Uno's Lab.

ようこそ 神戸高専 都市工学科 宇野研究室へ。
当研究室では、河川、沿岸域の水辺の環境保全・防災に関する研究を行なっています。.
明石海峡 夙川 伊川 ハクセンシオマネキ 加古川 成ヶ島

2012年 読書記録

願わくば,学生時代に一日のたとえわずかでもよいから本を読む習慣をつけてもらいたい. ちなみに私は,行き帰りの通勤電車が「読書部屋」となっている.

 ※★印の本は,その内容の一部が過去の公務員試験の『文章読解』に引用されたものです.この程度のレベルの文章の読解能力が問われます.勉強の参考にして下さい.

12月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
高等学校の確率・統計黒田孝郎ほかちくま学芸文庫本書は実際に高等学校で使われた文部省検定教科書とその指導資料をまとめたもので,シリーズとして他に「基礎解析」と「微分・積分」が出版されている.高専の数学では1年生から検定教科書を使わないことが多いが,同世代がどのような教科書で勉強しているのかを知っておくことはそれなりに価値のあることである.また,指導資料には「教えどころのポイント」が載っているのでこれもまた参考になる.何より教科書は全ての基本であるから,ここに書かれている内容を完全に理解するだけでも相当な学力アップにつながるはず.「確率・統計」をイチから始めたい人におススメ.数学
新大陸が植物の世界を変えた酒井伸雄NHK出版NHKカルチャーラジオ(毎週火曜20:30-21:00)の番組テキストである.学校の帰り道にたまたま聞いて,通しで知りたいと思ったのがこの本を読むきっかけとなった.本書では,新大陸原産の代表的な七種の植物(ジャガイモ・トウモロコシ・トウガラシ・トマト・カカオ・タバコ・ゴムノキ)を取り上げ,それぞれが現代社会や文化にどのように貢献してきたのかを探る.食糧自給率の低い日本の将来についても考えさせられた1冊.文明史
アルプス登攀記
(上・下)
ウィンパー岩波文庫「マッター・ホルン」(その名称はドイツ語で牧草地を表す「matt」と,山頂を表す「horn」に由来)は,アルプス山脈に属する標高4,478mの山である.1865年7月14日,エドワード・ウィンパーら合計7名の一行が登頂に挑戦し,初めてこれに成功した.しかし,その栄光から一転,悲劇は下山時に起こることとなる. 一行はガイドを先頭にザイルで結び合っての下山となった.突然2番手の男が足を滑らせ,3人を巻き込んで滑落.ザイルが途中で切れ,4名が北壁を滑落して行ったのだった.その後の裁判で,事故には犯罪性は無いとの判決が下されたが,生き残った3人は長年疑惑の目に苦しめられたという.本書はこの山行の記録である.最終章に記された登山者への戒めは,百年以上の時を経ても色あせることはない.山岳紀行
ガラスのうさぎ高木敏子フォア文庫東京大空襲で母と二人の妹を失い,その後疎開先に向かう途中で米機の機銃掃射に遭い父親までも亡くした著者の体験を綴ったノンフィクション.戦争の悲惨さと平和への祈りが綴られた本書を,戦争を知らない私たちには読み継いで行く義務がある.戦争
みんなの図書室小川洋子PHP文芸文庫FM東京系で毎週日曜日朝10時から放送されている「Panasonic Melodious Library」は作家の小川洋子さんが毎週1冊,古今東西の文学作品を素敵な音楽とともに紹介してくれる,私の番組お気に入りの番組のひとつである.本書は,その番組で取り上げられた本を選りすぐり紹介したもので,これまでに2冊出ている.巻末には番組で紹介された素敵な音楽のリストも掲載されており,これらをBGMにするときっと読書もすすむことでしょう.読書案内
チップス先生さようならヒルトン新潮文庫原題は,もちろん『Good-bye, Mr. Chips』である.19世紀の末から20世紀の初頭にかけて,全寮制男子校のパブリックスクールで教育に携わった1人の男性教師の半生を描いた作品.パブリック・スクールとは,主に裕福な家の子弟が行く寄宿制の私立学校で6年間の教育を受ける施設である.高専1年生で英語を教わった先生(自称「マーガリー・ヘッソー」というへそ曲りな好々爺であった)の最後の授業で,このチップス先生の話をされ,終礼時はそれに倣って最後の挨拶をしたことを覚えている.アメリカ文学
数学受験指南森毅中公文庫数学も人生も勝負どころは同じ.勝ち抜くための秘伝を伝授する.数学を語ることで人生を語り,人生を語ることで数学を語る.編入試験勉強の息抜きにオススメ.エッセー
この甲斐性なし!と言われるとツラい長野伸江光文社新書大阪の人間にとって「バカヤロー」はひどく傷つく言葉である.宣戦布告と受け取られても仕方のない言葉である(これに対して「アホちゃうか」は「そうや,アホや」で許せる).しかし,関東地域では挨拶や照れ隠し,愛情表現のひとつであった.そのほか,日本人は様々な場面で「ブス」「この甲斐性なし」「犬畜生」「クソ食らえ」などの悪態・罵倒語を使ってきた.本書はこうした豊穣なる?日本語の世界へといざなう1冊.女性をののしりたいとき,男性を懲らしめたいとき,愛をささやくとき,悲しみに打ちひしがれたとき,仲間を励ましたいとき,人生につかれたとき,一発ぶちかましてみるもの悪くない.言語学
長距離ランナーの孤独シリトー新潮文庫マラソンなんかでもそうだがいくら沿道の声援があったとしても,自分との戦いは孤独である.本書は,社会が築いた様々な規制への反撥と偽善的な権力者に対するアナーキックな青年の憤りを描いた1冊.最後の最後でワザと走ることを止めてしまう主人公だが,でもまあ,「走る」こと自体は好きなのだろうな,きっと.イギリス文学



11月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
学びなおすと地学はおもしろい小川勇二郎ペレ出版東日本大震災以降,防災への関心が高まっているが,何よりも大事なのは自分たちの住んでいる地域の地形はどのように形成され,そこにはどのような危険が潜んでいるのかを想像する力である.そのためには,ケース・バイ・ケースの防災知識ではなく,最低限の地学リテラシーを備えておく必要がある.本書は,私たちの身のまわりにある身近な地学の話題を取り上げ,それらの歴史やメカニズムを解説してくれている好著.地学
古地図からみた古代日本金田 章中公新書子どもの頃から大の「地図」好きなので,地図に関連する本かなと思い,手にしたが,本書はどちらかというと古代史を解き明かすことに重きを置いたもので,古地図はそのための一つのツールに過ぎないことがよくわかった.それでも,古地図をもとに,そこから当時の開拓や農業経営,荘園管理の在り方を考察していく話はなかなか面白かった.歴史の好きな人にもおススメ.地誌学
国土の変貌と水害高橋裕岩波新書本書は,都市型水害とは何ぞやということを極めて的確に指摘した書である.それはすなわち,高度経済成長期に入り,水田が宅地化され人口と資産が増加し,都市化が進んだことによって,集中豪雨が中小河川の氾濫をおこしたことによるものである.近著の『川と国土の危機――水害と社会』 (岩波新書)もあわせておススメ.災害
つぶやきのクリーム森 博嗣講談社文庫「何から手をつけたら良いのかわからない状態とは,なんでも良いから手をつけた方が良い状態のことである」「大部分の失敗は,やらなければならない失敗だった」「子供は自由だというが,大人ほどではない」−,そのほとんどが「なるほど!」と思える作家・森博嗣の“つぶより”のつぶやき集. エッセー
パニック人間学高橋郁男朝日文庫大地震,ビル火災,飛行機事故,遭難など,何か突然の事態に遭遇した場合,落ち着いて行動できるかどうかが生死の境目になることがある.本書は,突然襲ってきた予期せぬ非常事態に,人間はどのように反応し,どのように対応できたのか,関東大震災,ホテル・ニュージャパン火災,スリーマイル島原発事故など数々の事例を細かく検証し,パニック状態に陥った人間の行動をわかりやすく解説する.社会心理学
いのちを守る気象学青木 孝岩波書店学生時代に所属していたワンダーフォーゲル部では,山行前に装備や衛生など様々な内容についての講習会が開かれていた.気象についても例外にもれず,天気図の描き方や観天望気の知識を教わった.講習会の中で最も興味のある分野が,この気象だったのだ.本書は,災害の犠牲とならないために理解しておくべき気象のしくみがわかりやすく書かれている.被害を及ぼしそうな現象を前に,適切な判断のもとに冷静に行動することによって災禍に巻き込まれないようにしたいものだ.気象
防災
ネットバカニコラス・G・カー青土社9月の全校集会で校長先生が紹介されていた.本書を読んで,いまの学生にも,そして自分自身にも,当てはまる指摘がたくさんあった.ネット・ゼロ社会に戻ることはできないが,付き合い方をうまく考えていきたいものだ.そして,ネットよりも遥かに長い歴史を歩んできた書物との付き合い,これもまた大切にしたいものである.脳科学
新しい地球観上田 誠也岩波新書ウェゲナーの「大陸移動説」を知ったのは,小学校の国語の「説明文」の題材としてである.アフリカ大陸と南アメリカ大陸の海岸線がぴったりと一致するという話に「すごい!」と思ったものだが,この説がそれほど古くないものだということを知ったのはつい最近である.本書は,こうした「大陸移動説」をめぐる議論がまだ覚めやらぬ頃に書かれたもので,地球のダイナミズムがよくわかる良書.地球科学
ピノッキオの大冒険コッローディ岩波少年文庫生まれて初めて映画館でみた映画がディズニーの『ピノキオ』と『ダンボ』であった.愛くるしいダンボに対し,自分勝手なピノキオが子供心に許せなかったのと,最後にゼベット爺さんをクジラから助けるシーンがあるが,そのクジラの描写があまりにもリアルで怖かったので,ピノキオはずっと好きではなかった.ところが最近ふとしたきっかけで本書を読んでみるとこれがなかなか面白いし,大人が読んでも飽きないのだ.構成が実によく出来ている.子どもの世話に手を焼くイクメン・パパも必読の1冊でしょう.イタリア文学



10月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
川を見る
−河床の動態と規則性−
井口昌平東京大学出版会著者の退官を記念してつくられた本書は,国内外の川の写真が満載で,その魅力をあますことなく伝えてくれる.改めて,川を学ぶには「現場をみる」ことが大切だと感じた.本書に収められている写真はいずれも1970年代初めのころまでのもの.現在,それらの川はどのような姿になっているだろうか?後半の機知に富んだエッセーも読み応えがある.河川工学を学ぶ上で,必ず目を通してほしい1冊.河川
先生,地震だ!田中二郎・編どうぶつ社1983年(昭和58年)5月26日,秋田県能代市西方沖地点で発生した逆断層型の地震により,10mを超える津波が日本海沿岸を襲った.本書は,当時の小学生の作文をまとめたもの.章ごとに研究者が学校防災教育の観点からポイントを指摘している点が参考になる.東日本大震災で学校防災の重要性が大きくクローズアップされたが,その「はしり」となるこの本の警鐘を見逃してはならない.地震

津波
家族の勝手でしょ!−写真274枚で見る食卓の喜劇−岩村暢子新潮文庫写真274枚で見る食卓があまりにも衝撃すぎて,思わず考え込んでしまった.お菓子だけの朝食など,(私にとっては)「ありえない!」としか思えない朝食の光景だが,これが現実で,いまの日本の多くの家族の姿でもある.朝ごはんといえば,高専時代の寮での食事を思い出す.大きな釜で炊かれた白飯と出来たての味噌汁は最高に美味かった.社会学
日本残酷物語1
貧しき人々のむれ
宮本常一ほか平凡社ライブラリー平凡社ライブラリーで全5巻からなるシリーズ.いずれも500ページを超える大作で,読むにはそれなりの覚悟がいると思っていたが,いざページを開くと面白くてあっという間に読み終えた.第1巻となる本書は,日常的な餓えや,虐げられる女や老人,掠奪やもの乞いの生涯,山や海辺の窮民の姿が描かれる.信じがたいと思える内容も多いが,これがかつての日本のありふれた光景だったのだ.歴史の教科書では決して読むことのできない「日本の歴史」がここにある.民俗学
四季の地球科学尾池和夫岩波新書京都大学の元総長である著者は,我が国を代表する地震学者である.また,俳人として本を出版されるなど,趣味の多彩な人でもある.そのためか,専門家にありがちな高尚な文章はなく,平易な語り口で地球科学の魅力を教えてくれる.自然科学,とりわけ防災を学ぶ人間には必読の書.地球科学
バカにならない読書術養老猛
池田清彦
吉岡忍
朝日新書読書の秋を迎え,「よし一つ本を読んでやろう」と意気込む学生もいるだろう.しかし,そうはいってもどのような本を手にしたらよいのかわからないという人に本書はおススメである.本書に限らず,本好きになるきっかけの一つは,人から勧められた本を読んでみることに尽きる.できれば,ちょっと背伸びするくらいの難しさの本を選ぶ.コツコツ読んでいけば,思考の視野も広がること間違いなしでしょう.読書論



9月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
ゴマの来た道小林貞作岩波新書「食べる丸薬」と言われるゴマは,古代アフリカのサバンナに生まれ絹の道(シルクロード)より遥かに遠い道のりを長い年月をかけて旅し,日本にたどり着いた.世界各地のごまの食文化やメニューを楽しめる1冊.食材の歴史紀行としては『砂糖の世界史』(川北稔・著,岩波ジュニア新書)もおススメ.自然科学
文明論
地理と気候の日本地図浅井建爾PHPサイエンス・ワールド新書日本は世界のどの国にも増して災害の多い国である.自然の脅威にさらされているということは一方で,自然の恵みを受けているともいえる.本書は都道府県別に気象の特徴を紹介し,さらにその地方でしかみられない気象現象を平易に解説してくれる.意外な話も気象ツウにも読み応えのある1冊.地理
国土づくりの礎
川が語る日本の歴史
松浦茂樹鹿島出版会とある学術系の雑誌で,松浦氏が吉野川の治水の歴史についてまとめられている論文を読んだ.それがきっかけで手にした本書は,近代日本における治水事業がどのように展開されたのかがわかりやすく書かれている.水を治めるものは,国を治めるといわれたとおり,河川事業はまさに国土づくりの礎であったことがよくわかる1冊.歴史
河川工学
物語による日本の歴史石母田正

武者小路穣
ちくま学術文庫古事記から平家物語まで代表的古典文学を通して,国生みからはじまる日本の歴史を子ども向けにやさしく語り直す.歴史研究家としてブレークする以前の網野善彦氏が編集した名著.日本史
肥後の石工今西祐行岩波少年文庫今西祐行さんの名を聞くと小学校の国語の教科書で習った『一つの花』を思い起こす人もいるのではないだろうか?反戦文学を得意とする著者だが,本書は熊本県砥用町にいまも残る「霊台橋」がいかにしてつくられたかを語ったもの.厳しくも哀しい時代を生き抜いた名職人・岩永三五郎の人生に胸を打たれること間違いなし.小説
鉄道地図
残念な歴史
所澤秀樹ちくま文庫鉄道ファンの形態は実に様々で,「撮り鉄」や「乗り鉄」などに分類される.私は何気に路線図や時刻表を眺めたりするのが好きなのだが,この場合は何鉄というのだろうか?本書は豊富な図表を多用しながら,鉄道地図の変遷とその不思議に迫る.当時の住民の悲願,関係者の策略や野心が垣間見れて面白い.歴史
英語で自分をアピールできますか?長尾和夫
アンディ・バーガー
角川oneテーマ21英語・日本語に限らず,センスのよい会話をしたいとは誰もが思うことであろう.本書は,単にさまざまなテーマでの自己紹介文を例示するだけでなく,「伝える」ことの大切さを説いている点が素晴らしい.語学
どんな災害も免れる処方箋広瀬弘忠講談社+α新書とある先生のおススメで本書を手にした.台風,地震,地滑り,土石流,大水害,津波,そしてテロと,自然あるいは人工の災害は枚挙にいとまがないが,本書で提唱されている知的ワクチンでそれらに対する減災効果はありそうだ.日々の災害報道の中で,いかにリアリティとして捉え,備えることができるかどうかが一つのポイントである.防災
大和古事風物誌亀井勝一郎新潮文庫名古屋遠征に向かう電車内で読んだ.時穏やかならぬ太平洋戦争中に書かれた文章だが,大和のもつ悠久さを感じずにはおれない名随想.久しぶりに美しい文章に触れた思いがした.紀行



8月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
災害そのとき人は何を思うのか広瀬弘忠

中嶋励子
KKベストセラーズ台風・地震・水害・火山噴火に遭遇した際に人々はどのように行動するのか?本書は過去の災害での実例を示しながら,人々がなぜそのような行動をとるのかを災害心理学の立場からわかりやすく解説した良書.災害心理学
防災
奪われる日本の森平野秀樹

安田喜憲
新潮文庫テレビで外資による日本の森林の買収が進んでいるという特集を見たことがきっかけで関心を持った.このままでは国土が多国籍化しかねない.日本の水資源の将来に関わる話だが,水道の蛇口をひねればいくらでも水が使える日本では,こうした問題に関心を持つ人は少ないのではないか.手遅れにならないうちに国が主導で対策にあたるべきである.ノンフィクション
水資源
水に流せない「水」の話吉村和就角川文庫「水」にまつわる数々の雑学.水を専門とする人にとっても目からウロコな話が満載で,授業の小ネタに使えるかも?雑学
甲子園が割れた日中村計新潮文庫20年前の夏の全国高校野球で,世間を騒然とさせた「事件」が起こった.星陵(石川)VS明徳義塾(高知)戦において,星陵の4番打者・松井秀喜が5連続敬遠されたのだ.この一戦が「打者・松井」のお株を上げることになったのは間違いない.また,敬遠側はダーティなイメージがその後も付きまとうことになった.「敬遠」そのものは反則行為ではないし,責められるものではない.しかし,「高校野球」としてのあるべき論が問題を大きくした.本書はその後の監督・選手たちの軌跡を追う.物事の一面だけで批判することや世論の流れに容易に傾倒することがいかに危いことかを教えてくれる好著.ノンフィクション
日本の地形貝原爽平岩波新書世界でも例のないほどの地震国・火山国である日本.そこに形成された地形はそれら地球の活動の証でもある.氷河地形,サンゴ礁,山,平野,海岸がどのように形成され,変遷をたどってきたのか,豊富な図を用いてわかりやすく解説してくれる名著.地理学
【図解】台風の科学上野充

山口宗彦
講談社ブルーバックス東北太平洋沖地震が起きた2011年は,台風災害の恐ろしさを改めて見せつけられた年でもあった.本書は1年に平均26個発生し,たった1個で日本の年間発電電力量に匹敵するエネルギーをもつ台風の発生・発達のしくみから地球温暖化の影響まで幅広く述べる.気象学
少しだけ,無理をして生きる城山三郎新潮文庫作者が魅了された3人の男,広田弘毅,浜口雄幸,渋沢栄一を題材に,人間の魅力と挑戦し続けることの大切さを説いた1冊.高校生を対象にした講演録ということで大変読みやすい内容である.タイトルのとおり,ほんの少しだけ,自分を無理な状態におくことが自分を成長には必要なのだ.いずれの人物とも小説化されていて,こちらも一読されたい.講演録
森林飽和太田猛彦NHKブックスいまでこそ緑豊かな国土だが,つい50年ほど前までは一面ハゲ山だった.本書は水と砂から国土の行く末を見直すもので自然環境の保全と防災についての考え方を改めさせられる1冊.森林学
砂防学
地下水は語る守田優岩波新書井戸水や湧き水として知られる「地下水」.都市化の中での大量使用は,地盤沈下や水量の低下などの問題を招いた.本書はこれらの問題の発生メカニズムを明らかにするとともに資源・環境・文化の面からこれからのあるべき利用のすがたについて論じている.水文学



7月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
安政江戸地震-災害と政治権力-野口武彦ちくま学芸文庫維新をさかのぼること12年,安政2年の秋の夜半,直下型大地震が江戸の町を襲った.大江戸八百八町を壊滅させ,7千人を越える死者を出したこの地震が幕府倒潰のはじまりだった.表紙に描かれた鯰絵が,地震のもつ天災と人災の両面を見事に表わしていてとても不気味に思われる.災害史
歴史
武士道シックスティーン誉田 哲也文春文庫宮本武蔵を心の師とする剣道エリートの磯山香織と,勝ちにこだわりのないお気楽な西荻早苗の二人が同じ高校に進学し,剣道部に青春を賭けるという物語.性格の相反する二人だが,「好敵手」という言葉がピタリと当てはまる.二人の立場を章ごとに組み替えながら展開していく構成と,その人となりをよく表わしているセリフの書きぶりがとてもウマい.読後の清涼感,すがすがしさがたまらない.16歳のあるべき青春がそこにはある.続編はもっと面白いそうだ.小説
エンデュアランス号漂流記アーネスト・シャクルトン中公文庫初の南極大陸横断を企てた英国のシャクルトン隊長みずからによる探検記.隊長の見事なリーダシップと隊員の団結力,深い友情と信義,大自然との死闘,不撓不屈の精神,本書は生きていく上で大切なことは何か,様々な場面で教えてくれる.ノンフィクション
冒険
水危機 ほんとうの話沖 大幹新潮選書「世界一受けたい授業」にもたびたび登場する,水文学におけるわが国の第一人者である著者が,最新の知見をわかりやすく解説してくれる好著.水にまつわる問題についてのわれわれの常識が覆されるような話も満載である.感心させられるのが,一般の人びとに向けて非常に平易な文章で書かれていることである.このような情報発信・情報提供はその分野の裾野を広げる上でとても大切なことであり,研究者のあるべき姿を垣間見た思いがした.環境
ロンドンを旅する60章川成 洋
石原孝哉
明石書店かつて世界の政治・経済の中心であり,今も多様な民族が集まり文化のモザイクをなす国際都市ロンドンの魅力を余すことなく伝える1冊.歴史,政治・経済,文化,芸術,文学,映画,スポーツ,ファッションから陰の一面に至るまで描かれていて,本書を読めばロンドン通(つう)になること間違いなし?地理
歴史
文化
ベートーヴェンの生涯ロマン・ロラン岩波文庫少年時代からベートーヴェンの音楽を生活の友とし,その生き方を自らの生の戦いの中で支えとしてきたロマン・ロラン(1866―1944)によるベートーヴェン賛歌.自分の為ではなく,不幸な人々のために作曲しようとするベートーヴェンの精神力は驚嘆に値する.本書の読んだ後に「交響曲第9番」などを聞くとこれまでと違った思いが沸いてくる.自分自身が壁にぶつかった時に,本書を読めば勇気づけられること間違いなし.文学
戦争で死んだ兵士のこと小泉吉宏メディアファクトリー30ページにも満たない物語の中である兵士の一生が描かれる.戦争の絵本でありながら,戦争を直接描いたものではない.ひとりの兵士の人生を誕生までさかのぼっていくのであるが,読み進めていくうちに「生きている」というその当たり前のことに気づかされる.文学
This is LondonM.SASEKUNIVERSEM.SASEKのThis is シリーズは世界各国のお国柄を伝えるのに十分である.子どものころからロンドンといえば「二階建てバス」「ビックベン」「バッキンガム宮殿の衛兵」といったイメージを持っていたが,そのイメージがそのままふんだんに盛り込まれていて嬉しい.写真満載のガイドブックとは違った温かみが伝わる1冊.絵本
ラジオがつないだ命鈴木 孝也河北選書東日本大震災直後,宮城県石巻市は停電に見舞われた.あの日,学校や幼稚園にいるはずの子どもの消息さえつかめず,人々は心の闇に長時間苦しめられた.その人々をつないだのが地域のFM局「ラジオ石巻」である.本書は被災者への聞き取りから,当時ラジオがどのように活用され,頼りにされたのかを明らかにする.ノンフィクション
熊本県謎解き散歩岩本 税
水野公寿
新人物文庫新人物文庫のご当地謎解き散歩シリーズは,項目ごとに地元の研究者が執筆していて,わかりやすく書かれており,その地域を俯瞰するのに格好の書である.本書は,加藤清正と熊本城,世界一の阿蘇カルデラから天草四郎,通潤橋,五木の子守唄,辛子蓮根まで,“熊本学”の決定版といえる1冊.ところでゆるきゃらグランプリ2011にて堂々第1位となった「くまモン」にあやかって,神戸のキャラクター「コーベアー」にも奮起を期待したい.地理
歴史
文化



6月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
ギリシア案内記<上><下>パウサニアス岩波文庫かの地での国際会議出席中に読破.2世紀後半に書かれたというが現代の旅行者にとっても秀抜な案内書である.ギリシア全土の山間へき地まで精力的に取材し,名所旧跡を中心に,そこに伝わる行事やゆかりの神話が語られる.地誌
イギリスの不思議と謎金谷辰雄集英社新書まもなく始まるロンドン五輪に沸くイギリス.礼儀としきたりを重んじる保守的な国と思われているが,実際には伝統を守りつつ,進取の精神に富む国でもある.紳士淑女を尊重する一方でフーリガンが存在したりする等,さまざまな不思議を抱えている.でも,そこがまたこの国の魅力でもあるのだ.地理
歴史
文化
どん底の人びとジャック・ロンドン岩波文庫1902年夏、エドワード七世の戴冠式でにぎわうロンドンのイースト・エンドの貧民街に潜入したジャック・ロンドンが,その翌年に「心と涙」で書き上げた渾身のルポルタージュ.救世軍の給食所での不衛生な食事,小さな靴工場の悲惨な労働環境―わずか百年ほど前のロンドンにこのような世界が存在していたとは衝撃であった.筆者の撮った数点の写真も貴重な記録である.ノンフィクション
地震予知と噴火予知井田喜明ちくま学術文庫巨大地震のメカニズムはそれまでの想定とどう違っていたのか?地震理論のいまと予知の最前線を明快に整理し,その問題点を鋭く指摘した提言の書.東海地震,富士山の噴火など現代日本人の関心の高い事象や「震度」や「マグニチュード」といった基礎的な概念についても言及されており,はじめて勉強する人にもおススメ.防災工学
ダム萩原雅紀MF文庫父親の仕事の影響もあって,幼いころから家族旅行では必ず「ダム」を見に行くことになっていた.それが少なからず自分の選んだ今の仕事につながっているように思う.本書は,東日本のダムを中心に45基を収録(西日本にもいいダムがいっぱいあるので続編を期待したい).水門からの怒濤の放流,山中にそびえたつ巨大な堤体,あふれる様式美,巨大建造物―ダムの魅力を余すことなく伝えてくれる1冊土木工学
山はどうしてできるのか藤岡勘太郎講談社ブルーバックスかつて「なぜ山に登るのか?」と問われ「なぜならそこに山があるからだ」と答えた登山家がいたが,そもそもどうして「そこに山がある」のだろうか?本書には山の成因をはじめ,地球科学のエッセンスがぎっしりと詰まっている.地学
工学の歴史三輪修三ちくま学芸文庫工学とは「ものづくりの科学」である.本書は機械工学と力学の話題を中心にその歴史を紐解く一冊.幕末維新や近代日本における「工学」の歴史についても触れられていて興味深い.技術史
東京スカイツリー論中川大地光文社新書東京スカイツリーがついに開業した.本書は生家からわずか400メートルの場所にスカイツリーを建てられてしまった墨田区向島出身の筆者による新しい都市論である.第2章の「タワー編/世界タワー史のなかのスカイツリー」は建築物としてのタワーの魅力を余すことなく伝えてくれる.登る前に読むか,読んでから登るかは読者次第だが,できれば前者がオススメである.私も一度は登ってみたいなとは思うけど,スマートな東京スカイツリーよりも,武骨な感じの東京タワーに魅力を感じるかな.都市論
女王,エリザベスの治世小林章夫角川oneテーマ新書ロンドン五輪開催を前に沸き立つ英国だが,実はもう一つビッグイベントがある.国王のエリザベス女王が即位60年を迎えるのである.80歳を過ぎてなお現役で公務をこなすとはスゴイことだ.それゆえに国民からも愛されるロイヤル・ファミリーなのだろう.ところで,このエリザベス女王の父,ジョージ6世は「国王になりたくなかった男」として知られる.この辺の経緯は映画『英国王のスピーチ』にも描かれている.この作品も,「(苦手なことに対して)努力する」ことの素晴らしさを伝えてくれる良い映画だ.英国史
漱石の長襦袢半藤末利子文春文庫夏目漱石の奥さん,鏡子夫人は「悪妻」と名高いが孫娘が書いた本書を読むとそうでもないよなと思えてくる.巻末には,漱石の長女であり,筆者の母でもある筆子さんの原稿が収められているが,当時の生活をありのままに綴ったこの文章がまたいい.エッセー
名著講義藤原正彦文春文庫本書は著者の勤務する御茶ノ水大学で開かれたちょっと変わったゼミでの討議?集.このゼミの受講者は毎週1冊の文庫を読む根性があること,受講者は毎週一冊の文庫を買う財力があること,そしてレポートを出し,ディスカッションをすることが「受講条件」となっている.こんなユニークなゼミを高専でも是非やってみたいものだ.読書案内



5月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
にあんちゃん安本末子角川文庫物語の舞台は昭和28年の九州・佐賀県にある炭鉱町.幼くして両親を亡くし,長兄のわずかな稼ぎで身を寄せ合って暮らす4人の兄弟.逆境の中で少しも屈託したところのない主人公のまっすぐな生き方に心が洗われる様な思いがした.「にあんちゃん」とは2番目のおにいちゃんのことだが,貧困の中で描かれる兄弟愛は単に「美しい」という言葉では言い表せない.教員推薦の今年の夏の課題図書候補はこの1冊に決まりだ.日記
人さまざまテオプラストス岩波文庫本書が書かれたのは2000年以上も昔のことである.古代ギリシャ時代というと様々な賢人がいて,さぞかしみんな真面目に「哲学」していたんだろうなと思っていたが,本書を読んでそうでもないなと思った.この時代にも「空とぼけ」「おしゃべり」「けち」「へそまがり」「お節介」といった現在の我々となんら変わることがない庶民がいたのだ.いにしえのギリシャの人々がなんだか身近に思える1冊.哲学
今昔東海道独案内
<東篇・西篇>
今井 金吾ちくま学芸文庫小学校のころ,マンガ版の『東海道中膝栗毛』を何度も繰り返し読み,弥次さん(弥次郎兵衛)と北さん(北八)の珍道中に描かれる東海道をいつかは歩いてみたいと思うようになった.今でも東海道新幹線に乗る機会があれば車窓に鼻をこすりつけ,流れる景色に見入ってしまう.本書はその東海道の案内書の決定版.国土地理院の二万五千分の1の地図と江戸時代につくられた「新版 東海道分間絵地図」との対比が面白い.地理学
海岸線は語る松本健一ミシマ社東日本大震災で壊滅的な被害を受けた三陸地方沿岸.その回復と今後の防災を考える上で,これまでの日本人の海岸線とのかかわりに関する歴史的・文明的な視点からの検証が必要である.3・11当時,内閣官房参与だった著者が東北3県を歩きなおし,確信した「復興のかたち」.「海やまのあひだ」に住まう日本人が取り戻すべきは何なのか?考えさせられる1冊.社会学
福井県の謎解き散歩松原信之・編新人物文庫16歳から20歳という多感な時代を過ごした福井県.あれだけ,時間的にも余裕があったのに,当時はこの県の魅力をほとんど知らないままに離れてしまったなと本書を読んで後悔(反省?).「故郷は遠くにありて思うもの」なのだ.「都道府県ランキング」で常に幸福度No.1に選ばれる同県だが,豊かな自然と多彩な「食」があれば,それも自明のことである.地理

歴史
10歳の放浪記上條さなえ講談社文庫安本末子さんの「にあんちゃん」同様,貧困の子ども時代を描いた作品.「にあんちゃん」以上に,戦争の陰をひきづっているように感じた.10歳の頃は私も親元を離れての暮らしだったのでその寂しさは少しはわかっているつもりだが,貧困というのはなかなか想像しがたい.大人の事情に翻弄されながらもたくましく生きる主人公の姿に勇気づけられること間違いなし.エッセー
人が死なない防災片田 敏孝集英社新書東日本大震災で大きくクローズアップされた「釜石の奇跡」.その立役者である片田先生の講演をいくつかまとめたものが本書である.私自身もなんどか先生の講演を聞く機会に恵まれたが,本題の防災の話はもちろんのこと,聴衆を惹きつけるための導入の仕方が非常に上手くて参考になる.「人は災害ごときで死んではならない」という先生の熱意が伝わってくる好著.防災工学
笑う,避難所頓所直人集英社新書報道でもさかんに取り上げられたが,石巻・明友館に避難した136人の物語.非常時にあってなお失われない人間の尊厳.指定避難所とは違い行政の支援が届かないこの自主避難所は,被災から数週間後には在宅避難者や住民に救援物資を届ける「支援する避難所」としてその役割を果たす.地域の自主防災組織のリーダーにとって必読の1冊.東日本大震災
マグロはおもしろい北川貴士講談社文庫マグロは日本人の好きな魚のひとつである.本書は新進気鋭のマグロ研究者による学術エッセイ.美味しい味やその生き様の秘密がわかりやすく解説されている.巻末のさかなクンとの対談の中にも「ギョギョっ」とした発見があるかも.水産学
ウィスキーの科学古賀法正講談社ブルーバックス美味しいお酒のことを「美酒」というが,ウィスキーは見た目にも「美しい酒」である.このお酒,全工程のうち人の手に関わるのはわずか1%である.残りはひたすら樽の中で眠るだけ.この熟成によってもたらされる劇的な変化についてはいまだに科学的に解明されていないことも多いようだ.本書を読むのに年齢制限はなく自由だが,飲酒は20歳を過ぎてから.科学



4月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
だれがタコマを墜としたか川田忠樹建設図書本書の名を初めて耳にしたのはたしか大学での連続体力学の授業の中であったように記憶している.「面白いから是非読みなさい」と薦められていたが,ずっと先延ばしになっていた.しのぎを削るアンマンとシュタインマンによるつり橋における剛柔論争は読み応え十分.特に構造力学を専攻する学生にオススメの1冊.土木工学
現代日本土木史高橋 裕彰国社このたび新入生向けの概論テキストを作成するにあたり,参考にした図書のうちの1冊.土木工学の発展はまさに都市や社会の進展そのものであり,その歴史的背景を知ることは土木技術者に求められる素養の一つである.これまで先人達がどのような思想のもと社会資本整備を進めてきたか,本書は特に明治以降の近代土木史を俯瞰するにあたって格好の書であろう.過去に学び,未来によりよいものを遺していきたいものである.土木工学
空が青いから白をえらんだのです寮美千子新潮文庫奈良少年刑務所での先進的更生教育「社会性涵養プログラム」から生まれた詩集.刑務所にいる彼らの背景と,語られざる内面が伝わる渾身のドキュメント.言葉の力を感じることができる1冊詩集
新編 行政ってなんだろう新藤 宗幸岩波ジュニア新書行政の基本的な考え方と役割について平易に書かれた良書.政治と行政の関係,公共事業や福祉政策をはじめとする行政の「仕事」の中身がわかる.公務員志望者は必読.社会学
二十四の瞳壺井栄新潮文庫とある研究会で高松に向かう途中,神戸から高松行きフェリーで途中下船し「岬の分教場」など『二十四の瞳』ゆかりの地・小豆島を訪ねた.本書はその道中に一気に読み終えた.反戦文学の色の強いこの作品は読み進むにつれて重い気分にさせられるが,やはり子ども達と大石先生との交流を描いた前半部の描写がいい.高峰秀子さん主演の映画もオススメ.日本映画史上,不朽の名作であると思う.日本文学
地球の科学
−大陸は移動する−
竹内均

上田誠也
NHKブックス防災工学の授業の資料作りや東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)を機に,読み返すきっかけを得た.大陸移動説については小学校の国語の教科書で取り上げられていて,初めて読んだ本格的な「説明文」で非常に面白いなと思ったが,本書を読んで当時のワクワクする気持ちが蘇ってきた.地球科学は何よりもスケールが壮大でロマンがある.地球科学
海も暮れきる吉村 昭講談社文庫『二十四の瞳』とならび小豆島に訪れたのを機に読むことにした.主人公の尾崎放哉は「さすらいの俳人」と呼ばれ,「咳をしても一人」の句などで知られる.エリートコースを歩むも,やがて酒に溺れ,美しい妻に別れにも告げ,流浪の果てに小豆島で悲痛な死を迎える.「絶対孤独」について考えさせられる1冊.小説
天才たちの科学史杉 晴夫平凡社新書恩知らずなガリレオ,断頭台に消えたラボアジエ,凡庸だったダーウィン,科学史の中できら星のごとく輝く天才たちの虚像と実像.「化学」や「物理」の教科書では決して見えてこない偉人達の人間像に,親しみを感じる.こうした面からの興味が「理科離れ」を防ぐことにつながるような気がするのだが・・・.科学史
図解絵本
東京スカイツリー
モリナガ・ヨウポプラ社いよいよ東京スカイツリーが開業する.本書はこの世界一の高さを誇る電波塔がどのようにして作られているのかを綿密なタッチの絵でわかりやく解説.土木工学を専攻する我々ですら,なかなか見ることのない「現場」を知る貴重な1冊.絵本
土木工学
被災地の本当の話をしよう戸羽 太ワニブックスPLUS新書東北地方太平洋沖地震による津波で妻を亡くした絶望的な状況の中,ゆるぎない信念をもって陣頭指揮にあたった陸前高田市長.その言葉からは,被災地の現実がまざまざと見えてくる.終章「おわりに」に書かれた「どうかその日まで,私たちの復興への闘いを温かい目で見守り続けてください」の言葉に揺ぎ無い決意を感じる.東日本大震災



3月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
社会とどうかかわるか
−公共哲学からのヒント−
山脇直司岩波ジュニア新書かつての日本の社会は,自分の私欲・私情を捨てた「滅私奉公」が美徳とされた.時代は変わり今度は「滅公奉私」が大流行する.コミュニケーションによって成り立つ公共世界を無視して,「自分と身内や仲間さえ良ければそれでよい」とする社会である.しかし,著者はこれからは「活私開公」の時代であると主張する.自分達の住む町や通う学校,会社や国,そしてグローバルな世界で,一人ひとりを活かしつつ,公共的な価値が実現する社会とはどういったものか?考えさせられる1冊.社会学
国土と日本人
−災害大国の生き方−
大石久和中公新書地震や台風が山がちで狭い国土を襲う災害大国日本.この困難な地から恵みを受けるために,日本人は何をしてきたのか,何をすべきか.公共事業の必要性がよくわかる1冊で,都市工学に携わる人間は必読.地理学
社会学
語りきれないこと鷲田清一角川oneテーマ21東日本大震災から1年.人の心はいかにして癒えてゆくのか?本書で語られた「言葉」はほころびた心を編みなおす「繊維」のようなものである.傷ついた人々の声をかつて「聴くこと」を課題として臨床哲学を提唱した著者が,今度は「語ること」の意味を真摯に説いている.哲学
銃・病原菌・鉄
<上・下>
ジャレド・ダイアモンド草思社文庫なぜ人類は五つの大陸で異なる発展をとげたのか?分子生物学から言語学に至るまでの最新の知見を編み上げて人類史の壮大な謎に挑む.かつての大ベストセラーが文庫で読めるのがうれしい.文明論
世界史
思想の花びら
亀井勝一郎大和書房著者の亀井勝一郎氏は,函館生まれの文芸評論家.その格調高い人生論は,いまなお老若男女を問わず,多くの読者の支持を得ている.本書は,「もの思う人のために」「歴史と人間」といったテーマに対し,彼の思想を表した短文ばかりを寄り集めたもの.公務員試験の<文章読解>問題にも引用されていることが多いので,関心のある学生は是非.エッセー
民俗のふるさと宮本常一河出文庫日本に古くから伝わる生活文化を理解するためには,その舞台となる町や村がどのように推移してきたかを知る必要がある.特に面白いのが第2章の町づくり.城下町,宿場町,港町,門前町といったものがどのようにして形づくられていったのかを綿密なフィールドワークで得た情報をもとに明らかにしている.現代の「まちづくり」に携わる都市工学を学ぶ学生にもヒントになる話ばかりだ.民俗学
砂糖の世界史川北稔岩波ジュニア新書茶や綿織物とならんで「世界商品」として,知られる砂糖.本書は,この甘くて白くて誰もが好むこの代物のみにスポットをあて,世界史の光と影を描き出す.世界史の苦手な学生にもオススメの一冊.文明論
世界史
驚くこころちくま哲学の森6ちくま書房ちくま哲学の森シリーズの第6作.宮澤賢治,山下清,ファインマン,寺田寅彦,中谷宇一郎といった錚々(そうそう)たるメンバーの中で,『父と子の対話』という林達夫氏の文章が特に印象に残った.この作品は,子どもを時として「大人」や「友人」として対等に扱うことの大切さを訴えている.我々,教員も学生をを大人として見ているのか,時には自省することが必要だろう.哲学
日本人の死生観を読む
−明治武士道から「おくりびと」へ−
山折哲雄朝日選書日本人はどのように生と死を考えてきたのか?本書は,柳田国男,折口信夫,吉田満,宮沢賢治などの作品をもとに日本人の死の受容の変遷を読み解き,3・11以降を生きる我々に生と死への新たな向き合い方を提示する.映画「おくりびと」でも描かれた納棺師の活動は,このたびの震災でも多くの人の関心を呼び起こしたが,本書を読んで改めて尊い仕事だなと感じた.社会学



2月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
ニコライの日記−ロシア人宣教師が生きた明治日本−
【上・中・下】
中村健之介・編訳岩波文庫本書を読むにあたり,私は,あの「大津事件」で知られるニコライ皇太子が書いたものと勘違いしていたが,宣教師ニコライの方の話である.東京の千代田区駿河台には,「ニコライ堂」という立派な大聖堂があるが,この名称は日本に正教会の教えをもたらした彼の名に因んでいる.本書は関東大震災で焼失したといわれていた貴重な記録であり,幕末・維新の時期に生きる人々の生活や声が息遣いが伝わる好著.歴史
火災の科学辻本 誠中公新書ラクレ新聞の社会面で,冬になると必ず見かけるのが火災記事の類である.本書は,火災研究でわが国トップレベルにある東京理科大学の研究成果をとりまとめた一冊.火事がおこるしくみや被害の現実,防災の心得などが一般向けに平易に書かれている.「戸締り用心・火の用心」,ビル火災から家屋火災まで,これで万全? 科学
柳田国男と今和次郎
−災害に向き合う民俗学−
畑中章宏平凡社新書古来,日本列島をたびたび襲う地震災害に心を痛め,困窮する民を救うべく「経世済民」の思想をもって民俗学を立ち上げた柳田国男は,我が国の民俗学の父としてよく知られるところである.一方,柳田から「破門された」と語る今和次郎−,私は本書を読むまでは彼のことを全く知らなかったが,彼もまた関東大震災を機に「考古学」ならぬ「考現学」なる分野を開拓していた.二人の足跡から,知られざる民俗学の淵源をたどる.地震から津波,大火,飢饉まで−災害から生まれた思想は,どう受け継がれてきたかを書いた好著.民俗学
死を見つめる心
−ガンとたたかった十年間−
岸本英夫講談社文庫1973年の初版から,40年近くを経てもなお出版される闘病記の金字塔.本書は,すさまじいガンとの格闘,そしてその克服と昇華・・・ひとりの日本人の死と直面しながら闘い病み,死を悟りつつ生きることの尊さを教えた英知と勇気の感動の記録である.エッセー
日本の土木遺産土木学会・編講談社ブルーバックス「コンクリートなんでも小事典」シリーズ以来,久しぶりの土木学会が送り出す講談社ブルーバックス.日本の近代化を支えた橋梁やトンネル,鉄道・港湾施設などのインフラストラクチャーのうち,特に価値の高いものを土木学会が「選奨土木遺産」として認定.本書では,このうち約40ヵ所を厳選し,建設に尽力した技術者の活躍に触れながら紹介.旅のお供に是非1冊(なかにはアプローチの困難なものも含まれているが・・・). 土木工学
土木と文明合田 良実鹿島出版会旧石器時代から文明が発展するにつれて種類も増え,技術も進歩していった土木工事.その時々の社会に土木事業がどんな影響を及ぼしてきたのか,世界史とともにたどる.本書を読めば,土木工学(都市工学)が,ただ単に数学や物理が出来ればよいものではないということがよくわかる.地理や歴史といった,社会系科目で習ったことも活かせる分野があるのが,土木工学の面白いところである.土木工学
歴史学
山に生きる人々宮本常一河出文庫山には「塩の道」もあれば「カッタイ道」もあり,サンカ,木地屋,マタギ,杣人,焼畑農業者,鉱山師,炭焼き,修験者,落人の末裔などなど,さまざまな漂泊民が生活していた.本書もまた,丁寧なフィールドワークと真摯な研究で,失われゆくもうひとつの(非)常民の姿を記録する宮本民族学の真骨頂が垣間見られる1冊.民俗学
海が吠えた日
−南海道地震津波の記録−
牟岐町教育委員会・編ぎょうせい3.11以降,大阪湾圏域の自治体を対象に実施してきた津波に関するヒアリング調査.徳島県牟岐町に出向いた際にひょんなことがきっかけで本書の存在を知った.昭和南海地震の貴重な証言集.災害誌
日本の下層社会横山源之助岩波文庫近代国家として歩み始めた明治30年前後の日本,筆者は労働者・貧民に深い同情をよせ,実態調査にもとづくルポルタージュの数々を世に問うた.本書はその集成であり,工場労働者をはじめ職人・都市の極貧者・小作人等の生活,華やかな文明開化の陰で市井に生きる人々の姿が生々しく詳細に記録されている.社会学



1月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
三酔人経綸問答中江兆民岩波文庫生まれつき酒が大好きで一度酔えば,即ち政治や哲学を論じて止まるところを知らない南海先生のもとに,「紳士君」こと着もの・履きものみな洋風で言語明晰な洋学紳士,「豪傑君」こと袴姿にカスリの羽織を着た大男がやってくる.次第に酔いを発した3人は談論風発,大いに天下の趨勢を議論する.桑原武夫氏の現代訳が見事で,今の私たちにも読みやすい.議論とは何か,議論することの大切さ,楽しさがわかる一冊.今日の政治家に読んで実践してもらいたい書物.哲学
福澤諭吉と中江兆民松永昌三中公新書NHK教育テレビ(最近はEテレと言うようだが)で日曜夜に放送されるETV特集が面白い.今年になって始まったシリーズ「日本人は何を考えてきたのか」は,思想の巨人たちの苦闘の中に今を読み解く手がかりはないのかを探る.その第1回に取り上げらたのが福澤諭吉と中江兆民の二人である.本書は,文明開化の明治の時代に西洋文明の受容のあり様を巡って対照的な反応を示した二人を比較した好著.福澤は現在の紙幣の顔にもなっているし「天は人の上に人を造らず・・・」の言葉はあまりにも有名だ.一方の中江の知名度はそれほどでもないが,私はどちらかというと彼の生き方,考え方に共感できるところが多かった.思想史
ことばと文化
鈴木孝夫岩波新書文化が違えばことばも異なり,その用法にも微妙な差がある.日本語の「君,あなた,貴様,おぬし」も,英語では「you」の一言で済む話はよく知られたところである.本書は,ことばが文化と社会の構造によって規制されることを具体的に立証して,ことばのもつ諸性質を興味深くえぐり出す.平易な文章で大変読みやすい.言語学
遠野物語へようこそ三浦佑之
赤坂憲雄
ちくまプリマー新書遠野物語は不思議な話の宝庫である.本書は数ある中から,河童の子を生む女に,馬と恋に落ちた女,狼との死闘,神隠し,座敷わらし,山男,臨死体験,姥捨てなどをテーマにした話を取り上げ,それらの解説をしたもの.通読した後に本書を読むとさらに理解が深まるであろう.民俗学
漂流吉村昭新潮文庫江戸時代,時化(しけ)に遭って漂流した土佐の船乗り.様々な困難を経て12年かけて帰郷する.絶望,希望,生きる力,創意工夫などなど,様々な要素が詰まった記録文学の金字塔!どのような状況におかれても力強く前向きに生きていく事が大切であることを教えてくれる1冊.文学
東京の自然史貝原爽平講談社学術文庫100万年を超える東京の地形の形成過程と江戸以来の開発による地形変化を解明する好著.首都・東京を脅かす災害マップ・散歩ガイドとしても使える.東京はビルやら高速道路ばかりで自然があまりないと思っている方は必読.地理学
地誌学
リアルであること
中沢新一幻冬舎文庫毎週実施している公務員模試の中の「文章読解」問題に本書の一部が取り上げられていた.生と死,国家と宗教,物質と精神をめぐる宗教学者の声.哲学
手塚治虫傑作選『家族』祥伝社新書子どものころ,手塚治虫の作品はあまり読まなかった.深いテーマを扱ったものが多く,重い気持ちになることもしばしばだったからだ.しかし,大人になり改めて読むと何故読んでこなかったのか後悔することが多い.本書は「家族」に関係するテーマの短編漫画(ブラック・ジャック3編,ブッダ1編,鉄腕アトム1編、その他5編)を集めたもの.1冊で様々な作品が読めてオトクな1冊.なかでも「ブッダ外伝 ルンチャイと野ブタの物語」はいかにも仏教説法らしい話の展開だが,何故かとても心に残った.漫画
手塚治虫傑作選
『瀕死の地球を救え』
祥伝社新書上記のものと同じく,様々な作品から環境問題をテーマとした短編を集めたもので,どの作品も手塚治虫の自然への熱い愛があふれる傑作.私自身は高度成長期の公害問題の恐怖を描く『うろこが崎』が最も印象に残った.手塚さんの地球環境への思いという点では,漫画ではないが『ガラスの地球を救え―二十一世紀の君たちへ 』(知恵の森文庫)も一読の価値あり.漫画
続・東北河西英通中公新書歴史の教科書で大根をかじる子ども達の姿の写真を見た覚えがある.昭和恐慌の最中,貧しい東北地方の農村の姿がそこにはあった.しかし,当時日本各地で同じ状況であったにも関わらず,このような報道がなされたことで東北のイメージは揺るぎないものになったという.本書は前作『東北』に続き,「凶作」「出稼ぎ」「身売り」といった陰の歴史にスポットをあて,そのようなイメージがどのようにして広まったのかを説く1冊.社会学
にほんのいきもの暦日本生態系協会・編アノニマ・スタジオ立春,夏至,秋分,大寒などの季節を表す二十四節ごとに取り巻く動植物を紹介.身近な草・花・鳥・虫・木から季節のうつろいを知ることができる自然のカレンダー.生態学