力強く鮮烈な表現で正統的な宗教美術とは一線を画した異次元の美を解き放っている.あいにくカラーなのは口頭数ページのみで,後は白黒印刷なのが惜しい.高くなってっでもオールカラーで読みたかった.宗教美術
都市
−江戸に生きる
吉田 信之岩波新書岩波新書のシリーズ「日本近世史」の4冊目.このシリーズの他の本は未読だが,タイトルがタイトルだけにこれだけは読んでおきたいと思っていた.本書は,日本橋近辺・浅草・品川などの地を取り上げ,庶民の訴えや寺の記録,絵図や名所図会などから都市を構成する多様な要素を読み解く意欲作.巨大城下町・江戸の息遣いが伝わってくる.歴史

都市計画
京都インクライン物語田村喜子山海堂ことしの2年生の学年行事は「京都東山散策」ということで,担任するクラスの学生には是非読んで欲しいと思い,私自身も読み直した.明治維新によってすっかり気落ちした京都が活力を取り戻すための一大プロジェクトとして琵琶湖疎水事業は重要な意味を持っていた.疏水の水力で新しい工場を興し,舟で物資の行き来を盛んにしようという計画であった.この事業で設計を任されたのが大学を卒業したばかりの田辺朔郎である.本人の実力もさることながら,そういったことを若い技術者に託した知事や社会の「懐の広さ」を感じずにはいられない.蹴上(けあげ)にはいまも現物が保存されているので,是非とも足を運んで往時の姿を思い浮かべてみて欲しい.ノンフィクション
中空構造日本の深層河合隼雄中公文庫正月の特番で日本人の心理を考える1冊として本書が紹介されていた.日本人の心の深層を解明するモデルとして『古事記』神話における中空・均衡構造を提示し,西欧型の中心統合構造と対比させて,その特質を論究する.日本思想



3月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
椋鳥通信森鴎外岩波文庫「舞姫」や「山椒大夫」のような文学作品とは違い,今から百年ほど前,当時のヨーロッパの新聞・雑誌から収集した様々な情報を手短に報告したもので,いわば文豪・鴎外のツィートである.江戸時代,江戸っ子は冬になったら集団で出稼ぎにやってくる東北人たちを,やかましい田舎者の集団という意味合いで「椋鳥」と呼んで揶揄していたことから,日本=世界の中の田舎者という意味でタイトルに使ったようだ.エッセー
川からみた国土論高橋裕鹿島出版会4年生の環境水工学I(一見なんのこっちゃわからない科目名だが,世間一般でいう河川工学です)時代を通じて首尾一貫してぶれない川の哲学が書かれる.我が国の河川工学の第一人者にして,ジェネラリストの高橋先生が語る土木と国土論.20世紀後半から今日まで,日本の川と社会のめまぐるしい変化を辿る.東京大学・芝浦工業大学の最終講義も完全収録されている.国土計画
河川工学
『河内名所図会』『和泉名所図会』のおもしろさ森田恭二和泉書院卒業研究で,摂津と播磨の名所図会について調べた学生がいる.今回,その副査にあたったのがきっかけで,名所図会について知るべく本書を手にする.名所図会とは,早い話が昔の観光ガイドである.今もなお観光スポットとして賑わうところ,すっかり寂れたところ,開発等によって跡形もないところなど,空間の履歴がわかって面白い.歴史
折りたく柴の記新井白石中公クラシックス最近,自伝を読むことにハマッている中,「正徳の知」をおしすすめたことで知られる江戸時代中期の学者にして政治家であった新井白石が書いた本書が目に留まった.書名は,新古今和歌集にある後鳥羽天皇の御製の「思ひ出づる折りたく柴の夕煙むせぶもうれし忘れ形見に」という和歌に由来し,「思い出の記」というほどの意味である.伝記
古文書返却の旅網野善彦中公新書戦後の混乱期,漁村文書を収集・整理し,資料館設立を夢見る壮大な計画があり,全国から大量の文書が借用がされたが,夢半ばにして事業は打ち切られた.後始末を託された著者は,40年の歳月をかけ,返却していくというストーリー.最近,各地の災害で被災した貴重な史料をレスキューする話などよく耳にするが,改めて史料の大切さを思った.これと似た話?か知らんが,図書館の本も同じ.借りたものは返して卒業されたし.歴史
下下戦記吉田司文春文庫水俣病を扱った作品としては,石牟礼道子さんの『苦海浄土』があまりにも有名だが,これを王道とするならば,本書は「異色」の,しかしこれまた優れたノンフィクションである.患者たちと八年間,寝食を共にした著者が赤裸々に描いた自立運動の軌跡.生活する中で幸せを求めるとはどういうことか,考えさせられる1冊だ.ノンフィクション
対馬丸大城立裕講談社文庫小学校の低学年の時に,対馬丸のことを描いたアニメーション映画が作られたことが話題になっていた.その映画をみたかどうかは忘れてしまったが,沖縄から鹿児島に疎開する途中で,米国の潜水艦によって沈められ多数の学童が犠牲になったことは子ども心にショックだった.今回,本書を読み,犠牲になったのは学童ばかりでなく,引率の先生方や中学生くらいの年齢層の若者も多くいたことを知った.ノンフィクション
生活環境主義でいこう!嘉田 由紀子 語り
古谷桂信 構成
岩波ジュニア新書最近まで滋賀県知事として活躍されていた嘉田由紀子氏が,長年にわたる琵琶湖の研究をもとに語る環境社会論で,とっても面白かった.本書では「生活環境主義」の考え方を中心に,自然との共存をめざす豊かな暮らし方が提案されている.持続可能な社会の構築には,自然との共生を考えていくほかないことに改めて気づかされた.環境保全や社会学に興味のある学生には是非読んでもらいたい1冊.環境保全
かつお節と日本人宮内泰介

藤林泰
岩波新書お好み焼きの上でユラユラとゆれるかつお節.食卓の名脇役ともいえる存在だが,かつては北海道から沖縄,植民地支配下の台湾,ミクロネシア,そして,オランダ領だったインドネシアでも生産されていた.本書は,この300年の間にかつお節の生産や,それに携わった人々の生活がどう変わったのかを明らかにする.民俗学



2月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
鈴木貫太郎自伝鈴木 貫太郎日本図書センター未曽有の敗戦を小さな混乱で収めた宰相の手腕,不遇や窮地に動じることなく,静かに努力する男が描かれる.当事者の語る生々しさと面白さがあって歴史の勉強にもなるからおススメしたい.私には終章の「敗戦日本の一年」にある次の記述がとても印象に残った.「人間はたとえ間違ったことであっても,それを繰り返し繰り返し耳にしていると,いつの間にかそれが真実のように聞こえて来,やがてそれ以外のことは一切間違っているかのような錯覚に捉われてしまうものだ」自伝
権力の館を歩く御厨 貴ちくま文庫これは建築の本なのか,それとも政治の本なのか.どちらかに関心のある人はきっと楽しめる1冊.建築が政治を決め,政治が建築を決めるということか.本書は,吉田茂から小沢一郎まで権力者たちの住み処や国家機関の建物,政党本部ビルなど「権力の館」を取り上げる.かつてそこで営まれた政治の意思と権力者たちの息遣いが聞こえてきそうだ.「ウナギの寝床」のような長屋暮らしの私も一度はこんなところに住んでみたい.でも,永くは望まないかな.建築

政治
苦海浄土石牟礼 道子講談社文庫言わずとしれた公害ルポタージュの金字塔.作家の石牟礼さんは,本年1月に4回シリーズで放送されたNHKのEテレ−戦後史証言プロジェクト「日本人は何をめざしてきたのか」知の巨人たち−でも取り上げられていた.都市工学を学ぶ学生には是非とも読んでもらいたい1冊だ.なぜなら,今日「環境」「環境」と叫ばれ,今でこそ「自然環境」の保全や再生ということに関心が高まっているが,その原点は「公害」問題の克服に心を砕くというところだったからである.豊かさを手に入れることを急いだあまりに起きた悲劇から目を背けてはいけない.公害
寒村自伝荒畑寒村岩波文庫荒畑寒村(あらはたかんそん,1887-1981年)は,日本の社会主義者・労働運動家である.彼の代表作『野中村興亡史』は,社会科学の不朽の名著とされるが,それでも文語調なので読むのに手間取る.だが,この自伝は口語調で書かれており,大変読みやすく,その文章がうまさに思わず舌を巻いた.幼少時代の里親の話,大陸に渡ってモスクワを目指す汽車の中で英語を介してロシア語を学ぶ話,意中の女性に裏切られる話など退屈するところがない.その生き方は,純粋無垢で志高く,それでいて人間臭い.自伝
職業としての学問M・ウェーバー岩波文庫職場の同僚の先生から薦められて読んだ1冊.マックス・ウェーバーなんて難解すぎてとても無理と思っていたが,100ページに満たない本書なら挫折することなく最後まで読めた.本書は職業としての学問,研究職におけるそのあるべき姿と人々の見方について書かれたウェーバーの講演を収めたものである.何のために,いまここで仕事をしているのか,迷った時に読み返したい1冊である.社会科学
名前でよむ天皇の歴史遠山美都男朝日新書2月11日は建国記念の日.我が国最初の天皇・神武天皇(史学的には実在しないとされる)が即位した日で,戦前は紀元節といった.さて,通勤中に,脳トレ?の一環として本書を使って歴代の天皇の名前の暗記に挑戦してみた.ただ名前を順に覚えるだけではつまらなく,それぞれの諡号(しごう)の意味の解説が載っているのがいい.例えば,神武天皇の諡号「神武」には,「神明のような武徳」「人間業以上の武威」という意味があり.それらを備えた人物であったからそのような名前が付けられたのである.これらの諡号には当時の出来事や人々の願いが反映されていてとても面白い. 日本史
何のために学ぶのか桐光学園 編ちくまプリマー新書「中学生からの大学講義」と銘打った企画の第一弾.第1巻は錚々(そうそう)たる顔ぶれである.そのラインナップは,「知ること、考えること」(外山滋比古),「独学する心」(前田英樹),「学問の殻を破る―世界に向けて自己を開放すること」(今福龍太),「脳の上手な使い方」(茂木健一郎),「生物学を学ぶ意味」(本川達雄),「学ぶことの根拠」(小林康夫),「賢くある」ということ(鷲田清一)となっている.嬉しいのは,各章末に著者によるおススメ書籍のリストが載っているところである.学生時代にはこういった本をガイドブックのように活用して様々な分野の本を横断的に読んで欲しい.エッセー



1月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
TED 驚異のプレゼンカーマイン・ガロ日経BP社専攻科生から,TEDというプレゼンの動画を集めたサイトを教えてもらった.各界の著名人によるプレゼンは,英語の学習はもちろんのこと知的好奇心をくすぐる内容となっている.各国語での字幕をつけることが出来,訳も見られるところがいい.「生きた英語」を学ぶに格好のサイトではないか.是非一度お試しあれ.英語

ビジネス
男は邪魔!−「性差」をめぐる研究高橋秀実光文社新書ずい分前のことだが,高専時代の恩師と食事をする機会があった.この先生はいつも(私から見て)突拍子なことに関心をもっていて会うのが楽しみなのだが,その時は「もう男はいらん」という話になった(ちなみにその先生は男である).本書は,身近な人へのインタビューを通じて,男女の性差を明らかにしようとしたもの.ただインタビュー先が著者の奥さんでは,「性差」というよりも夫婦間の感情みたいなものも入ってしまうのではないかと思った.ま,いずれにせよ「男はツライよ」の世界に変わりはありませんが・・.エッセー
日本思想史清水正之ちくま新書数年前,NHKの特番で「日本人は何を考えてきたか」という番組をやっていた.この番組を見て福澤諭吉や中江兆民らの思想にふれて「倫理」の授業ではわかりえない面白さに気づき,いつの日かこうした日本人の思想を通史で俯瞰してみたいと思うようになった.本書は外来の宗教や哲学を受け入れ続けてきた日本人の根底に流れる思想について,古代から現代にわたり通史でまとめたもの.巻末の「日本思想史を学ぶための文献」,キーワード索引,年表がスグレモノ.人文社会
古地図が語る大災害本渡章創元社本渡氏の「古地図むかし案内」シリーズが好きで研究室には完備しているが,このたびついに災害史に関する新刊が出た.本書は,古代から近代までの古地図・瓦版等を題材に,歴史上繰り返されてきた大災害の記録を読み解き,人の営みと教訓に学ぶ1冊.巻末の新雕大坂細見全図,大坂大津浪図,大阪今昔三度の大火,災害モニュメント探訪記といった折込付録がうれしい.歴史

災害
工学部ヒラノ教授の事件簿今野浩新潮文庫「事件は工学部で起きている」−どこかのドラマで聞いたことのあるようなセリフだが,理系の世界にも,(新聞等でもしばしば報じられるが)研究費横領,経歴詐称,セクハラ,アカハラ,データ捏造,論文盗作といった犯罪が存在する.本書に収められている話はどれも実話なだけに生々しいが,どこかユーモラスでもある.それは,窮屈な今とは違った古き良き時代の工学部の姿が描かれているからかも.文庫版の本書の巻末には世間を騒がせた「なんとか細胞」に関する記述がありまーす. エッセー