Uno's Lab.

ようこそ 神戸高専 都市工学科 宇野研究室へ。
当研究室では、河川、沿岸域の水辺の環境保全・防災に関する研究を行なっています。.
明石海峡 夙川 伊川 ハクセンシオマネキ 加古川 成ヶ島

2013年 読書記録

願わくば,学生時代に一日のたとえわずかでもよいから本を読む習慣をつけてもらいたい. ちなみに私は,行き帰りの通勤電車が「読書部屋」となっている.

12月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
阪神・淡路大震災 その時 学校は神戸市PTA協議会復興委員会六甲出版阪神・淡路大震災における学校や子どもたちの様子を,校長やPTA関係者の手記や座談会を通して振り返るほか,子どもたちが綴った震災についての作文も掲載されている.さらには震災ストレス調査や,防災教育の未来への提言が収められている.防災
生物の世界今西 錦司講談社文庫生物学より生態学に近い.生物社会の構成原理を生物と環境・社会論と歴史論の面から明確にし,今西生物学の所謂「棲み分け理論」をはじめとする思想的自画像風のユニークな文化論.日本の霊長類研究の創始者ともいえる著者の戦前の名著がいまなお文庫本で入手できるとは,感涙モノです.生態学
社会心理学講義小坂井 敏晶筑摩選書『責任という虚構』ですっかり彼の文章に魅せられ本書を手にした.内容は『責任・・』と被るところもある.社会心理学とはどのような学問なのか知りたい人にはおススメ.人間理解への示唆に満ちた内容は理系の人でもスラスラ読めるのでは?社会学
<復刻版>21世紀への階段-40年後の日本の科学技術-科学技術庁・監修弘文堂本書は高度経済成長期に科学技術庁が監修し発行したもので,原子力・医療・宇宙・気象・台風・地震・交通・住環境などの分野の第1人者によって,21世紀つまり今の日本の姿が描かれた.その中には移動テレビ電話と称される携帯電話や高周波調理器と記された電子レンジなど,今や我々の生活に不可欠な物もあり,先人達の叡智に驚かされるばかりである.一方,台風の進路をコントロールするなど未だに実現していない技術もある.それでも,夢のある話ならば良いではないか.科学
郷土 明石風土記黒田 義隆明石地方史研究会明石市の市政だよりや新聞等に記載された著者の作品を集めたもので,明石に住んだ偉人たち,明石の史跡,史話,今と昔がわかる.思わずフィールドワークに出たくなる1冊.地誌
民族という虚構小坂井 敏晶ちくま学芸文庫「民族という虚構から開かれた共同体へ」をテーマに,本書は民族は虚構に支えられた現象である,という視点から,民族の同一性という考えを生み出す社会的・心理的なしくみを分析している.本書を読んだ後に,NHKのDVD「映像の20世紀」第10集−民族の悲劇果てしなく−を鑑るのもいいでしょう.社会学
第一次世界大戦山上 正太郎講談社学術文庫二つの世界大戦のうち,第二次世界大戦(太平洋戦争)に関する出版物は多いのに対し,第一次世界大戦についてはなかなか良い本が見つけられなかった.本書はその点,様々な国の立場を描いており,俯瞰するに適した1冊といえる.各国の指導者たちは何を考え,どう行動したのか?そして,日本の進路に何をもたらしたか.「現代世界の起点」たる世界戦争が鮮やかに描かれる.歴史
謎の渡来人 秦氏水谷 千秋文春新書最近我が家では何故か渡来人ブームで,熱心に妻が本書を薦めてきた.私の実家が南河内にあることから,先祖はきっと渡来人ではないかと言う.ホンマかいなと思って手にした1冊.古代最大の人口を誇る最高の技術者集団であった秦氏は,政治や軍事には関わらず,織物,土木,酒造,流通など殖産興業に力を発揮した.先端テクノロジーで古代国家の基盤をつくった先人たちの素顔が鮮やかに描かれる.古代史
弔辞
−劇的な人生を送る言葉
文藝春秋編文春新書本書には二十世紀を彩った各界の著名人50人への名弔辞が収録されている.わずか数分に凝縮された万感の思い.故人との濃密な関係があったからこそ語られる,かけがえのない思い出,知られざるエピソード,感謝の気持ちには思わずホロリとさせられる.言葉
これでいいのか兵庫県神戸市松本 広章マイクロマガジン社けっして品の良いとは思えない表紙(少なくとも一般的な神戸のイメージとは違う・・・),そして書かれていることは神戸市民にとって痛いことばかりだが,歯に衣をきせない書きぶりは思わず「ナイス,ツッコミ!」と言いたくなる.はじめて神戸に住む人が「郷に入っては郷に従う」ためのガイドとしてもいいかも.サブカルチャー
都市と防災目黒 公郎
村尾 修
放送大学教育振興会放送大学での講義に基づいたテキストなので,語り口調で書かれているため,非常に分かりやすい.来年度の専攻科の『都市防災学』のテキストはこれで決まり.防災
大脱走ポール・ブリックヒルハヤカワ文庫1963(昭和38)年公開の米映画の原作.観たことがない学生も,テーマ曲の『大脱走マーチ』は一度は耳にしたことがあるはず.第ニ次大戦下のドイツ.スタラグ・ルフトIII(第三航空兵捕虜収容所)での実話をもとにして作られた.脱走不可能な捕虜収容所に入れられた英国を中心とする連合軍の兵士たちが知恵を絞り,なんと250人!もの集団脱走を計画する.収容所の地下にトンネルを掘ってなんて,まさに都市工学の世界.一つの目的を成し遂げるために皆が一致団結する姿に感動することは間違いない.痛快!というにふさわしい1冊だ.ただし,これを真似て授業中に大脱走することは,然(そ)うは問屋(とんや)が卸さない.ノンフィクション



11月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
うなドン
−南の楽園にょろり旅
青山 潤講談社文庫ニホンウナギの産卵場を突き止めた塚本教授率いる東大研究チーム.次なるミッションは,世界中のウナギをすべて集め,その進化の道筋を解明することだった.はたして,地球上に生息するウナギ全18種類の採集に成功するのかどうか?エッセー

水産
むかしの神戸和田克巳神戸新聞総合出版センター神戸の街なみは,ハイカラ,モダン,エキゾチックなどで形容されるが,その原型を作ったのは居留地の外国人たちであった.当時の面影を伝える絵葉書を編集して出来たのが本書である.絵そのものから明治・大正・昭和初期の生活の息づかいが伝わってくるのはもちろん,そこに書かれている解説文が詳しくてためになる.地域学
大阪古地図パラダイス本渡章140B本渡章さんの「古地図」シリーズの最新作.現代の地図のような正確さはないが,古地図には独特の味わいがある.そこに描かれる内容は,身の丈にあった生活情報を言えるだろうか?ぼーっと眺める,当時の暮らしを想像する、実際に歩いてみる(迷うかもしれんけど・・),古地図には色々な遊び方がある.地理学
3・11複合被災外岡 秀俊岩波新書2011年3月の東日本大震災は,歴史上,類をみない「複合災害」であった.震災と大津波,そして原発事故が折り重なる中で,人びとは何を思い,どのような経験をしたのか?本書には被災地に通い続ける著者が見聞きしたルポがバランスよく収録されている.震災からまもなく3年になろうとするが,いま一度,冷静に『3・11』を見つめなおすきっかけを与えてくれる.中高生が読むことを意識して書かれた文章は大変読みやすい.東日本大震災
青函トンネル物語青函トンネル物語編集委員会・編交通新聞社新書膨大な費用と時間を費やし,時に国民の非難にさらされた青函トンネル.だが,世界が「歴史上この事業に匹敵する技術的建設事業はない」と絶讃し,建設の決断と工事を支え続けた日本国民を讃えたことを今どれほどの人たちが認識しているだろうか?本書は,構想から先進導坑貫通というクライマックスまで様々な段階でかかわった人々の貴重な記録をまとめた感動の記録.土木工学
歴史を変えた火山噴火
−自然災害の環境史−
石 弘之刀水書房本書は,火山噴火が人類の歴史に与えた影響を辿る,最新の環境史である.古くは七万年前のトバ噴火,最近ではナポレオンのロシア遠征失敗の原因となった“火山の冬”などを取り上げる.終章では、巨大噴火の可能性がある世界各地十一か所の火山が紹介されているが,日本の鹿児島姶良カルデラも含まれている.東日本大震災の年(2011年)に噴火した新燃岳のある辺りである. 災害史
フンボルト 自然の諸相木村直司 編訳ちくま学芸文庫フンボルトの中南米探検行は6年の準備をかけ,5年の歳月を費やして行われた.地形や気象,地磁気などを測るとともに,自然を深く愛好し,自然界の全貌を絵画のように描きだした.多数収録されている図版も楽しい.生態学
責任という虚構小坂井敏晶東京大学出版会責任とは何か.個人が負う責任,集団が負う責任,企業責任,歴史的責任・・.これらに共通する責任とは何なのか?自由と責任は本当に関連があるのか?本書は,責任と呼ばれる社会現象について,歴史的な集団殺戮や死刑制度、冤罪などをテーマに考察する.私が本書を読むきっかけとなったのは,ある学生の処分をめぐる委員会に出たことによる.その場の雰囲気で意見が傾倒する場面に遭遇し,集団にはたらく心理の危うさを感じた.本書を読んでそういうことがありえるということを納得した.社会学
帝国主義と第一次世界大戦漫画版世界の歴史8集英社文庫担任するクラスの学生が世界史を学んでいる.日番日誌にも「面白い」という言葉がたびたび登場する.実は私自身は高専では世界史は教わらなかったので,彼らの方がよく知っているぐらいだ.「そんなことも知らんの?」と言われたくないために手にした1冊.漫画だが要点はしっかり抑えられている.20世紀の歴史は面白いし,知っていて損はないでしょう.世界史
たべもの起源事典・日本編岡田哲ちくま学芸文庫駅蕎麦・豚カツにやや珍しい郷土料理,レトルト食品・デパート食堂まで.広義の〈和〉のたべものと食文化事象がなんと1300項目収録されている.文字通りの事典であるが,全349ページをふむふむと読み進める私を他の通勤客は好奇の目で見ていたであろう.面白すぎて読み飽きることはないが,ただ難点は小腹がすくこと,よだれが出ることの2点である.民俗学



10月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
巨大古墳
−治水王と天皇陵−
森 浩一講談社学術文庫私が生まれ育った南河内地方には,謎の多い誉田山(こんだやま)古墳(応神陵),大山(だいせん)古墳(仁徳陵)など雄大な古墳がたくさんあった.本書は数々の発掘調査に携わった著者が多数の航空写真や図解とともに鋭い史眼で古墳の魅力を語る.日本史
迷惑行為はなぜなくならないのか?
−「迷惑学」から見た日本社会−
北折充隆光文社新書駐車違反や公共の乗り物の中での座席の占領,ゴミのポイ捨てなど「まったく迷惑!」と思われる行為が後を絶たない.世の中の色々な迷惑は,社会心理学の領域では,「当該行為が,本人を取り巻く他者や集団・社会に対し,直接的または間接的に影響を及ぼし,多くの人が不快に感じるプロセス」と定義される.それは法律違反である必要はないし,実害が生じる必要もない.短時間かどうかなど問題の俎上(そじょう)にも載らないし,迷惑を及ぼしている側に自覚があるかどうかさえ,必要条件ではない.ポイントは「多くの人が不快に感じる」かどうか,この一点に尽きる.社会学
人はなぜ集団になると怠けるのか
−「社会的手抜き」の心理学
釘原直樹中公新書個人が単独で作業を行った場合にくらべて,集団で作業を行う場合の方が一人あたりの努力量(動機付け)が低下する現象は,「社会的手抜き」と言われる.いまがシーズンの秋祭りに登場する神輿も,10人で担いだ場合,一生懸命支えているのは2人,かついでいるふりをしているのが6人,そしてなんとぶら下がっている(!)のが2人なんて言われたりもする.本書は,投票率の低下,不正な生活保護費の受給,年金保険料の不払い,授業中の私語,国会議員の居眠り,相撲の八百長などなど,社会の様々な場面での社会的手抜きを取り上げ,詳しく分析している.集団の中にあって,サボるなと言う方が無理なのかも・・・.社会学

心理学
納豆に砂糖を入れますか?
−ニッポン食文化の境界線−
野瀬泰申新潮文庫探偵ナイトスクープの依頼に出てきそうなタイトルである.表題のほか,「メンチコロッケ」か「ミンチコロッケ」か? 「突き出し」か「お通し」か? 正月に食べるのは鮭? それともブリ? などなど,日本の食文化について考えさせられる1冊.ちなみに我が家では納豆に砂糖を入れることはない.そんなこと,考えたこともないわ・・.社会学
サブカルチャー
おしゃべりの思想外山滋比古ちくま文庫ちくま文庫の外山滋比古氏の著書は全て読んでいるが,本書もご多分に漏れず面白くかつ為になった.ことばの一つ一つに歴史があり,物語があることに気づかせてくれる.ことばで失敗しないため,そして可能性を切り開くために読むことを勧めたい.社会学

サブカルチャー
川の博物誌高山茂美丸善9月に島根県の豪雨災害調査に行った際に,同行させて頂いた先生から紹介されたのがきっかけとなり,本書を手に入れた.理科年表読本の1冊.中学生から一般の人々に楽しめるよう,滝や洪水の歴史など色々なエピソードが集められた本書は,様々な視点から川を眺めることの大切さを教えてくれる.河川工学
富士山と日本人現代思想10月号青土社荒々しい原始の時代から,中世には信仰対象として崇敬を集め,近世には参詣地として庶民の心の拠り所となった富士山.現代においても人々にとって憧れの対象であり,多くの芸術にインスピレーションを与え続けてきた.自然

文化

信仰
科学と宗教と死加賀乙彦集英社新書私が高専の学生だった頃,当時の図書館だよりに担任の先生が読書にまつわる記事を連載されていた.その中で加賀氏の『宣告』という小説が取り上げられていたのが氏のことを知る最初のきっかけであったように思う(残念ながらこの小説はまだ読めていない.いつかはと思ってはいるのだが・・).本書は,精神科医でありまたキリスト教の信徒でもある作家が82年の人生で続けてきた死をめぐる思索の軌跡を綴る.様々な困難に直面しても決して希望を失わない生き方に強い憧れと畏敬の念を抱いた.哲学
いのちを守る気象情報加賀乙彦集英社新書公開講座で風水害について話すにあたり,そのネタ探しで読むこととなった.我々は,常日頃から様々な気象情報に触れているにも関わらず,同じような気象条件・場所で人が亡くなることを繰り返す.「いのちを守る」ためにある気象情報を,なぜ活かせないのか―台風などの典型的な自然災害について,その基本メカニズムや予報・警報の見方,さらにそれをどう実際の行動に結びつけるかに焦点を当て解説してくれる良書.災害ごときで命を落としてはならない.防災

気象



9月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
悪のしくみ松田哲夫・編あすなろ書房中学生までに読んでおきたい哲学シリーズ(全8巻)の2巻目.井上ひさし『万引き』,遠藤周作『善魔について』,池田晶子『いじめの憂鬱』など,“悪”とは何か?について考える楽しみに満ちた18編の短編が収録されている.井上氏の『万引き』は,この件で警察にお世話になった者にとっては必読の作品でしょう.私がもっとも印象に残ったのは,吉村昭の『鰭紙(ひれがみ)』という掌編.圧倒的な自然の猛威の下,生き延びるためにはあえてタブーを破らざるを得なかった人たちの行為を,誰が罪だと非難できようか.哲学
図解・プレートテクトニクス入門木村学

大木勇人
講談社ブルーバックスプレートテクトニクスは,地球表面の岩石圏に見られるさまざまな構造や変動を解き明かす科学である.本書は,地震はもちろん,火山,山、海底ができるしくみまでを豊富なイラストと丁寧な解説でわかりやすく教示してくれる.地球のからくりが見えてくる1冊.入門にとどまらない奥深い説明がいい.地球物理学
ペスト大流行
−ヨーロッパ中世の崩壊−
村上陽一郎岩波新書14世紀中葉,黒死病とよばれたペストの大流行によってヨーロッパでは3000万人!ちかくもの人々が死に,中世封建社会は根底からゆり動かされることになった.人類の歴史は疫病との戦いでもあると改めて思った.読みやすいので入門書としておススメ.世界史
鯰絵
−民俗的想像力の世界−
C・アウエハント岩波文庫安政二年の江戸大地震直後に,ユーモアと風刺に富んだ多色摺りの鯰絵が大量に出回った.基本モチーフは,「地震鯰」「鹿島大明神」「要石」である.鯰絵とそこに書かれた詞書には世直しなど民衆の願望も表象されていた.日本文化の深層を構造主義的手法で鮮やかに読み解く日本民俗学の古典だが,海外の研究者がここまで調べ上げたということに驚きを隠せない.カラー図版を見ているだけでも,当時の人々がいかに地震を恐れていたかが伝わってくる.歴史地震
治水神・禹王をたずねる旅大脇良夫

植村義博
人文書院母校の大学で行われた歴史洪水についての研究会で,ある先生が本書を紹介されていて,それが読むきっかけとなった.全国に広がる中国古代の帝王・禹の事績を丁寧に調べ上げた好著.その陰には水害に苦しみ,治水に心を砕いた人びとの祈りが垣間見られる.これまで確認された国内57か所の碑文解説,建立の経緯,地形図,交通案内などをまとめたデータ編をたよりに各地の禹王伝説を訪ね歩いてみたい.土木史
水の文化史富山和子中公文庫先月触れた『水の旅』と同じタイミングで再リリースされた富山和子さんの紀行文集.淀川,利根川,木曽川,筑後川の四大河川を中心に,日本人がいかに川や水と密接に関わりながら国土と文化を築き上げてきたかをロマンあふれる筆致で描く.水問題,環境問題を取り上げ,社会に警鐘を鳴らした先駆的な名著.紀行
無縁社会NHKスペシャル取材班文春文庫東日本大震災で「絆」という言葉が改めてクローズアップされたが,身元不明で「行旅死亡人」となったり,家族に引き取りを拒否されたりするなどして,孤独な死を迎える人も少なくない.本書は,年間32000件にも及ぶ無縁死の周辺を丹念に取材し,血縁・地縁・社縁が崩壊した現代社会へ警鐘を鳴らす.社会学
夢を跳ぶ
-パラリンピック・アスリートの挑戦
佐藤真海岩波ジュニア新書2020年の東京オリンピック招致を決めたのは,9月に開かれたIOC総会での力強いプレゼンテーションであったように思う.その重役を担った一人,佐藤真海さんは陸上競技のパラリンピアンでもある.本書は,19歳のときに骨肉腫を発症し右足膝下を失った著者が,北京パラリンピック陸上競技・走り幅跳び日本代表に選ばれるまでの道のりを語る.辛い闘病生活,生きる意味を問い続けた日々,競技者としての苦悩….さまざまな困難を乗り越えて,あのプレゼンテーションでのスマイルがあったのかと感動した.障碍者スポーツ



8月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
京都の平熱鷲田清一講談社学術文庫大阪大学総長を務められた鷲田先生が,京都のご出身とは本書を読むまで知らなかった.京都生まれの京都育ち哲学者が古都と気質のからくりを語る.観光ガイドではないが,平熱の京都を知るにはうってつけの1冊.哲学
一つ目小僧その他柳田国男角川ソフィア文庫このところ角川ソフィア文庫が柳田国男氏の著作を重版しはじめた.和風なカバーも統一感があって良い.何よりも埋もれていたかつての名著を手ごろな値段で読めることが嬉しい.本書は,その1冊で,一目小僧,物言う魚,ダイダラ坊の足跡ほか,日本全国に広く伝わる伝説を蒐集・整理して丹念に分析.それぞれの由来と歴史,人々の信仰や風習を辿りながら,妖怪が生まれる背景について大胆な仮説を提唱する伝説研究の代表作.妖怪の話は,地域防災にも活かせるハズ.民俗学
おとなのいない国鷲田清一

内田樹
角川文庫気づいてみれば,みんなで「こんな日本に誰がした」を大合唱.誰も「こんな日本に私がした」とはゆめゆめ思っていない.老いも若きも「責任者を出せ!」と騒ぐクレーマー天国で,絶滅危惧種「本当の大人」をめぐって二人の哲学者がとことん語る.「まったくそのとーり!」と思わず膝をうつ1冊だが,成熟した社会では「本当の大人」になることは実はとても難しいことだと思う.そうなろうという努力は忘れたくはありませんが・・.社会学
対談集
日本人のくらしと文化:
炉辺夜話
宮本常一河出文庫旅する民俗学者と言われた宮本常一氏の講演集.フィールド調査の達人が,聴き出した山の中,離島,そして町なかでのくらし.今では失われた日本人の懐しい文化が脈々と息づいている.民俗学
水の旅富山和子中公文庫小学生の時に,父親が買ってきてくれた富山さんの「川は生きている」を読んでとても感動した.いまの分野に進んだのも小学生の時に出会ったこの本がきっかけと言っても過言ではない.本書は先人たちが各地に残した歴史の痕跡を訪ね歩いた渾身のルポルタージュ.30年ほど前に出た本だがその内容は古くはない.今では当たり前の話も書かれた当時は画期的な切り口だったんだろうな,きっと.紀行
教師の資質諸富祥彦朝日新書多様化する生徒・保護者を前に奮闘する先生たち.本書は,全国の学校問題に取り組んできた著者が,本当に求められる資質とは何なのかを説く.教育に重きをおく高専の教員も読んでおいて損はない1冊.学生を前にして,やはり生徒(学生)を前に高いモチベーションを見せられなければ,この職業には就いていけないように思う.教育
富士山小山真人岩波新書学生時代,ワンダーフォーゲル部に所属しておきながら,富士山には未だに登ったことがない.富士山は見る山だという話も聞いたことがある.本書は,長年この山を間近で見つめてきた著者をガイド役に,その豊かな自然を旅する.地学的な視点からの記述も好奇心をくすぐられる.紹介される七つの探訪コースを眺めていると,なんだか登りたくなってきた.自然
阪急沿線謎解き散歩私鉄沿線散歩の会新人物文庫これまでの謎解き散歩シリーズは都道府県や都市を対象にしたものだったが,ついに我が家の沿線も取り上げられることに!本書は電車の特色から歴史,名所,祭り,ご当地グルメまでをあますことなく紹介してくれる阪急沿線ガイドの決定版! 地理

歴史
人類と建築の歴史藤森照信ちくまプリマー新書土木工学もそうだが,建築はよりしっかりと歴史を学んでいるように思う.土木史を教科として学ばない土木系の学科は多いが,建築史を教えていない建築系の学科はあまりないのではないかと思う.本書は人類が建築を生み出してから現代建築まで変化させていく過程をダイナミックに追跡した1冊.悠久の歴史の流れとは対照的に建築は常に変化している.建築学



7月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
零戦
−その誕生と栄光の記録−
堀越二郎角川文庫戦闘機の歴史に名を残す名機・零戦の主任設計者が,当時の記録を元にアイデアから完成までの過程を克明に綴っている.「私が尊敬する“ヘリコプターの父”イゴール・シコルスキーの自叙伝に,「自分の仕事に根深くたずさわった者の生涯は,一般の人の生涯よりもはげしい山と谷の起伏の連続である.」と書かれているように,大きな仕事をなしとげるためには,愉悦(ゆえつ)よりも労苦と心配のほうがはるかに強く長いものであることを言いたい.そして,そのあいまに訪れる,つかのまの喜びこそ,何ものにもかえがたい生きがいを人に与えてくれるものである」−技術者冥利に尽きる人生とは,彼のような生き方をいうのかもしれない.ノンフィクション
津波,噴火・・・日本列島地震の200年史保立道久

成田龍一編
朝日新聞社出版地震,噴火,津波など,古代からの日本の災害の歴史を,第一線の歴史学者たちが解説し,この国で生きていくために歴史の知恵をどう生かすかを学ぶ.「災害は忘れられたる頃にやってくる」のではなく,忘れなくてもやってくる!このことを強く認識させられる1冊.防災
辞書を編む飯間浩明光文社新書辞書の編纂者の世界を描いた三浦しをんさんの『舟を編む』が話題になっているが,本書は『三省堂国語辞典(サンコク)』の改訂作業に追われる辞書編纂者が,辞書作りの実際を惜しみなく公開している.国語辞典が間違いなく好きになる1冊.ちなみにうちの研究室にあるのは『広辞苑』(岩波書店)と『新明解国語辞典』(俗称:新解さん),『サンコク』は次の購入の機会に検討することにしよう.言語学
日本人の英語マーク・ピーターセン岩波新書ネイティブの著者が出会ってきた日本人の英語の問題点を取り上げ,従来の文法理解から脱落しがちなポイントをユーモア溢れる例文で示しつつも英語的発想の世界へ読者を誘う良書.驚くべきは著者の日本語力である.『アメリカ人の日本語』を英語で書くなんて私には逆立ちしても無理だが,著者の日本語には全く不自然なところがない.『続・日本人の英語』『実践 日本人の英語』『心にとどく英語』もあわせてオススメ.英語
風土記吉野裕・訳平凡社ライブラリー奈良時代初期の官撰の地誌である風土記(ふどき)は,律令制度を整備し全国を統一した朝廷が,地方統治の指針にしようと編纂したもので,その内容は,1.郡郷の名,2.産物,3.土地の肥沃の状態,4.地名の起源,5.伝えられている旧聞異事となっている.現存するのは『出雲国風土記』(ほぼ完本),『播磨国風土記』・『肥前国風土記』・『常陸国風土記』・『豊後国風土記』(一部が欠損)の5つで,その他の国については,後世の書物に逸文として引用された一部が残るのみである.このうち『播磨国風土記』は,身近な地名が出てきて面白い.歴史
地球全史の歩き方白尾元理岩波書店我が国ではジオパークなるものが新たな観光資源として注目されつつあるが,本書は地球スケールで,大陸移動,恐竜絶滅,スノーボールアース,生命の誕生などの「大発見」の現場を鮮やかな写真で紹介.いつかは行ってみたいけど,「ちょっとそこまで」という軽い気持ちで訪ねることができる場所ではない.今は写真でガマン,ガマン.地学
わだつみのうた合川南小学校地震津波遭難記録編纂委員会秋田書房昭和58年5月の日本海中部地震から今年はちょうど30年.当時,私は小学1年生であったが,このニュースのことは全く記憶にないことが悔やまれる.本書は,この地震による津波で犠牲となった合川南小学校の児童たちの遭難記録である.胸を弾ませて遠足に出かけた児童たちが,なぜ津波によって亡くならなければならなかったのか,涙なくしては読めない1冊.災害伝承
運命の三叉路
−学童津波遭難に揺れた秋田県合川町の十年−
岡 三沙子武蔵野書房本書もまた日本海中部地震での合川南小学校の児童たちの地震津波遭難記録である.事故後の裁判にまで話が及んでおり,そうした点では貴重な資料ではある.しかし,時おりあらわれる感傷的な文章は読んでいて非常に重苦しく感じられ,そういう意味では『わだつみのうた』とは違った感情が読後に残った.災害伝承



6月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
天孫降臨の夢−藤原不比等のプロジェクト−大山誠一NHKブックス実家近くにある叡福寺(大阪府南河内郡太子町)にはそのお墓があるなどして,聖徳太子は揺るぎのない歴史上の人物だった.ところが,本書を読んでみてビックリ.なんと「聖徳太子はいなかった」そうなのだ.確かに本書を読み進めていくと「そうかもしれない」という気持ちになってくる.しかし,では誰が法隆寺を建立したのかとなると,太子の存在は無視できないように思う.どっちが本当なのか白黒はっきり付けることも大事だが,決定的な史料がない分には,どちらとも決めかねない解釈があってもよい.その方がロマンを駆り立てられるのでは?歴史
日本の地名谷川健一岩波新書各地に残された地名こそ弥生の時代から近世まで,名もなき人々の暮らしの記憶を伝えてきたものであった.これら小さな神々のあとを丹念にたどりながら,文書には記されないもう1つの日本の歴史を読み解こうとする意欲作.古くから地名には先人たちのメッセージがたくさん詰まっているので,その由来をちょっと知っているだけで,いざという時に役立つかも.地名学
神と自然の景観論野本寛一講談社学術文庫日本人が聖性を感じ,神を見出す場所にはどのようなところがあるのだろうか?本書は,全国各地で人々を畏怖させる火山・岬・洞窟・淵・滝・島などの自然地形を紹介.旅行の際には近くのパワースポットを訪ねてみるのも面白い.民俗学
妖怪文化入門小松和彦角川ソフィア文庫憑きもの・河童・鬼・天狗・山姥・幽霊・異人などなど.太古の昔から日本人は妖怪や迷信とともに生き,不安や恐れ,神秘感といった思いを共有して文化をかたちづくってきた.本書は,絵巻や物語に描かれてきた異形・異類・異界のものの歴史を丹念にたどり,豊かな妖怪文化を築いてきた日本人の想像力と精神性を明らかにする.民俗学
自然災害から命を守る科学川手新一

平田大二
岩波ジュニア新書地震・津波・火山噴火・集中豪雨・豪雪・台風・竜巻・雷・・・.これら自然現象が人の命を脅かす.日本には,なぜ自然災害が多いのか?そのメカニズムを知り,自分たちの住む地域の地盤や地形を調べておくことで,被災してもサバイバー(生存者)として生き延びる可能性は高くなる.来年の防災工学の副読本はこれにしよう.防災
永遠のゼロ百田尚樹講談社文庫いつの集会(式典)だったか忘れたが,校長先生が本書を紹介されていた.ベストセラーになっているので既に読み終えた人もいるのでは?あくまで小説だが,戦争の描写そのものは少しもブレていない.零戦パイロットなど,実在の人物も多く描かれている.彼らの生涯を調べると,つい最近まで結構な方々が生きておられたことに驚く.随分と若い頃から出征したからである.しかし,ここ10年でそうした人々も多くが泉下の客となってしまった.直接話を聞けるのも,この先10年ぐらいか.私たちは貴重な時間を生きている.小説
上宮聖徳法王帝説東野治之・校注岩波文庫聖徳太子(厩戸皇子)についての現存最古の伝記.仏教興隆や冠位十二階など,太子とその一族にまつわる事績や,欽明天皇から推古天皇にいたる関係系譜などが記されている.やはりこういった書が現存する限りにおいては,聖徳太子は居たのではと私は思いたい.歴史



5月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
日本書紀
【全五巻】
岩波文庫奈良時代に編纂された我が国最古の正史ということは歴史の時間に教わった.実際にこれを読む気にはなかなかなれなかったが,今年のGWに読破しようと思い立った.特に面白かった(印象に残った)のは冒頭の「神代」(かみよのまき)で,『古事記』の内容と被るが微妙に記述が異なる面もあって,この差は何なのだろうかと不思議に感じた.私が生まれ育った南河内地方は古代史ゆかりの史蹟も多く,もっと興味をもって自分の住んでいる町を調べておけばよかったと後悔.今からでも遅くはないので,機会をみつけてあちこち歩いてみたい.歴史
元素図鑑中井 泉ベスト新書我々の身の回りにあるものは全て元素から出来ている.本書は,考古学,生命科学,芸術などの視点からみた元素の世界をカラフルな写真つきで紹介している.元素記号が身近に感じられる(かもしれない)1冊.化学
教養の力斉藤 兆史集英社新書私が大学に編入したころには,教養部というものは既に解体されていたが,いまでも「あの人には教養がある」などという言い方をするし,最近では「リベラル・アーツ」なんて言葉もある.教養というのはどういうことなのか?たとえば正義感をもつことは重要であり,我々は生活の様々な場面で自分の立場を決定し,それに基づいて行動しなければならない.その際に正義を見極めるための様々な情報を有しているかどうか,そして様々な視点から状況を分析して自分なりの行動原理を導くバランス感覚があるかどうか,それが教養を身につけているかどうかの指標になる.これを身に付ける一つの方法は,古今東西の名著を読むことであると私は考えているが,みなさんはどうでしょう?社会学
心のケア加藤 寛

最相 葉月
講談社新書心のケアの実際の活動と,そこで大切なことについてまとめられた好著.我々も被災地調査の折,被災者の方々と言葉を交わす機会があるが,その接し方のヒントも書かれている.「親切の行き違い」だけは避けなくてはいけない.本書の中の「支援者は大層なことをする必要はない.テーブルが汚れていたらそっと拭き取るような,あたり前の気遣いがあればいいんです.」という言葉が身に沁みた.心理学

防災教育
理想と決断桑子 敏雄NHKライブラリー都市工学の手がける公共事業の類は,さまざまな立場の人が関与するために,一概に「賛成」「反対」で結論づけられるものではない.たとえば,高速道路をつくるといった話が持ち上がった場合に,それを利用することによって生活が便利になる人は賛成するだろうが,そうではない近隣住民にとっては騒音や排ガスなどの負の側面を気にするであろう.このような膠着した場面でどのような決断を下すべきなのか?本書は,現状の行き詰まりに直面して,身動きできなくなったところから問いを発する人々に対して,「理想を語り,そして決断をするための哲学」を教授してくれる良書.現代哲学
哲学のヒント藤田 正勝岩波新書なぜ今日の空は美しいのか,親しい人を喪うとはどういうことなのか,私とは何か,哲学の問いは日常のなかから生まれ,誰にとっても身近なものであるはずである.本書は,古今東西の思想家の言葉を引用しながら,「思索の旅」を始めるためのヒントを示してくれている.哲学
小さな建築隈 研吾岩波新書「積む」「もたれかかる」「織る」「ふくらます」をテーマに様々な建築物をそれらの写真を交えながら紹介するテキスト.まち歩きの際もこの4つの観点から建築物を眺めてみると楽しいかも.建築学に興味のある学生にオススメ.建築
大地震にあった子どもたち清水 賢二ほか日本放送協会1983年の日本海中部地震は学童の痛ましい犠牲をもたらした.本書は地震に襲われた小・中学校を一校一校訊ねまわって,先生方や子どもたちと膝を交えて話をし,膨大な写真や体験作文を持ち帰った著者らが,防災教育の観点から当時の様子を再現した大変貴重な記録である.具体的な対策については,本書を読んだ教員がそれぞれの学校の状況に応じて日頃から考えておくことが大切である.地震

防災教育
大阪の神さん仏さん釈徹宗

高島幸次
株式会社140B住吉大社,四天王寺,生國魂神社,大阪天満宮など大阪には数多くの寺社があるが,これらの「神さん仏さん」との付き合いが,身内びいきでコミュニケーション上手,合理主義で新しいもん好きという大阪の人々の精神性を培ってきたとも言える.対談形式で書かれていて読みやすい.民俗学
自然災害と民俗野本 寛森話社朝日新聞の書評欄で紹介されていたことがきっかけで本書を手にした.地震・津波・噴火・山地崩落・台風・河川氾濫・雪崩・吹雪・旱天などなど,生活を脅かし,ときに人命までをも奪う自然災害に,日本人はどう対処してきたのか.災害と共に生きるための民俗知・伝承知がまとめられた良書.民俗学



4月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
大阪の橋ものがたり伊藤 純ほか創元社江戸は八百八町と称されるのに対し,水の都・大坂は「なにわ八百八橋」と言われてきた.本書は,なにわ三大橋(難波橋・天神橋・天満橋)など,いまなお現役で活躍する橋をはじめ,桜橋などの消えてしまった橋や珍しい橋など,全八十八の橋の魅力を豊富な図版をもとに伝えてくれる好著.土木工学
日本の建築
-歴史と伝統-
太田 博太郎ちくま学芸文庫本校都市工学はどちらかと言えば,土木工学を主体に置いた学科であるが,耳を傾けると「建築志望」の学生も多い.でも,いったい「建築」って何なんだ?と好奇心を持ったり,実際にまちあるきなどして自ら主体的になって動いている学生は少ないように思う.本書はそのような学生が「建築」の世界に飛び込むきっかけとなるオススメの1冊.建築学
夜と霧V.E.フランクルみすず書房フランクルの『夜と霧』は大学生以来,何度か読んできたものであるが,このたびNHKの教養番組『100分 de 名著!』で取り上げられていたのを機に再び読もうと思った.本書に書かれていることはまぎれもない歴史の事実であり,そのことを知っておくことは現代に生きる私たちの責務でもある.最近『希望学』なるものに興味のあった私には,今回の読書で極限の中における希望について深く考えさせられることが多かった.歴史
奈良名所むかし案内本渡 章創元社春の学年行事で奈良に行くことになったので,本書を手に「予習」?することにした.実際に行ってみて,本書に載せられている図会の精度の高さにビックリ.江戸時代の大ヒット旅行書シリーズ「大和名所図会」から30の場面を厳選した本書は,江戸期の奈良に生きる人々の姿を余すことなく伝えてくれる.地理
歴史
民家文:立松和平
写真:日ビサ貞夫
山と渓谷社「さがしてみよう 日本のかたち」シリーズの第5巻となる本書は,東北地方の曲り屋,北陸の合掌造,関東の兜造,信州の大棟造,近畿の大和造,町家,沖縄の民家など,各地の風土に見合った懐かしい古民家を見ることができる.生活の知恵がいっぱい詰まったこのような家にやがては住んでみたいものだ.見応え・読み応えたっぷりの解説絵・解説文も良い.民俗学
はじめて読む古事記武満誠角川ソフィア文庫八幡さまやえびす様,日本には八百万の神さまがいるとされている.それらの多くは権力の象徴とされた神社や古代の歴史と深く結びついている.本書は豊富な地図や系図をもとに,神様と神社の関係についてわかりやすく解説.これからはぷらっと出かけた旅先での神社めぐりも楽しみの一つとなりそうだ.歴史
科学以前の心中谷宇吉郎河出文庫雪の結晶の研究に一生を捧げた日本を代表する科学者・中谷宇吉郎先生は,名随筆家でもある.これまで何冊か読んでその文章の美しさ,わかりやすさに魅せられてきたが,本書にはこれまで目にしたことのないレアな作品も収められており読み応えがあった.随筆
龍の棲む日本黒田日出男岩波新書辰年生まれの私にとって,龍は特別な存在である.中世日本の人々にとっても,畏れをもった存在であったようだ.たとえば,当時の人々は地震や噴火は地底にわだかまる龍の鼓動であり,また神々は元寇の際に,龍の形をとって日本の国土を守護したとされる.古地図に描かれた龍から,日本の国土について災害の視点も踏まえつつ論じている点が面白い.歴史



3月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
川のある街−伊勢湾台風物語−清水義範中日新聞出版社とある学会で名古屋に遠征した際に,伊勢湾台風関連の書籍を探していたところ,本書に当たった.清水氏のパロディを中心とした小説,エッセーの多くを読んできたが,ご自身の体験に基づいて書かれた話だけにリアリティが感じられて違った意味で新鮮だった.日本の防災の転機となった伊勢湾台風をもっと詳しく知りたい人には,『伊勢湾台風−水害前線の村−』(岡邦行・著,ゆいぽおと)や記録集『忘れない 伊勢湾台風50年』(中日新聞出版社)もオススメ.小説

災害伝承
艦砲を見た峠
−聞き書き仙人峠−
箱石邦夫文芸社岩手県釜石市は「鉄のまち」として知られる.さきの東日本大震災で津波による壊滅的な被害を受けたが,同市は太平洋戦争末期に米軍による艦砲射撃でも大きな被害を出した.攻撃されたのは戦器をとなる鉄を生産する製鉄所があったからである.それでも釜石は立ち上がる.「日本の縮図」と評される同市が,今後どのような方向に進んでいくのか?気になる街である.ノンフィクション
生き抜くための地震学鎌田浩毅ちくま新書地震のメカニズム,次にくるであろうとされる「首都直下地震」「西日本大震災」,防災から減災へのストラテジーがわかりやすく書かれている.京大生をひきつけてやまない人気の地球講義の紙上再現は,防災工学を担当する私にとっても勉強になる.特に図がわかりやすくて良い防災
石巻災害医療の全記録石井正講談社ブルーバックス宮城県石巻市は今回の東日本大震災で自治体としては最大の犠牲者を出した.行政や医療機関がマヒする中,石巻圏合同救護チームは立ち上がる.本書はそのリーダーとなった石井氏の7ヶ月の活動記録である.次の広域災害発生時の災害医療の知恵がここにはある.防災
利休にたずねよ山本兼一PHP文芸文庫「侘び茶」を完成させ,「茶聖」と崇められている千利休.しかし,彼は同時に時の権力者のすぐれた参謀でもあった.豊臣秀吉に取り入れられその才能を如何なく発揮し,次第に地位を高めていく.しかし,それゆえに秀吉の天下統一後は妬みの対象となり,言いがかりによって切腹を命じられる.本書は新たな視点で書かれた利休像に出会える.第140回直木賞受賞のこの作品は映画でも話題になった.(私はまだ見ていないけれど・・・)小説
教室内カースト鈴木翔光文社新書学校は社会の縮図である.教室もしかり.序列というものは私が学生の頃,いやもっと昔からあっただろう.本書は,最近の学校の教室内で見られる児童・生徒の人間関係,力関係を良く捉えた好著.担任の先生は必読の1冊.もちろん高専のクラス内においてもその傾向は見受けられる.学校教育
希望のつくり方玄田有史岩波新書希望は人から与えられるものではないが,自分で見出すにはどうすればいいか?「希望学」を提唱する東大教授の著者によれば,希望には4つの柱があると言う.まず,wish(思い・願い)である.気持ちがなければ希望は持てない.その次はその人にとっての大切なsomething(こうありたい,ああなってほしいという何か),これを見定めることが大事.3つ目はcome true(実現).夢を実現するためには情報収集や学習が欠かせない.そして最後がaction(行動).いま希望が見えないと感じている人は,この4本の柱のどれかがまだ見つかっていない状況である.社会学
失敗のメカニズム芳賀 繁角川ソフィア文庫失敗は誰にでもつきものだ.大切なことは,失敗に学び,次に活かすことである.本書は,間違い電話,交通事故,医療事故,そしてJCOの臨界事故など身近な出来事,社会ニュースを題材に人間が犯す失敗(ヒューマンエラー)を理解し,対策するためのポイントを満載.絶対「ミス」をしないと思う人も,「ミス」が多いと思う人も必読の一冊.失敗学
赤ひげ診療譚山本 周五郎新潮文庫山本周五郎氏の作品を初めて読んだのは中学の国語の時間である.「内蔵助留守」という短編が収められていたように思う.直木賞に推されてこれを蹴った無冠の実力派が描くのは,懸命に生きる普通の人々である.だからこそ,今でも多くの人に読み継がれているのであろう.本書は,小石川養生所の“赤ひげ"と呼ばれる医師と,見習い医師との魂のふれ合いを中心に,貧しさと病苦の中でも逞しい江戸庶民の姿が描かれている.小説



2月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
ある老学徒の手記鳥居龍蔵岩波文庫鳥居龍蔵は,明治・大正・昭和の激動を生き抜いた考古学者,人類学者,民俗学者である.東アジアを中心としたフィールドワークで多くの知見を残した.本書は,そんな彼の自伝である.驚くべきは,小学校を中退し,独学で人類学を勉強したとある.学校は単に立身出世の場であり,裕福な家庭に生まれた自分には必要ない.むしろ家庭で自習する方が勝っていたと考えていたそうだが,そのようなことが許された時代だからこそ生まれ得た偉人だったのかもしれない.徳島での幼少期の話も,同地で学生時代を過ごした私には,なんだか懐かしく感じられた.随筆
高校生のための批評入門梅田卓夫ほかちくま学芸文庫高専時代に「全てを疑え」という言葉を教えて下さった先生がおられる.批評の原点もこの精神にあるように思われる.編者によれば,批評は『する』ものではなく,既に『ある』ものである.日々感じる「違和感」「驚き」「怒り」などをひとつひとつ丁寧に拾い上げ,その原因を突き詰め,答えをきちんと言葉で表現することで,「私」と「私を取り巻く世界=他者」のあり方を捉え直す.本書は,現在の高専生にはやや背伸びしているかなと思われる珠玉のアンソロジーが51編収められている.評論
おもしろい物理学ペレリマン現代教養文庫高専時代の物理学の教科書は,朝永振一郎氏の『物理学読本』であった.そのことを日頃クラブ活動でお世話になっているライバル高専の先生にお話したら,「こんな本もありますよ」と紹介されたのが本書である.なるほど,面白い.当時,ソビエト連邦と呼ばれたかの国で,このような青少年向けの科学的読み物が出版されていたこと自体に衝撃を受けた.本文を読み終えて,版元をみると,なんと偶然にも私の生まれた日に出版された代物であったことが判明.研究室書棚への殿堂入りは間違いなしの1冊.物理
読売新聞の「編集手帳」
第1集〜第10集
竹内政明中公ラクレ新書小学校での臨海合宿の夜,お風呂上りに皆で新聞を眺めていたら,つかつかと先生が寄ってきて朝刊一面のコラム欄の文章が面白くてタメになるよと教えてくれた.私の書く某通信のネタどころのひとつにもなっている.とにかく,筆者の引き出しの豊かさに感服するばかりである.随筆
あなたへの一句黛まどかバジリコ株式会社年間3万人もの自殺者がいる現代の日本.俳句の力で,少しでも世の中を元気づけ,苦しむ人にエールを送りたい,そんな思いで2006年に筆者らが始めた『俳句でエール!』.著者自身の俳句を含め,有名俳句をわかりやすい解説付きで紹介.一日,一句,《十七音の応援歌》が読む者に希望と元気を与えてくれる.俳句
思い出袋鶴見俊輔岩波新書大正生まれの哲学者・思想家である鶴見俊輔が80歳〜87歳の期間,岩波書店の雑誌『図書』で連載したエッセイを集成したもの.戦中・戦後をとおして出会った多くの人や本,自らの決断などを縦横に語っている.その語り口は80歳を超えているとは到底思えないほど,新鮮である.随筆
科学者の自由な楽園朝永振一郎岩波文庫本書を著した朝永振一郎先生は幼少の頃より泣き虫で体が弱く,「栴檀(センダン)は双葉より芳し」(大成する者は幼い時から人並み外れてすぐれているという意)というタイプではないが,のちにノーベル物理学賞を受賞する.同賞の受賞は湯川秀樹氏に次ぐ快挙であった.本書に載せられた随筆,講演,紀行文の随所には,朝永氏の温かな眼差しが感じられる.願わくば,我々の職場も自由な楽園であってほしい.随筆
14歳からの社会学
−これからの社会を生きる君に−
宮台真司ちくま文庫「これからの社会をどう生きればいいのか」−大人も子どももみな不安を抱えて生きている.本書は,「社会を分析する専門家」である著者が,この社会の「本当のこと」を伝え,いかに生きるべきか,という問題に正面から向き合う.なぜ社会に「ルール」があるのか,「恋愛」と「性」,「仕事」と「生活」,「生」と「死」などの身近な話題をわかりやすく語る.学校じゃ学べない「社会の本当」が見えてくる.社会学
飛ぶ力学加藤寛一郎東京大学出版会ドラえもんではないが「空を自由に飛びたいな」という人類の長年の願望は,航空機の開発によって成し遂げられる.本書では,「飛行力学」で取り扱われる,風見安定,流れの本質,大きさの影響,さらには操縦の極意をシンプルなイラスト付きでわかりやすく解説.なぜ空を飛べるのか,万人の疑問に答えてくれる良書.工学
200年企業日本経済新聞社・編日経ビジネス人文庫老舗(しにせ)という言葉がある.一般には,30年以上事業が続いているところをそのように呼ぶようであるが,本書には創業200年以上の企業が紹介されている.創業200年を越す企業の数は3,000以上とも言われている.業種別でみると,酒造・和菓子・製造業など伝統産業が多くを占めているというが,その経営は伝統を守りつつも,時代の変化に応じて柔軟に対応している.その結果,それぞれの今日がある.学校も時代に応じて変化を求められるが,老舗企業の姿勢に学ぶところは多いだろう.身近な企業が意外にも老舗だったりして,驚きと発見の連続の1冊.ビジネス



1月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
神戸震災日記田中康夫新潮文庫在籍する学生の多くが「生まれる前の話」となった,阪神淡路大震災.本書は,震災直後からバイクに跨がり,被災地に水やら生活用品を送り届け続けた著者による渾身のレポート.(表向きは)すっかり綺麗になった町の当時の様子がよくわかる.災害伝承
瀬戸内海の発見西田正憲中公新書瀬戸内海は,本州・四国・九州に挟まれた内海である.古くから畿内と九州との交易などで栄えた.私の研究室でも調査フィールドの一部分となっている.瀬戸内海の魅力はなんと言っても穏やかな海と数々の島で形成される多島美であろう.本書は瀬戸内海を素材に,日本人の景観認識の変化を辿るものである.景観について興味ある学生にオススメ.社会科学
生存者−アンデス山中の70日−P・P・リード新潮文庫40年前の1972年の今日,奇跡の生還を伝えるニュースが世界を巡った.同年10月13日に,ウルグアイのラグビーチームとその家族を乗せたフェアチャイルド1217号がアンデス山脈上空で行方不明となり,8日目に捜索が打ち切られた.だが,遭難から72日目,16人の生存者のうち2人が下山,翌日に残りの仲間が雪中から救助されたのだ.捜索打ち切りをラジオで知った遭難者は死んだ仲間の肉を食べ生き抜いていたことが後に明らかとなり,大きなショックを与えた.この話は『生存者』(英語: Alive:The Story of the Andes Survivors)というタイトルで映画化もなされている.ノンフィクション
地図をつくった男たち
−明治の地図の物語−
山岡光治原書房明治時代,国土の地図作りは陸軍参謀本部陸地測量部(国土地理院の前身)によって行われていた.本書は,近代地図作成に心血を注いだ技術者たちの歴史を描いた「知られざる地図の物語」.映画「剣岳−点の記−」にも出てくる測量技師たちの息遣いが伝わってくる1冊. 測量学
災害と子どものこころ清水将之集英社新書災害弱者には,高齢者や障がい者だけではなく子どもも含まれる.子どもは被災した後も人知れず心に痛手を被っており,心傷反応(トラウマ表出)は忘れたころに現れることが多い.そうした状況のもとでは当然,中長期的な見守りと励ましが必要であるが,このような事実はあまり知られていない.本書は,災害が子どものこころに及ぼす影響や,子どもを支え守るためにすべき大人の行動について,東日本大震災の災害現場に立った児童精神科医らが取りまとめた良書.教育現場で子どもに関わる人は必読の1冊.心理学
飛行機物語鈴木真二ちくま学芸文庫400トンもある金属の塊が時速1000キロで自由に空を飛ぶ−今では当たり前のことだが,考えてみればとんでもない話である.なぜそのような重いものが飛べるのか?その謎を探る長い歴史はやがて,飛行機という乗り物に結集される.本書は,揚力の探求の話題から,エンジンの原理と歴史,プロペラや翼の理論など,飛行機の要となる工学と技術を,ベルヌーイ(水理学でも登場するあのベルヌーイ!),ライト兄弟などのエピソードをまじえながら紹介する.機械工学だけでなく,いろいろな分野の技術が適用されている飛行機づくりは,まさに技術者ロマンの結晶である.工学
「編集手帳」の文章術竹内政明文春新書4大紙の朝刊コラムのうち,唯一インターネットサイトで無料で読めないのが読売新聞の「編集手帳」である.本書では,この看板コラムを十年以上にわたり執筆してきた著者が心を動かす名文の書き方のコツを明かす.私も6年ほど前から毎日250文字の駄文を書き連ねているが,「笑って,胸打たれて,ためになる」文章を書くことは難しいと日々悶々・・・日本語
面白い本成毛眞岩波新書書評サイトHONZの代表が寄りすぐりの面白い本100冊を紹介.「この本の中には読者のみなさんがこれから10年かけて読むに足る本が詰まっているはずだ」という腰帯に書かれたメッセージには,濫読してきた著者の絶対的な自信を感じる.出版物が氾濫する今日,こういったガイドブックをヒントに読みたい本を絞り込んでいくのも一つの方法だ.読書
百年の手紙
−日本人が遺したことば
梯久美子岩波新書携帯電話やスマートフォンの普及により,肉筆の手紙を書く機会がめっきり減ったように思われる.直筆ならではの届く想いというのはあると信じて,せめて年賀状には一言でも手書きでメッセージをと思っている.本書では,激動の時代を生き抜いた有名無名の人々の,素朴で熱い想いが凝縮された手紙が紹介されているが,自分の書いた手紙が百年先の誰かに読まれることを思うと何だか気恥ずかしい.日本語