2011年 読書記録
願わくば,学生時代に一日のたとえわずかでもよいから本を読む習慣をつけてもらいたい. ちなみに私は,行き帰りの通勤電車が「読書部屋」となっている.12月
書 名 | 作者名 | 出版社 | 内容・コメント等 | ジャンル |
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いのちの書 | ちくま哲学の森4 | 筑摩書房 | 「ちくま哲学の森」シリーズの4冊目.「いのち」について考えさせられることの多かった2011年だけに,この本は印象に残る1冊である.中でもオススメは,ヘレン・ケラーが自身の生涯について書いた『暁を見る』,夭逝した我が子の在りし日の思いを綴った『萩の花』(宮本常一),戦犯として処刑された教え子の遺書を紹介し,死と向かい合った思考について語った『或る遺書について』(塩尻公明),中野好夫の『「ガリヴァー」の作者の死』,中学校か高専の国語の時間に教わった『夏の花』(原民喜),本当かどうか思わずその生態について調べたくなる梅崎春生の『チョウチンアンコウについて』,そして高校生向けの講演録『生きがいを求めて』(神谷美恵子). | 哲学 |
ダムと鉄道 | 武田元秀 | 交通新聞社新書 | 日本列島にはダムを建設するために作られた鉄道が数多くある.例えば,黒部峡谷鉄道は黒部川水系の発電所工事のために敷設されたもので,いまなお人気の観光路線になっている.本書は日本におけるダムと鉄道の密接な関係を豊富な写真や資料をもとに紹介する「乗り鉄」必読の1冊である. | 土木工学 |
東北 -つくられた異境 | 河西英通 | 中公新書 | 東日本大震災を機に注目を浴びる東北地方.しかし,「遅れた東北」という見方は内外ともに今なお強い.本書は,こうした意識がどのようにして形成されてきたのか,東北を巡る膨大な言説をもとに検証している.新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』で知られる青森歩兵第五連隊の雪中行軍遭難事件については,遭難死者の約7割が岩手県出身者であったことや,事件発生当時は北海道旭川市で日本観測史上最低気温零下41℃を記録していたことなど新たな発見もあった. | 社会学 |
この地名が危ない | 楠原佑介 | 幻冬舎新書 | 地震・津波・火山・台風・雪害・土砂災害などなど様々な災害が多発する日本列島.過酷な自然と向かい合ってきた我々の祖先が,「ここは危ない」というメッセージを地名に刻んできた.本書は災害危険地帯の地名を取り上げ,それについて検証している.災害発生の潜在性の全てが地名でわかるとは思わないが,参考になる地域はそれらを都市計画に反映させていくべきだろう.憂慮すべきは,市町村合併で由緒ある地名が次々に消えている実態である.防災の観点からも地名の存廃については慎重に検討していただきたいものだ. | 地理学 |
かんさい絵ことば辞典 | ニシワキタダシ | PIE BOOKS | 大阪で生まれ育った者としては,大阪弁(関西弁)が「ドきつい」という感覚はあまりないのだが,関西出身でない人にはきつく感じることもあるようだ.しかし,それは多分にテレビ等の影響もあるのだろうと思う.たいていのドラマの大阪弁は訛っていて,納得でけへん!私のイメージでは,本来の大阪の言葉は実に優しく柔らかいものである.この感覚を体感できる本書には,今どき使われているんかいな?と思うような言葉も収録されているが,ほんわかした気分になること間違いなし.イラストのセンスも抜群で,ツボにはまるとかなり笑える. | 国語学 |
運がいいと言われる人の脳科学 | 黒川伊保子 | 新潮文庫 | 頭がよければ誰もが成功するわけではない.過去のネガティブな経験を増幅させず未来に向かう姿勢を持っている人に「ツキ」は訪れる.世界一を手にした人たちは,自らの役割を「責務」ではなく「好きだから」と答えるそうだ.本書は人工知能の分野で30年間研究者として活躍してきた著者が秀逸な「脳」を活かした生き方を提唱する1冊.何をなすべきかを感じとり,いわゆるスジが良い脳を育てるにはどうすればよいか,そのヒントが書かれている. | 心理学 |
兵庫県謎解き散歩 | 大国正美・編 | 新人物文庫 | 「日本の縮図」と言われる兵庫県は,摂津・播磨・但馬・丹波・淡路の5つの旧国からなる近畿地方最大の県である.住んでいるとあまり気がつきにくいが,国際都市・神戸には多くの「日本初」があり異国情緒がただよう.また,世界遺産の姫路城をはじめ,高校球児の憧れの聖地「甲子園」,夢の世界をつなぐ宝塚歌劇団,出石の皿そば,灘の名酒,来年の大河ドラマの主役・平清盛まで,場所も食べ物もそして人物も多様である.本書は,そのような懐が深く多彩な魅力にあふれる兵庫県の謎ときを一挙に紹介.どこからでも読める構成が嬉しい. | 地域学 |
コドモダマシ ほろ苦教育劇場 | パオロ・マッツァリーノ | 角川文庫 | 作者のパオロ・マッツァリーノさんの著作を読む度に,彼は日本人以上に日本人であり,日本の社会にも精通していると感心させられる.ともすればブラックになりがちなテーマもユーモアあふれる文章で思わず笑えて納得させられる.本書の各章末に紹介される本も是非読んでみたい. | 社会学 |
こども東北学 | 山内明美 | EastPress社 | 本書は「よりみちパン!セ」というシリーズの中の1冊で,このシリーズ自体,学校や親が教えてくれないテーマを扱っている本が多く,本校の学生にもオススメである.歴史社会学と日本思想史を専攻する彼女は南三陸町の生まれで,私と同い年.本書には彼女の子どもの頃の東北地方の暮らし(狐に憑かれた話がまだ実在していたなど,自分の住んでいた地域との差に驚きを禁じ得ませんでした)や,震災で荒野と化した故郷を「生きられる風景」に変えるためのヒントが綴られている.やさしい文体だが,そこに発せられるメッセージは力強く不屈のものである. | 社会学 |
11月
書 名 | 作者名 | 出版社 | 内容・コメント等 | ジャンル |
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雪国の春 −柳田国男が歩いた東北- | 柳田 国男 | 角川文庫 | 柳田国男,東北地方と聞けば,誰しも思い浮かべるのが「遠野物語」であろう.しかし,彼が遺したものはそれだけではない.本書は大正から昭和にかけて,柳田氏が東北地方を訪ね,土地の人々との交流の中から生まれた随想集である.昭和31年の発刊以来,長く絶版状態であったが,この震災を機に再刊された.この時機に是非とも購入しておきたい1冊. | 民俗学 |
日本風景論 | 志賀重昂 | 岩波文庫 | 札幌農学校(現在の北海道大学)出身の地理学者が,日本各地の風景を紹介した1冊.中でも,山の紹介にページが割かれており,この辺りでは,鉄拐山,再度山,麻耶山(摩耶山とは書かれていない),六甲山,兜山(甲山とは書かれていない)などが紹介されている.時折見られる図表や古典文学から和歌などの引用も読む者を飽きさせない.登山の心得も書かれており,ワンゲラー(ワンダーフォーゲルをする人)必読の1冊. | 地誌学 |
日本人はどんな大地震を経験してきたのか | 寒川 旭 | 平凡社新書 | 地震の被害は,太平洋岸では大津波,埋立地や軟弱地盤では液状化現象,丘陵を造成した住宅地では地すべりなど,多種多様にわたる.関東,阪神淡路,東日本と「大震災」が起きたわけであるが,もっと過去をさかのぼれば日本列島のいたるところで災害が発生していることがよくわかる.どの地域に住んだら安全かということを考えることも大切だが,自分のいま住む地域に潜む災害リスクを認識し,被害を最小限にするための物心両面からの準備が必要だ. | 歴史学 ・ 地震学 |
西国立志編 | サミュエル スマイルズ | 講談社学術文庫 | 原著『自助論』(Self Help)は世界数十カ国で翻訳された大ベストセラーである.本書は,「天は自ら助くる者を助く」という独立独行の精神を思想的根拠とした三百ばかりの有名無名の人々の成功談を収めたものである.明治期の青年はこれと福沢諭吉の『学問のすゝめ』を啓蒙書とし,多いに学問に励んだ.欧米に追いつき,追い越せと奮い立たせた本書は現代を生きる我々にも努力することの大切さを教えてくれる. | 伝記 |
砂 -文明と自然- | マイケル・ウェランド | 築地書館 | 先日たまたま書店で見かけ,面白そうなので早速購入した.こういう視点から本が書けるということ自体に,ヨーロッパやアメリカのもつアカデミックさというものを感じずにはいられない.河川や海岸系の学生には,英語版での一読も薦めたい. | 科学 |
季刊 東北学第28号 −特集 地震・津波・原発 東日本大震災超巨大地震に迫る | 東北芸術工科大学 東北文化研究センター | 柏書房 | 「東北学」なる言葉は以前から知っていた.郷土の歴史や風土を学ぶ学問としては,その「はしり」であったといえる.本書は,3月11日の東日本大震災を受けて,社会学者らによる地震・津波・原発についての報告が満載である.ちなみに次号(第二九号)は「東北の海」が特集として企画されており,こちらも津波についての報告が多く掲載されている. | 地理学 |
明治の人物誌 | 星 新一 | 新潮文庫 | 星新一さんの作品は小学校5年生の国語の時間に教わった.当時の担任の先生が,彼の『ボッコちゃん』などを読むようにさかんに勧められていたことを記憶している.私の中ではSF作家との印象が強く,この分野の本はあまり読まなかったのだが,何冊かはノンフィクションや自伝的な内容のものを書かれていることを最近知った.本書は彼の父親である星一と交流のあった野口英世や伊藤博文など,近代国家の形跡に活躍した10人の生涯に迫った作品.こんな有名な人たちと交流のあったお父さんの生涯もまた,すごい! | ノンフィクション |
水都「大阪」物語 | 橋爪紳也 | 藤原書店 | 大阪のイメージといえば「水の都」.本書は大阪の歴史・現在・未来を多数の貴重な図版とともに紹介した1冊.本書に出てくる堺市の浜寺公園は,小学生の頃水練学校で通った思い出の地で,大変懐かしく思った.先の選挙では大阪再生がひとつのキーワードになっていたが,水辺の再生なくして大阪の再生はありえないか?! | 地域学 |
直観でわかる微分積分 | 畑村洋太郎 | 岩波書店 | 畑村先生の直観シリーズ第3段.こういう先生に教わると「微かに分かる」微分も,「分かった積もり」の積分も,なんなく理解できるようになるのだろうか.図も多くイメージを大切にしながら,それでも本質は見逃していない好著. | 数学 |
10月
書 名 | 作者名 | 出版社 | 内容・コメント等 | ジャンル |
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空白の天気図 | 柳田 邦男 | 文春文庫 | 本書は戦後間もない頃に上陸した枕崎台風による風水害を取り扱ったノンフィクション小説である.上陸地が鹿児島県の枕崎であったことからこの名がついたが,被害が大きかったのは広島県で,死傷行方不明3066名という大惨事であった.この本の表題は台風上陸前の原爆投下で十分な観測が行えなかったことを暗示している.ところで本書には木村毅一なる人物が登場する.実は私の母校の高専の二代目の校長先生である.入学前の方でお会いしたこともないが,本書に母校の名前を見つけた時には感動したし,誇らしくも思えた. | ノンフィクション |
大阪古地図むかし案内 | 本渡 章 | 創元社 | 本書は1868(明治元)年から昭和初期までの大阪の近代古地図がテーマである.この古地図というのは現代の地図よりもはるかに絵画的表現が豊かで個性に富んでいる.いまでこそ,東京一極の感は否めないが,戦前の大阪は商都としてそれなりに存在感を出していた.本書の紹介されている古地図を眺めているだけで,当時の活き活きとした街の様子が伝わってくる. | 地理学 |
地震考古学 | 寒川 旭 | 中公新書 | 古墳や遺跡は巨大な地震計である.本書は日本各地に残された地層から,過去の地震を実証的に解明し,将来の地震に備える「地震考古学」についてその全貌を語ったもの.発刊当時は比較的新しい学問であったが,3.11東日本大震災を受けて再び脚光を浴びるようになった.そういえば,神戸にも津波の痕跡が見つかったというニュースが今年になって話題となったが,「歴史の証人」地質学の世界にはロマンがあって,興味が尽きない. | 地震学 |
神戸今昔散歩 | 原島広至 | 中経文庫 | 旧居留地,新開地,六甲山,有馬,宝塚,姫路城,そして平清盛の福原京.神戸のむかしと今の姿を絵はがきや古写真と現在の写真を比較するかたちで紹介.東京・横浜・大阪に続くシリーズ第4弾.神戸観光には必携の1冊. | 地理学 |
関東大震災の社会史 | 北原 糸子 | 朝日選書 | 1923(大正12)年9月1日に発生した巨大地震により,関東1府6県は壊滅的な被害を受けた.本書は大量の震災資料を紐解き,当時の被災者がどのように救護されたのか?どんな列車で,どこへ避難したのか?義捐金はどのように集められ,どう使われたのか?仮設住宅はどのように建てられ,いつ撤去されたのかなど,当時の行政や民衆の動きが詳しく紹介されている. | 災害史 |
超巨大地震に迫る | 大木 聖子 纐纈 一起 | NHK出版新書 | 3.11東北太平洋沖地震以降,緊急出版された1冊.これまで蓄積された地震研究の視点からその全貌を捉え直し,今後起こりうる巨大地震についても言及する.若い研究者の科学者としてなんとかしたいという思いが伝わる一冊. | 地震学 |
教えるな! できる子に育てる5つの極意 | 戸田 忠雄 | NHK出版新書 | どこの教育現場・家庭においても同じ問題を抱えていると思うが,教えすぎず,甘やかさず,見捨てないというサジ加減というのは本当に難しい.特に最近はなにかにつけ「学生(子ども)のため」を大義名分に面倒を見ようとする傾向があるが,本人の学ぶ意欲・考える力を引き出すには「教えるな!」という姿勢も大切であると感じた. | 教育学 |
生きる技術 | ちくま哲学の森1 | 筑摩書房 | 「ちくま文学の森」シリーズに続き,「哲学の森」なるものが刊行された.このシリーズは哲学者の論文,批評家のエッセイ,文学者の随想,生活者の意見など,あらゆるジャンルから,秀れた日本語によるわかりやすく示唆に富んだ文章だけを集めたものである.本書はその第1巻.オススメは,モラエス『いろはだとえ 日本のカルタ遊び』,ショウペンハウアーの『みずから考えること』,ラッセル『いかに老いるべきか』 | 哲学 |
世界を見る | ちくま哲学の森2 | 筑摩書房 | 「ちくま哲学の森」シリーズ第2弾.本書に収められている金子ふみ子の『朝鮮での私の生活』は,久しぶりに「当たった!」と思える文章だった.読書の醍醐味はこういう発見にあるように思う.この手記は非常に読みやすい文章だが,これまで読んだ本の中でこれほどまでに不幸な子ども時代があるのかというほど壮絶な内容である.私自身も小学校の4年生から6年生にかけて山の学校での里親生活を経験した.親元を離れて寂しい思いはしたが,そこに悲しいという思いはなかった. | 哲学 |
集めて調べる川原の石ころ | 渡辺一夫 | 誠文堂新光社 | 現地調査で川原や海岸によく出かけるが,そこで目に付く石ころにはこれまであまり気に留めてはいなかった.ところが最近の災害調査では地質系の研究者に同伴する機会が多く,こうした分野の奥深さを教えて頂く機会に恵まれた.見逃せばただの「石ころ」も注意をしてみれば色々なことを我々に教えてくれる. | 科学 |
9月
書 名 | 作者名 | 出版社 | 内容・コメント等 | ジャンル |
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じぶん・この不思議な存在 | 鷲田 清一 | 講談社新書 | 「わたしってだれ?」「じぶんってだれ?」という問いは誰もが一度は考えたことのある普遍的な問いかけであろう.本書の中に,「生きるということはそれ以外のいくつかのなしえたかもしれないことを棄てていくということだ」というくだりがあり,なるほどなあと思った.そうありえたかもしれない自分を次々と棄てていくことで,はじめて<じぶん>になれる.ただ,自分の思い叶わず棄てられるということも時にはあるだろう.いずれにせよ,出来ること,叶うことには限りがある.やりたいことを考えるのも大切だが,やりたいことを叶えるために何を犠牲にするのかをよく考えることも大事. | 哲学 |
紀州 木の国・根の国物語 | 中上 健次 | 角川文庫 | 中上健次の作品を読むのはこれが最初である.きっかけは津波災害対策調査や台風12号の被害調査で和歌山県に足を運ぶ機会が増えたからである.本書は6ヶ月にわたり紀伊半島を歩いた著者が,そこに生活する人々の声を記録した渾身のルポ.紀伊半島の奥の深さを垣間見ることのできる書である. | ルポタージュ |
父の戦地 | 北原 亞以子 | 新潮文庫 | 第二次世界大戦では多くの父親が出征し,還らぬ人となった.著者の父親もそうであった.本書は出征先の南方ビルマから約3年にわたり,幼い筆者に書き綴った軍事郵便.その数,実に70通.子どもにもイメージできるようにと描かれたイラストが大変巧く,娘に対する父親の深い愛情が感じられる. | 随筆 ・ 戦争 |
サービスの裏方たち | 野地 秩嘉 | 新潮文庫 | 我々がふだん目にしない場所や気にも留めない世界にも驚くべき技をもつプロフェッショナルがいてサービス精神が発揮されている.給食のおばさん,女性クレーンオペレータ−などが登場する10篇の感動ストーリーは,「見えないところにこそ,本物のプロフェッショナルがいる」ことに気づかせてくれる. | ビジネス |
くじけそうな時の臨床哲学 | 鷲田 清一 | ちくま学芸文庫 | 何をしたいのかわからない,自分はもっと評価されてしかるべき,恋人との関係がなかなか安定しない,自分の居場所がない等々でお悩みの方は本書の哲学クリニックを受診することを薦めたい.古今東西の生きた言葉をもとに正しく悩んで,きちんと治す方法を処方してくれる. | 哲学 |
鉄は魔法つかい | 畠山 重篤 | 小学館 | 「森は海の恋人」で知られる気仙沼の猟師がその運動を始めたのは今から23年前のことであった.津波で壊滅的な被害を受けたこの海も,森・川・海のつながりがしっかりとしていて鉄さえ供給されれば蘇るという.本書は化学嫌いの読者にもイラスト入りで分かりやすく解説してくれており,中学生でも十分に読める内容である. | 化学 ・ 生態学 |
日本の魚は大丈夫か | 勝川 敏雄 | NHK出版新書 | 東日本大震災では三陸沿岸の漁業が壊滅的な被害を受けた.この地域の再生・復興を進める上で漁業の復活抜きでの話はありえないだろう.資源枯渇と魚価安で衰退の一途をたどる日本の漁業の再生への道しるべが本書で提案されている. | 水産業 |
地震の日本史 | 寒川 旭 | 中公新書 | 我が国の歴史は地震の歴史と言っても過言ではない.本書は縄文時代から近代までの我が国の地震を地中の痕跡や古文書などから明らかにし,まとめたもの.今年5月に出された増補版では東日本大震災のことが加筆されている.平安時代に起きた東北巨大地震の18年後には南海地震が発生しているが,今回はどうなのか.いずれにしても「構えて(備えて)待つ」ほかなさそうだ. | 地震学 考古学 |
8月
書 名 | 作者名 | 出版社 | 内容・コメント等 | ジャンル |
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棟梁 −技を伝え,人を育てる− | 小川 三夫 | 文春文庫 | 奈良・法隆寺最後の宮大工・西岡常一(故人)の内弟子を務めていた著者による名言集.「言葉で技や感覚を伝えることは不可能です」「合格点はいつも自分が納得がいく満点でなければならないのです」「人間は技だけ秀でていてもだめや.バランスのいい人間にならんと」といった言葉は若きエンジニアを育てる我々の心にも響いてくるものがある. | 建築学・人間学 |
粉の文化史−石臼からハイテクノロジーまで− | 三輪 茂雄 | 新潮新書 | この夏,京都・琴引浜の鳴き砂を体験し,その研究で知られる三輪先生の著作を読み漁った.本書はその一つで,石器時代から現代のハイテクに至るまでの粉についての文化史.豊富な挿絵が読み手の理解を助ける上で一役買っている.もちろん第十章『白砂のロマン』で鳴き砂についても取り上げられている. | 粉体工学 |
感染症と文明−共生への道 | 山本太郎 | 岩波新書 | 新型インフルエンザ騒動が収まって久しいが,人類の歴史は感染症との闘いの歴史でもあった.この闘いに終わりがあるのか?本書は解決の糸口として,感染症のない社会を目指すのではなく感染症と共生することが大事であると訴える.「感染症撲滅への努力は破壊的な悲劇の幕開け」というフレーズに衝撃を受けた. | 社会学 |
手業に学べ −心・技− | 塩野米松 | ちくま文庫 | 日本の伝統工芸が失われようとしている.その最大の原因は,技を代々受け継ぎ守ってくれる後継者がなくなりつつあるという事実である.本書は<心>編,<技>編あわせて30人もの職人への聞き取りをまとめたもの.「仕事」とは何か考えさせられる1冊. | 伝統工芸 |
日本人はなぜ震災にへこたれないのか | 関裕二 | PHP新書 | 3月の東日本大震災,7月末の新潟・福島豪雨.これほど自然災害が多いところに人間が密集して暮らしている国もそう多くはない.なぜ日本人にはそれが可能だったのだろうか,その答えは本書の中にある.それによると欧米人は子どもを守る時,加害者に正対し立ち向かうのに対し,日本人は子どもを抱きかかえ,加害者に背を向けるというのだ.戦わないのは勇気がないということではない.自然災害を敵にまわして戦うことの愚かしさを熟知するがゆえに「柳に風」という方法を選んだのだという. | 日本史 |
佐賀北の夏 | 中村計 | 新潮文庫 | 2007年夏の決勝戦−佐賀北vs広陵−は,甲子園史上最大の逆転劇とも言われる大熱戦であった.前年,県大会で初戦敗退の県立・佐賀北高校は,開幕試合で甲子園初勝利を飾ると,宇治山田商業(延長15回引き分け再試合で勝利),前橋商業,帝京,長崎日大といった甲子園常連校を次々と倒していく.決勝では,3点ビハインドで迎えた終盤に満塁本塁打が出て逆転し,優勝をもぎ取った.本書に書かれた本番で力を出させるための指導方法は,学生指導の上でも大変参考になる. | ノンフィクション |
それでもいまは,真っ白な帆を上げよう | − | 旺文社 | 東日本大震災は,ちょうど卒業シーズン真っ只中で起きた災害であった.このため,全国各地の学校で式典前に黙祷が捧げられ,また式辞の中にこの震災からの復興を取り上げる学長や来賓者も多かっただろう.本書は全国各地14もの大学・高校の長が卒業式の席で卒業生に送ったメッセージを集めたものである.それは単なるエールではなく,この悲しみを共有し,いかに人生を生きていくか深く問う内容でもある. | ノンフィクション |
7月
書 名 | 作者名 | 出版社 | 内容・コメント等 | ジャンル |
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物語 食の文化 | 北岡 正三郎 | 中公新書 | 食材の来歴と利用法,料理の歴史等をわかりやすく紹介した書.図版も多用されていて食の文化を十分に堪能できる1冊.その中に「不正なパン屋の刑罰」という絵があった.檻に閉じ込められた男がまさに今,水没させられようとする,ちょっと怖い絵だが,古くヨーロッパではパンは専門の職人が焼くもので,庶民にとって重要な食料ということで政府が量目をごまかしたり混ぜ物をしないか目を光らせていた.そして,不正をはたらいたパン屋には重い刑罰を科していたという. | 民俗学 |
ハワイの波は南極から | 永田 豊 | 丸善 | 本書はもともとウインドサーファー向け雑誌に連載されていたもので,サーファ向けにかなり分かりやすく波について解説してくれている.どのような波がサーフィンに向いているか?波の大きさの見分け方,波の早さの計算法など実践的な事柄が丁寧に書かれている. | 海洋物理学 |
津波てんでんこ | 山下文男 | 新日本出版社 | 明治以降の我が国の津波災害を1冊にまとめた良書.それぞれの災害で何が問題であったのか,端的に指摘されていて読みやすい.読後,あらためて三陸地方沿岸が津波の常襲地帯であることを痛感させられる1冊.統計的なデータも記載されており,今回の東日本大震災での地震津波での被害概要を比較するにも適した1冊. | 災害 |
つなみ | − | 文藝春秋 | 東日本大震災以降,様々な関連書籍が本屋さんには並んでいるが,個人的には本書を越えるものはないと思われる.本書には被災地80人のこどもの作文を集めたものだ.素人ながらリアリティに溢れる文章は,津波の凄まじさを生々しく伝えている.そして何より逆境の中,不屈の精神の垣間見える子ども達の文章に,大人の私たちが励まされる. | 災害 |
グリーン・エコノミー | 吉田 文和 | 中公新書 | 東日本大震災以降,原子力依存のエネルギー政策の転換を余儀なくされている.グリーンエコノミーは,原発依存から脱却し,地球温暖化対策を進めながらも経済の復興と発展を目指そうとするものである.具体的には,大気・水・土壌汚染対策,化学物質管理,生態系強化によって環境の保全を図り,雇用と所得の環境への投資を行い,社会正義と公平性を実現することで,人々のよい生き方(生活の質)を実現していこうとするものである. | 環境 ・ 経済 |
ハワイの歴史と文化 | 矢口祐人 | 中公新書 | 世界の人々を魅了してやまない太平洋上の楽園・ハワイ.だが,過去の歴史に目を向けると多くの国がそうであったように,影を落とす部分もある.とりわけ日本人にとって,移民や真珠湾攻撃の話は避けて通ることはできない歴史上の出来事である.本書はそうしたハワイの歴史と文化,そして未来を紹介している.巻末の参考文献やハワイ音楽のリストが秀逸. | 地域 ・ 文化 |
3時間台で完走するマラソン | 金哲彦 | 光文社新書 | 11月に開催される第1回神戸マラソンに応募していたところ,運よく当たってしまった.しかし,どのように調整を進めていいのかわからず藁にも掴む気分で手にしたのが本書.トレーニング方法や体調管理等,基本事項が丁寧に解説されている.とりあえず,目標は「完走」(42.195kmを休まずに走る)である. | スポーツ |
6月
書 名 | 作者名 | 出版社 | 内容・コメント等 | ジャンル |
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風評被害 | 関谷 直也 | 光文社新書 | 風評被害とは災害,事故,虚偽の報道や根拠のない噂話などによって,本来は直接関係のない他人までが損害を受けることをいう.風評被害は「疑心暗鬼の連鎖」によって生まれる.言い換えれば,「風評被害というのは正しい情報を伝えないことによって起こる」ということだろう.人間は自分の身を守ろうと考えるので情報が不完全な時は,余計に不安になって慎重な行動になるのである.本書は東日本大震災における「風評被害」についても言及しており,津波とは違った観点からこの災害を捉えることができる.「安全・安心」を追求する悪意のない当たり前の気持ちが生むこの現象にどのように立ち向かっていくべきなのか?リスクをどこまで許容するか,その議論が必要である. | 情報 |
クジラは海の資源か神獣か | 石川 創 | NHKブックス | 南極海での調査捕鯨に調査船団長として携わる著者が,鯨の生態や捕鯨問題の本質までをわかりやすく解説している.ここ最近,何かと騒がれている「鯨」だが,本書を読み,かつての日本には鯨との共生をはかる暮らしがあったことをますます思うようになった.毅然とした態度で対峙する調査船団長の姿が頼もしい. | 生物学 |
日本の鯨食文化 | 小松正之 | 祥伝社新書 | こちらも同じく鯨についての本.私の親の世代にとっては,「鯨の竜田揚げ」は給食のお決まりメニューであったようだが,自分達の給食ではお目にかかることはなかった.大人たちがいつも遠い目で鯨を食べた当時の話をするのに,いつかは食べてみたいと思いつつ,今日に至る.本書は先人が営々と築き上げてきた豊かな鯨食文化をもてあますことなく紹介している.希少だが絶やしてはならないものである. | 民俗学 |
天災と国防 | 寺田 寅彦 | 講談社学術文庫 | 「東日本大震災」以降,再び脚光を浴びている寺田寅彦.角川文庫や中公文庫からも似たようなものが出ている.「天災は忘れられたる頃に来る」との言葉で知られる寺田氏だが,本書に収められている随筆はいずれもちっとも古さを感じさせない,見事な指摘である.言い換えれば,我々は,同じ災難に懲りもせずに遭ってきたということだろう.災害が起こってから本書のような先人の智恵が広く知られるというのも皮肉な話だが,これもまた人間の「忘れっぽさ」に起因する現象なのかもしれない. | 防災 |
星界の報告 | ガリレオ | 岩波文庫 | ガリレオが書いた最初の本.世界の名著などでも重要な古典作品であり,今なお読み継がれる科学啓蒙書である.本書はオランダで発明された望遠鏡の解説と,それを用いた月などの観察記録からなる.神戸の百万ドルの夜景のもとでは,なかなか難しいかもしれないが,真夏の夜に星空を眺める,そんな時間の過ごし方があってもいい. | 天文学 |
知的文章とプレゼンテーション | 黒木登志夫 | 中公新書 | 卒研生,専攻科生には研究内容をまとめる前に「買ってでも読め!」と薦めたい1冊.説得力のあるドキュメント,惹きつけるプレゼンテーションを作るコツが満載されている.就活している人も読んで損はないだろう. | 国語 ビジネス |
語感トレーニング | 中村 明 | 岩波新書 | 「語感」とは,その語が相手にどういう感触・印象・雰囲気を与えるかといった心理的な情報に関わるソフトな面での表現選択である.本書はQ&A方式で伝えたい思いを適切な言葉で送り届けるためのトレーニングが出来る.日本語をもっと使いこなすために必読の1冊. | 日本語 |
5月
書 名 | 作者名 | 出版社 | 内容・コメント等 | ジャンル |
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遠野物語 | 柳田 国男 | 角川文庫 | いわずと知れた本邦民俗学の金字塔.岩手県遠野に伝わる伝説や怪異譚,自然や生活の貴重な記録誌であるとともに優れた文学作品でもある.5月上旬に岩手県沿岸の津波被害調査に出向いたが,その帰りにこの地を通過した.被災地の惨状を目の当たりにした直後であっただけに,猿ヶ石川沿いの見事な桜並木と点在する集落のなす景観に理想郷を思わずにはいられなかった. | 民俗学 |
孤猿随筆 | 柳田 国男 | 岩波文庫 | 同じく柳田国男氏の作品だが,『遠野物語』に比べて知る人は少ない.本書は動物たちが人間生活の中でどのような位置を占めてきたか.物語,伝承そして記録を織り交ぜながらたどる.その話題は飼い犬の挙動や庭のドラ猫一族の話まで,実に多岐にわたる.身近な動物を題材に様々な観点から深く考察できる点はさすが民俗学者である. | 随筆文学 |
ことばの海をゆく | 見坊 豪紀 | 朝日選書 | 作者は国立国語研究所の研究部長として,また国語辞典の編纂者として日本語の用例採集に生涯を捧げた.その数百五十万例とも言われる.本書はこれらのデータを駆使して現代語のうつろいを捉え,日本語の生態にメスを入れる.ところで本書が出たのは私が生まれた年(30年以上も前)であるが,当時から既に言葉遣いや言葉の乱れの問題は指摘されていたのですね.言葉は生き物で常に揺れ動いていることを実感させられる1冊. | 国語 |
ビーグル号航海記 <上・中・下> | C・ダーウィン | 岩波文庫 | 恒例のGW期間中のmy企画−古今東西名著への挑戦−,今年は『進化論』で知られるチャールズ・ダーウィンの大作を読むことに.実は大学時代の英語の授業で彼の生涯について書かれたテキストを使っていたのでおよそのあらすじはわかっていて読みやすかった.のちに『進化論』を著わすだけあって,各地で出会った生物についての記述が楽しい. | 地理・生態学 |
東日本大震災の流言・デマ | 荻上 チキ | 光文社新書 | 関東大震災の時に,デマで中国人や韓国人が虐殺されるれという痛ましい過去があったことは学校で教わった.そのような問題は過去の話かと思いきや,インターネットや携帯電話が普及した今日でも起きるらしい.実際に,先日の東日本大震災では私も似たような情報が回ってきた.問題なのは大災害時においても,情報をそのまま鵜呑みにするではなく,一度冷静になって情報の中身を吟味し,次の行動をよく考えることではないか.即レスポンスではこういった流言・デマの拡散を防ぐことは難しい. | 社会学 |
日本人なら必ず誤訳する英文 | 越前敏弥 | ディスカヴァ新書 | あの1000万部を超えるベストセラー『ダ・ヴィンチ・コード』の名翻訳家である著者が,長年にわたり予備校や翻訳学校で教えてきた中で日本人が必ず誤訳する英文を収集し,解説したもの.大学編入試験等の英文和訳対策におススメの1冊.ただし,英文法の基礎については,高校生向けの参考書で学習する方がいいだろう.あくまで力試しの1冊として活用されたい. | 英語 |
とっておきの話 | ちくま文学の森10 | ちくま文庫 | とうとう「ちくま文学の森」が完結(全10冊).本書に収められている作品の中では,中島敦の『名人伝』が面白かった.弓の名人になるべく主人公が師匠のもとを訪ね,修行に励んでいく物語だが,その光景はまるで『少年サッカー』のワイヤーアクション並みのありえないものであった.その他,小泉八雲の『ある女の日記』,長谷川四郎の『鶴』もおススメ. | 文学 |
蘇るコウノトリ | 菊池 直樹 | 東京大学出版会 | 2005年9月24日,5羽のコウノトリが兵庫県の但馬地方の大空へと放たれた.本書は但馬の人々のコウノトリをめぐる語りを聞き取り,その語りから里に暮らす人とコウノトリの関わりを復元する.この類の本にありがちな愛護的価値だけに基づいて書かれた保護論でないのが良い. | 生態学 |
教科書の詩をよみかえす | 川崎 洋 | ちくま文庫 | 教科書から選び抜かれた31編の詩を取り上げ,各作品の背景等を解説.学校で教わった詩というのは(暗誦させられることが多かったからか)いまでも忘れる事ができないものが多く,そのような詩を見つけると懐かしい気持ちになり,当時の教室の雰囲気までもが思い出されるのであった.その一方で,これまでまったく知らなかった作品の魅力にも触れられて,ちょっと得した気分. | 文学 |
4月
書 名 | 作者名 | 出版社 | 内容・コメント等 | ジャンル |
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地球は火山がつくった | 鎌田 浩毅 | 岩波ジュニア新書 | 火山の噴火は地球上で見られる華やかな活動の一つである.その魅力を京都大学の人気講師がわかりやすく,明快に,そして面白く伝えてくれる.S5防災工学を受講している学生にとって必読の1冊.授業では「用語」としてしか紹介されない部分が,詳しく書かれていて,ためになる. | 地学 |
高校放浪記 | 稲田耕三 | 角川文庫 | 父親への反発,教師への反抗,学校や社会への怒り.授業をサボり,喧嘩に明け暮れる毎日の主人公は若かりし日の著者自身の姿であった.当時の高校生に圧倒的な共感を呼んだ本書は,いまの高専生にどのように映るのだろうか?ちなみに,冒頭に,とある高専の名が出てくるのだが,それは読んでのお楽しみに. | 小説 |
災害ユートピア | レベッカ・ソルニット | 亜紀書房 | 大爆発・大地震・大洪水そしてテロ−いつもそこにはユートピアが出現するという.災害時になぜ人々は無償の行為を行うのか?なぜ混乱の最中に人々は秩序だった動きができるのか?被災者の言動に励まされたり,学ぶべきことは多い. | ノンフィクション |
レンブラント −光と影のリアリティ− | 熊澤 弘 | 角川文庫 | 高専時代の担任の先生の研究室に一枚の自画像が貼ってあった.息子を亡くして間もない頃のレンブラントの自画像だと教えられ,それ以来興味を持っていたが,本書を読むまではその生涯についてはあまり知らなかった.国立西洋美術館で開催中の企画展『レンブラント 光の探求/闇の誘惑』も,機会があれば是非行ってみたい. | 芸術 |
センセイの書斎 −イラストルポ「本」のある仕事場− | 内澤旬子 | 河出文庫 | 子どもの頃から本に囲まれた生活に憧れていた.現在の私の研究室はおおよそそのようであるが,モノ書きの先生方の部屋には及ばない.天井から見た部屋のイラストからは登場する作家の個性が出ていて面白い. | ノンフィクション |
詩の楽しみ | 吉野弘 | 岩波ジュニア新書 | 詩作は不得手だが,詩を読むことは好きである.本書は,詩人の中でも私がもっとも好きな吉野弘さんが,詩の生命ともいえる表現の新鮮さを有名無名の詩を取り上げて丁寧に解説している.教科書に載ってる詩も素敵だが,本書に出てくるような素人の高校生が書く詩も素直で好感が持てる. | 文学 |
マゼラン最初の世界一周航海 | 長南 実・訳 | 岩波文庫 | 香料確保の使命をおびて西へ西へと航路をたどる記録誌.マゼラン自身は話の前半であっけなく死んでしまうのだが,それでも初志を貫徹した乗組員たちの勇気に感嘆する.面白いのは彼らが現地の言葉を丁寧に書き取っている点である.現在の諸言語のもとになっていると思われる言葉もあり興味深い. | 歴史・地理 |
円朝ざんまい | 森まゆみ | 文春文庫 | 江戸末期から明治にかけて実在した「落語の神様」三遊亭円朝は旅行好きでもあった.その足跡をたどる本書からは,今では失われつつある「人情の機微」にひたることができる.ちなみに最近の私はすっかり「落語=江戸落語」になびいてしまっている.通勤中に耳にするのはいつも三代目古今亭志ん朝. | ノンフィクション |
3月
書 名 | 作者名 | 出版社 | 内容・コメント等 | ジャンル |
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力と物質 | ファラデー | 岩波文庫 | 「ローソクの科学」で知られるファラデーによるクリスマス講義集.長く絶版状態となっていたが,このほど復刊版が出た.「ローソクの科学」よりも,より多くの実験が紹介されている.こんな講義を受けてみたいものだ. | 物理学 |
πの話 | 野崎昭弘 | 岩波現代文庫 | 「岩波科学の本」で好評だった本の文庫化.円と同じ面積をもつ正方形はつくれるか?このギリシャ以来の問題は円周率という値のふしぎさをよく語っている.円周率にまつわる歴史など丁寧にやさしく語りかけている. | 数学 |
死都日本 | 石黒耀 | 講談社文庫 | 霧島連山の新燃岳の火山活動が活発になりつつある.それを予言するかのようなクライシスノベルが本書である.あくまでフィクションだが史実に忠実な記述もあり,ノンフィクションに限りなく近い.文庫で600ページ超の大作だが,一気に読みきることができた.大規模火山災害について考えさせられる1冊である. | 小説 |
ルポ貧困大国アメリカ | 堤未果 | 岩波新書 | NHKの「課外授業ようこそ先輩」で堤さんのことを知った.本書は,9・11テロ以降,変わりゆくアメリカ社会の中で,貧困層の人々にスポットをあてた著者渾身のルポタージュ.急激に進む社会の二極化は決して海の向こうの大国の話ではすまされない. | 社会学 |
社会の真実の見つけかた | 堤未果 | 岩波ジュニア新書 | メディアが流す情報は果たして真実なのか?9・11のテロを目の当たりにし,ジャーナリストに転身した筆者が「情報を読み解く力」を身に付ける大切さを説く.これは未来を選ぶ自由を得るためにも必要な能力だ. | 社会学 |
名文どろぼう | 竹内政明 | 文春新書 | 良い文章を書くには,名文を盗むことからはじめると良い.本書は古今東西の有名・無名の人々の名文・名言をより集めたもの.姉妹編の『名セリフどろぼう』もあわせて読むとよい. | 言語学 |
三陸海岸大津波 | 吉村昭 | 中公文庫 | 明治29年の三陸地震津波,昭和8年の三陸地震津波,そして昭和35年のチリ地震津波の惨状を描いた作品.史実をテーマとした小説を描くのが得意な吉村氏であるが,本書は被災者の証言や作文をほぼそのまま収録しているという点でほかの作品とは一線を画していると思われる.本書に描かれる大津波の惨状は3月11日の東北大震災での津波とまるで変わらない.改めて自然の猛威に畏怖の念を抱くとともに,一日も早い東北沿岸地域の復興を願わずにはいられない. | ノンフィクション |
教えない教え | 権藤博 | 集英社新書 | 1998年,その個性的な指導方法で大魔神こと佐々木主浩投手らを擁し,横浜ベイスターズを優勝に導いた氏が,野球によらず社会に通用する人材を開花させる方法を説く.「無理せず,急がず,はみださず」のモットーは高専の教育現場においても十分参考になる. | ビジネス |
2月
書 名 | 作者名 | 出版社 | 内容・コメント等 | ジャンル |
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東京の地理 | 正井泰夫 | 青春新書 | 学会関係の仕事で「おのぼりさん」の機会も増えてきた.歩くたびに,意外にも坂の多いことに気づかされる.本書は,「地形」や「地名」,そして「歴史」からみた東京案内の書.めまぐるしく変貌を遂げる1000万都市・東京の姿が一目瞭然である. | 歴史・地理学 |
一話3分落語ネタ入門 | 桂歌若 | 朝日新書 | 古典落語の代表的な演目80題が,それぞれ3ページでコンパクトに紹介され思わず寄席に足を運びたくなる1冊.いまなお落語ブームであるが,そのとっかかりに最適の1冊であろう.あらすじの紹介だけでなく,落語に登場する人物や時代背景なども随所に散りばめられていて読み応えがある.挿絵として載せられている林家正楽師匠の切り絵がまた素晴らしい. | 落語 |
ぼくらはガリレオ | 板倉聖宣 | 岩波現代文庫 | なぜ物は落ちるのか?4人の中学生と先生が「アリストテレスはまちがっている」と言ったガリレオの思考をなぞりながら,物が落ちる本当の理由を導き出す.本書は,こんな場合はどうだろう,こう考えたらどうなるか,など仮説を立てながら自分たちで実験し確かめていく思考の過程の大切さがさりげなく説かれている.4人の中学生の対話は面白く,私も卒研生の顔を思い浮かべ,○○君はこのタイプかなと当てはめながら一気に読み進めた. | 物理学・教育 |
川柳でんでん太鼓 | 田辺聖子 | 講談社文庫 | NHKラジオ第一で毎週土曜日の午後に放送されている「かんさい土曜ほっとタイム」は私のお気に入りの番組である.中でもこの番組の15時台の「ぼやき川柳アワー」が面白い.それがきっかけで川柳に興味をもつようになり,本書にたどり着いた.選び抜かれた良句佳吟からは,庶民の本音が伝わってくる.田辺さんのはんなりとした文章もいい. | 日本語 川柳 |
数学入門 <上・下> | 遠山 啓 | 岩波新書 | 数学を学ぶのは,試験や受験のため,そして数学は,日常生活には役には立たないと感じている人におススメの1冊.本書は,数学というものが現代社会のあらゆる分野に活用されていることを具体的にわかりやすく教えてくれる本.初版が1956年というのに今なお読み継がれているロングセラー. | 数学 |
1月
書 名 | 作者名 | 出版社 | 内容・コメント等 | ジャンル |
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ドキュメント臨床哲学 | 鷲田清一・監修 | 大阪大学出版会 | 「臨床哲学」とは聞き慣れない名称であるが,実際の社会で生じているさまざまな問題を「治療」という観点から,「医者」ではなく「患者」の立場で考えていこうとする哲学的活動をいう.本書はこれを提唱し,その運動に関わってきた主力メンバーによって書かれた.「白熱授業」や「哲学カフェ」など,最近は哲学そのものがブームになっているように思うが,難解と敬遠されがちな哲学を身近なものにしたのが臨床哲学の一番の功績であろう.監修者の鷲田さんは,現在,大阪大学の学長を務めておられ,話を耳にする機会も多い.その著作では,『「聴く」ことの力―臨床哲学試論』(角川選書)もおススメ.21世紀は様々な分野で哲学が見直される(必要とされる)かもしれない. | 哲学 |
伝わる文章の書き方教室 | 飯間浩明 | ちくまプリマー新書 | 言葉の選び方や表現方法は,論理構成をちょっと工夫するだけで文章の見栄えがぐっとよくなる.本書はゲーム感覚で「相手に伝わる文章」の書き方をトレーニングする方法が幾通りも紹介されていて参考になる.卒業研究,特別研究の原稿執筆の前に手にして読んでもらいたい1冊.『推敲』することの大切さがよくわかる. | 国語 |
知っておきたい 般若心経 | 瓜生中 | 角川文庫 | 陸上競技部の冬季合宿の際に,ライバル高専の先生とお経の話で盛り上がったことをきっかけに本書を手にした.学生時代の教養科目でこれの暗誦テストがあったが,当時はただひたすらに「覚える」ことに必死になっていた感があったように思う.その一字一句の意味の理解をあわせもって取り組めば,苦労することもなかったろうに・・・. | 宗教学 |
石と人間の歴史 | 蟹澤聰史 | 中公新書 | 人と石の付き合いは,いまから250万年前にも遡る.人類の歴史は,旧石器時代から始まったのだ.本書では地質学・岩石学的に重要な世界各地の地域を取り上げ,その特色を紹介している.図版資料がたくさん収載されており,これらを眺めているだけでも楽しい.研究室の学生さんには,現地調査の際,なにげなく回りに転がっている石にも目を向けてもらいたいものだ.新しい発見があるかもしれない. | 民俗学 |
倫理とは何か | 永井 均 | ちくま学芸文庫 | 悪いことはしたくない,できれば善いことをしたい−本当にみんながそのように思っているのか?.本書は,この問いに答えるべく,道徳的な善悪それ自体を哲学している.二人の大学生とネコ,先生の4人がなす対話に,自らも参加するつもりでゆっくりと時間をかけて読むのがよい1冊. | 哲学・倫理 |
自虐の詩 | 業田善家 | 竹書房文庫 | 「日本一泣ける四コマ漫画」と薦められて読んでみたが,読み始めた当初は,夫が妻に暴力を振るうお決まりのオチにウンザリしていた.しかし,話の真ん中あたりから違った展開をみせるようになる.回想のシーンもたびたび登場するようになり,夫婦のこれまでのあゆみが明らかになってくる.このあたりから,次第に惹き込まれていくのだが,最後はやっぱり泣けた. | マンガ |
街場の大学論 | 内田樹 | 角川文庫 | 日本の大学は今や「冬の時代」を迎えている.大学の原点とは何か?大学の社会使命とは何か?,自らも大学教員である(この3月で退官されるようですが・・)著者が論じる教育再生論.巻末の文科省の役員との対談も面白い.同じ高等教育機関の「高専」もやはりその「原点」と「社会使命」について考えていかなければいけない. | エッセー |