Uno's Lab.

ようこそ 神戸高専 都市工学科 宇野研究室へ。
当研究室では、河川、沿岸域の水辺の環境保全・防災に関する研究を行なっています。.
明石海峡 夙川 伊川 ハクセンシオマネキ 加古川 成ヶ島

2010年 読書記録

願わくば,学生時代に一日のたとえわずかでもよいから本を読む習慣をつけてもらいたい. ちなみに私は,行き帰りの通勤電車が「読書部屋」となっている.

12月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
大陸と海洋の起源
−大陸移動説−
ヴェゲナー岩波文庫ヴェゲナーの「大陸移動説」については,小学校の国語の時間に教わった.本格的な「説明文」を読みこなす,その第一歩の教材としてという位置づけであったように思う.当時はかなり昔の話のことかと思っていたが,実はまだそんなに時間の経っていない話なのである.本書に収録されている多くの図にも好奇心を駆り立てられる.自然科学
13歳からの反社会学パオロ マッツァリーノ角川書店オトナの社会や情報を面白く見るコツを学ぶ特別講義集.マッツアリーノ氏の著作は具体的で分かりやすく,とにかく面白い.これからのエンジニアには工学的なアプローチに,社会学的なアウトプットが求められる時代,一読を薦めたい.社会学
はじめての政治哲学「正しさ」をめぐる23の問い小川仁志講談社新書徳山高専准教授の小川先生の新刊.NHK『ハーバード哲学教室』の放映を受けて,政治哲学なるものが脚光を浴びているが,そもそも政治哲学とは何ぞやという素朴な疑問から本書を手にした.「人命救助は義務なのか?」「なぜ話し合いが必要なのか?」,様々な問いから自分達の社会を考えるヒントが提示されている.哲学
新編 単独行加藤文太郎ヤマケイ文庫「単独行の加藤文太郎」については学生時代ワンダーフォーゲル部に所属していながら「名前を聞いたことがある」程度にしか知らなかったのだが,兵庫・浜坂の出身,県立兵庫工業の卒業生と紹介した新聞記事が目にとまり,思わず手にした一冊.アルプスでの数々の偉業も立派だが,兵庫や神戸ゆかりの山についての紀行文が読めるのが嬉しい.山岳・紀行
思いがけない話ちくま文学の森5ちくま文庫ちくま文学の森シリーズの1冊.物語を読むたのしさは,その「意外性」に出会うことにあると思われるが,本書はそうした思いがけない話が多数収録されている.思いがけない話は,「思いがけない」展開を何度も読んで知っているのに,そこへ来るとやはりびっくりするのであるという森毅さんの解説に思わず納得!これは落語のオチを聴くときもそうですね.文学
八十日間世界一周ヴェルヌ岩波文庫ヴェルヌの作品は,これまで『海底二万里』しか読んだ事がなく,SF作家のイメージが強かった.しかし,本書は19世紀のイギリス産業革命当時の世界の海運事情にもとづいて書かれた冒険小説である.最後にはあっと驚く展開が待っているのだが,それは読んでのお楽しみに.ちなみに世界一周の途中では日本にも立ち寄ることになっていて,当時の日本がどのように見られていたのかがわかる.文学
あっぱれ技術大国ドイツ熊谷徹新潮文庫かつて文明開化のころ,欧米に追いつけ追い越せと諸国の技術を取り入れた日本.とりわけ凝り性で働き者のドイツ人とは相性がよかったのか,産業界では多くの技術がもたらされた.ドイツ製品というと武骨で長持ちするというイメージで,大量生産された安物の品とは違うとの印象がある.本書は,在独20年になる著者がドイツ流ものづくりについて紹介する1冊.エッセー
地図の科学山岡光治サイエンス・アイ新書小学校で使った地図帳から,カーナビの地図ソフトまで,地図は我々の生活に密着している.都市工学を専攻するならなおさらのことである.本書は,地図の歴史からその作り方の最新技術まで,「地図」尽くしの1冊.地理学
落語の聴き方 楽しみ方松本尚久ちくまプリマー新書落語とは何かを考えつつ,その聴き方楽しみ方を探る落語論で,これから落語でも聞いてみようかなという人におススメの1冊.人は落語をきいてなぜ笑うのか,落語における時間の流れ方,落語はドラマを排除すること,登場人物がみな無名であること と言った落語ならではのルール?から,落語という芸の特異性に迫る1冊.もちろんツウにとっても読み応えがあります.古典芸能



11月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
語り継ぎたい命の尊さ住田功一一橋出版神戸出身のNHKアナウンサーである住田さんは,実家に帰省中にあの阪神淡路大震災に遭遇した.本書は当時とった3冊のノートのメモから,住田氏自身の体験が語られる.アナウンサーというよりも,一市民としての立場で書かれた平易な文章が,逆にその生々しさをわかりやすく伝えている.S5防災工学受講者にとって必読の1冊.社会学
なめくじ艦隊古今亭志ん生ちくま文庫放蕩無頼の暮らしから養った鋭い美意識,洒脱・軽妙な独特の語り口で,昭和を代表する名人だった五代目古今亭志ん生の人柄がにじみ出た半生記.なめくじ艦隊とは,住んでいた長屋が水はけの悪い地に建っており,少しでも雨が降ろうものなら家中になめくじが艦隊のように押し寄せてきた逸話からとったもの.想像を絶するような貧乏暮らしも志ん生に言わせれば「貧乏はするもんじゃねぇ.味わうもんだ」ということ.さすが,名人.自伝
落下傘学長奮戦記黒木登志夫中公新書ラクレ2004年4月,全国の国立大学は独立法人化した.本書は40年間研究だけをしてきた基礎医学者が,突然,中部地方のとある地方大学の学長になり,その混乱と苦悩,そして奮戦する姿を描いた1冊.大学法人化の現場の実態がよくわかる.ちなみに著者は『英文手紙の書き方』を著わしたことでも有名.こちらの本も私はよくお世話になっている.社会学
東大講義録I
文明を解く
堺屋太一日経ビジネス文庫元・経済企画庁官にして作家の堺屋太一氏が東京大学先端科学技術研究センターで講じた講義録である.1980年代以降に生まれた若者に向けて語られた文明と未来,高専生が読んでも損はないはず.世界史や政治・経済をなぜ勉強するのか?そんなことも見えてくる1冊.ビジネス
直感でわかる数学畑村洋太郎岩波書店「失敗学」でおなじみの著者が,算数・数学について「直観」でわかるように身近な題材を取り上げて,分かりやすく解説している.姉妹編の『続・直感でわかる数学』もあわせて読んでおきたい.特に巻末の語呂合わせで覚える円周率,自然対数の底,平方根,三角関数の諸公式は読んでおいて絶対に損はないはず.数学
命いとおし
詩人・塔和子の半生
安宅 温ミネルヴァ書房詩人の塔和子さんは,13歳の時にハンセン病を発し,14歳で当時の隔離政策により家族と引き離された.いまもなお瀬戸内海にある島のハンセン病の療養所にお住まいである.彼女の詩は,素直で厳しく,静かだが,病に罹った悲しみ,隔離政策を受けた怒りに満ちている.ノンフィクション
神戸 客船ものがたり森隆行・五艘みどり神戸新聞総合出版センター開港から港とともに発展してきたまち・神戸.船は人やモノをを運び,神戸に独自の文化をもたらした.戦争・震災等の幾多の困難を乗り越えてきたそのあゆみを船と港の視点で振り返る.いつまでも汽笛のこだまする港都であってほしいと願わずにはいられない.ノンフィクション
教科書では教えてくれない日本の名作出口汪ソフトバンク新書私が高専生のころは深夜のラジオで『旺文社の大学受験ラジオ講座』というものが放送されていた.大学受験生向けに当時の予備校の一流講師による30分講義が1日2本放送されるというものであった.この本の著者は,そこでも現代文を担当されるカリスマ講師だった.本書は夏目漱石,太宰治,芥川龍之介,三島由紀夫らの名作を選りすぐり,作品鑑賞しようというもの.こういうガイドに従って一つの作品を精読することもたまには必要である.日本文学
「マツ」の話−防災からみた一つの日本史−池谷 浩五月書房日本の海岸の原風景「白砂青松」を創り,我が国の防災にも役立ってきた松.実はその松は隣国の韓国から製陶や製鉄などの燃料として人の手により伝来した.本書は,防災,特に土砂災害の防止という視点から「松の歴史」を論じた1冊.ちなみに私にとっては,小学校の夏休みに水練学校に通い詰めた浜寺公園内の松林,臨海学校で訪れた慶野松原の松林が印象に残っている.防災



10月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
ロウソクの科学ファラデー岩波文庫一本のロウソクから始まる深遠な科学の世界.製本工から偉大な科学者になったファラデー(1791-1867)自身が,少年少女に語りかけ実験をくりひろげる.今日では想像しにくいロウソクづくりについての解説と,巻末の「ファラデー 人と生涯」という小史も一読の価値がある.科学
こども風土記・母の手毬歌柳田国男岩波文庫日本の各地に伝わる子供の遊びの数々を書き留めた短文集『こども風土記』.「社会と人生とを周囲の書物の間から覚えてゆくような路を開きたい」と願って書かれた『母の手毬歌』.どちらも民俗文化の研究者としての子供たちを見つめる柳田の優しい眼差しが感じられる好著.遊びを通じて覚えた社会のルール,今のテレビゲームにそのような要素があるだろうかとふと考えさせられた1冊.民俗学
大阪今昔散歩原島広至中経文庫古地図と現代地図,古写真と同一視点の現代写真の比較するフルカラー文庫本『今昔散歩』シリーズの第3弾.大阪城,通天閣,道頓堀など大阪名所のありし日の姿がしのばれる.大阪の街をぶらぶらするなら必携の1冊.社会学
魔術から数学へ森毅講談社学術文庫小数,対数,微分はどのように生まれたか?宗教戦争真っ只中の17世紀ヨーロッパで頭角を頭角を現わした,ガリレイ,デカルト,ニュートン,ライプニッツら数学者の列伝.気品に満ちた名文は数学嫌いの人にも読めるはず.数学史
小説家という職業森博嗣集英社新書元・某国立大学教員にして人気作家の著者が,小説家になるための秘訣を伝授.小説家としてデビューするだけでなく,作品を書き続けていくために必要なことや,出版業界のあり方についての厳しい意見がわかりやすく書かれている.プロの作家を目指す人もそうでない人も一読の価値のある1冊.エッセー
自由をつくる自在に生きる森博嗣集英社新書自由とは何か?著者いわく,それは単に義務がない状態のことではない.だからと言って何でもしてよいと放り出された状況のことでもない.自分の思いどおりになること―これが「自由」である.この深い意味を知る人のみが,本当の自由を手にし,人生をよりよく生きることができるという.「高専は自由な学校」という言葉をよく耳にするが,本当に自由を謳歌できているかどうか?本書を読んでよく考えてもらいたい.エッセー
創るセンス 工作の思考森博嗣集英社新書不器用な私自身はそうでもなかったが,私が高専生の頃は身の回りにたくさんの工作好きがいた.しかし,技術の発展で社会が便利になった今日では大人も含めて,手を汚して実際にものを作るという習慣は衰退してしまったようだ.既製品を選んだり,コンピュータの画面上で作業するだけでは,創造の領域、視覚的な思考は拡がらない.卒業研究なんかでも,計測器を作るところから始めるとよいかもしれない.エッセー
城山三郎文春文庫玉岡かおるさんの『お家さん』とあわせて読みたい一冊.大正七年米騒動で焼打ちされた神戸発祥の鈴木商店は当時,三井・三菱と並ぶ大商社だった.それが昭和初頭の大恐慌で消え去るまでの隠された真実と大番頭・金子直吉の人間性を描いたドキュメント.誤解が招いた焼き打ち,そして廃業となったのは残念きわまりないが,その精神を引き継いでいる企業は今なお実在する.小説
フォークの歯はなぜ四本になったか
実用品の進化論
ヘンリー・ペトロスキー平凡社ライブラリー人間が加工してつくる道具やモノ,その形はどうやって進化してきたのか?―この問いに,「要求される機能に沿って」と答えるのでは不十分.実用品の変化はそれが出来ることではなく,出来なかったこと,不具合や失敗の線を軸に歴史を刻んできた.そういう意味で本書は“失敗学”のさきがけであったといえるだろう.ものづくりに携わる高専生にとって必読の1冊.サイエンス



9月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
美しい恋の物語ちくま文学の森1ちくま文学の森シリーズは,安野光雅, 森毅, 井上ひさし, 池内 紀氏によって編集されたもので,古今東西の作品が集められている.教科書等に記載されるなど有名な作品もあれば,「誰これ?」(単に私の勉強不足かもしれませんが・・)というような作家の作品も収録されている.いずれも十数ページの短編なので興味のあるところだけ読むのもいいだろう.記念すべき第1回配本の本書の中では島崎藤村の『初恋』と菊池寛の『藤十郎の恋』が印象に残った.文学
心洗われる話ちくま文学の森2『美しい恋の物語』と同時に文庫化.私にとってはこちらに収録されている作品の方が好感が持てるものが多かった.その中のひとつ有島武郎・著『碁石を呑んだ八ちゃん』は,幼き頃日常の茶飯事であった兄弟喧嘩の後の気まずい気持ちを思い出させてくれる.日常の子供の世界で起きた争い.その中で兄の弟に対する感情の移り変わりや死に対する思いが上手く描かれている.文学
寄席芸人伝(1)〜(3)古谷三敏中公文庫ここ最近,生の寄席からは足が遠のいているが,この漫画にはすっかりハマってしまった.あくまでフィクションだが,志ん生ら往年の噺家のエピソード(武勇伝?)あるいは落語の登場人物を題材に一話ずつ読み切りで描かれている.噺家が一人前になるまでの苦労やそれを見守る周りの人々の温情がうまく描かれていて,笑いの中にも思わずほろりとさせられる.漫画
お家さん玉岡かおる新潮文庫大正時代,三井,三菱を凌ぐ勢いの巨大商社が神戸にあった.鈴木商店である.そのトップ鈴木よねを主人公に,そして神戸を舞台に書かれたこの小説は,古き良き港都・神戸とそれを支えた神戸人の姿をあますことなく伝えてくれる.最近読んだ小説の中で最もドラマ化して欲しい作品である.元町,旧居留地は鈴木商店ゆかりの地でもあり,界隈をブラつく前に是非読んでおきたい.小説
そら頭はでかいです,世界がすこんと入ります川上未映子講談社文庫川上未映子さんは私と同い年で,しかも大阪の出身と知ったのは最近のことである.本書は,彼女の日常生活を中心に綴られたエッセーだが,ローカルな地名が出てくるなどしてなんだか懐かしかった.文学界の気鋭として注目を集める彼女の今後の活躍が楽しみである.エッセー
冬の雁三浦哲郎文春文庫本書に収録されている『盆土産』という小説は,たしか小学校の国語の時間に教わった.出稼ぎに行っていた父親がお盆に帰省する際,冷凍のえびフライを買って来てくれるという話だが,父親の「みやげはえびフライ.油とソースを買っておけ」という手紙や,「うめもんせ」と話す祖母のセリフ,エビフライを食べる時の「しゃおっ,とした歯ざわり」といった表現が強烈に印象に残っている.またそれがお昼前の授業だったので,お腹がグーグーなって仕方なかった.日本文学



8月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
神を描いた男・田中一村小林照幸中公文庫日本のゴーギャンとも言われる日本画家・田中一村(いっそん)は,奄美大島の自然を愛し,鋭い観察と画力で,力強くも繊細な花鳥画を描いた.独特の構図と色づかいは,今なお人々を圧倒し,新鮮な感動を与えてやまない.本書は,自分の全てをなげうち,貧窮の中でそれでも画業に打ち込む一村の姿を見事にとらえている.私自身は奄美大島を訪れたことはないが,学生時代,ちょうど沖縄から鹿児島に向かうフェリーが港に立ち寄った際の光景が今でも鮮烈に脳裏に焼きついている.ちょうど門出の季節で港は見送りの人々で一杯であった.色とりどりの紙テープが乱舞する中での出港は感動的だった.豊かな自然だけでなく,そうした島の人々の情も彼を惹きつけたのかもしれない.ノンフィクション
社会力を育てる門脇 厚司岩波新書子どもや若者に広がる社会や他人への無関心.本書は,互恵的協働社会の実現には地域や学校で社会力を育てる必要性を説き,学力重視の教育からの転換を提案している.「競争」の教育から「協働」の教育へ,質の転換を主張している.ただし,個人的には「競争」する機会を設けることも重要なのではと感じた.社会学
食の街道を行く向笠千恵子平凡社新書食べ物は,人間のいのちを日々紡いでくれるものであり,それらは人の力によって作られ,運ばれ,そして調理される.本書は,かつて鯖や塩などの海産物から醤油や唐辛子などの調味料まで,さまざまな食品・食材が伝わってきた道をたどり,日本の食文化を俯瞰する1冊.今夏,鯖街道(小浜−京都)を車で走り抜ける機会があったが,重い荷役を背負って行き来した往時の人々に尊敬の念を抱かずにはいられなかった.紀行
甲子園最高勝率中村順司ベースボールマガジン社新書こどもの頃から,甲子園といえば「PL学園」.学校が家の近所にあったからであるが,それにしてもKKコンビはじめ80年代のPLは強かった.その「強いPL」を率いたのがこの本の著者・中村順司監督である.甲子園通算58勝10敗(勝率.853)は甲子園の歴代監督の中でもズバ抜けている.驚きなのは,監督として甲子園に出場してから20戦負けなしであったということだ.本書は,「素材をいかに伸ばし,チームとしてどう束ねるか」という点で,野球以外の指導者にも参考になる1冊.コーチング
ガラスの靴・悪い仲間安岡章太郎講談社文芸文庫夏休み後半,宿題に追われて大変な思いをした経験をもつ人は多いだろう.本書に収められている『宿題』は,縁日に出かけた「ぼく」がブリキ製のシャープペンシル欲しさに,母親に宿題がうんとあることを自白してしまい,それをやる羽目になるというあらすじで,主人公のゆれる気持ちがよく描けている.国語の模擬試験なんかで目にした人もいるはずだ.他に出世作となった『ガラスの靴』,芥川賞受賞『悪い仲間』ほか安岡氏の初期の名作が収められている.随筆
石橋を叩けば渡れない西堀榮三郎生産性出版大学時代何度も繰り返し読んだ本書.夏休みに東近江市にある西堀榮三郎記念『探検の殿堂』を訪れたことをきっかけに再読した.第一次南極探検越冬隊長をはじめ探検者,技術者,科学者の顔をもつ西堀さんの言葉に,探求心やチャレンジ精神,創意工夫の大切さを改めて感じ取った.ところで,『探検の殿堂』には-25℃の南極体験ができるゾーンがあるが,諸般の事情により今年10月末で休止となるそうだ.南極探検がまだの人も南極体験は済ましておいてはどうか? 随筆
洪水と治水の河川史大熊孝平凡社ライブラリー本書も学生時代の愛読書の1冊.川とは,我々にとってどのような存在なのか?近代治水技術の発展と限界を歴史的・具体的に検証し自然との共生を目指すあり方や,「溢れても安全な治水」とは何かを追求した1冊.本作品は20年以上前に書かれたものであるが,少しも古さを感じさせず,工学的研究において社会科学的なアウトプットが重要であることに気づかせてくれる1冊.近年多発する水害を前に川との付き合い方をもう一度見直す必要があるのかもしれない.土木史



7月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
百年読書会重松 清朝日新書2009年4月からの1年間,朝日新聞日曜書評欄で企画された読書会.毎月1冊,作家の重松清さんが選んだ「課題図書」について,読者が自由に感想を述べるというもの.同じ1冊の本でも老若男女その受け止め方は様々で面白いと思った.「一編の小説との出会いが「もう一つの人生」との出会いであるとするなら,かつて心に刻んだ小説を年月を経て読み返すことは,「もう一つの人生」をさらにもう一つ増やすことにほかなりません.そして,同じ小説を読んだ別のひとの感想を知ることで,「もう一つの人生」はもっともっと広がっていくでしょう」という重松さんの言葉もいい.読書
晩年の父小堀 杏奴岩波文庫文豪・森鴎外には2人目の妻との間に2人の娘をもうけたが,大変に可愛がっていたようだ.その娘たちもまた父を慕い,尊敬していた.妹の小堀杏奴は,本書の中で,母や妻,子どもたちの中心となり,周囲に濃やかな愛情をそそいだ家庭人・鴎外の素顔を,生き生きと描き出している.仰ぎみる文豪でも,軍服に身を固めた軍医総監でもないごく普通の家庭人としての鴎外の姿が浮かび上がってくる.随筆
風が強く吹いている三浦しをん新潮文庫正月のスポーツ中継といえば,箱根駅伝を思い浮かべる人も多いはず.本書は素人集団が箱根駅伝の「頂上」を目指す青春小説だが,走るということの苦しさや喜びが伝わってくる.作者の三浦しをんさんは,私と同じ年で20歳代で直木賞を受賞した作家.これからの作品にも注目していきたい.小説
後世への最大遺物
デンマルク国の話
内村鑑三岩波文庫人間なら誰もが後世に名を残したいと思うはず.では,後世に遺すことのできる「最大遺物」とは何か?内村氏は,金でもなく,事業でもなく,思想でもなく,「勇ましい高尚なる生涯」であると説く.それはまた「己の一生涯をめいめい持っておった主義のために送る」ことであるという.また,金を生み出す才能がない人であっても,事業を遺すことによって間接的にではあっても金を遺すことができる.その典型的な例は土木事業であり,一つの土木事業を遺すことは,永遠の喜びと富を後世に遺すものであると説く.本編わずか100ページにも満たない本書だが,人生の明かりを灯してくれる灯台のような1冊.日本思想
社会分業論
上・下
E.デュルケム講談社学術文庫社会学者デュルケムの代表的著作.本書を読破するには相当の忍耐を要するが,社会学の代表的作品の一つであるから,是非ともチャレンジしてもらいたい.我々は社会の分業化によって幸福を手に入れてきた.これからも,このフレームは大きくは変わらないだろう.社会に属する我々は,何らかの専門性をもつことで,この分業の一端を担うことになる.どのような専門性で自分の身を立てていくのか?学生時代に大いに悩んでもらいたいものである.哲学
私のからだのまま抱いて朝日新聞ニッポン人脈記班朝日文庫朝日新聞夕刊に連載されている<ニッポン人脈記>は,この国に生きる人々,様々な分野で汗をかき,前を見つめ,ひたむきに生きている人々の「人脈」を探り当てるシリーズである.この本では,医療・福祉・事故や災害の第一線で「いのち」と真摯に向き合う人たちへのエールが込められている.ノンフィクション
父の帽子森茉莉講談社文芸文庫東京・駒込千駄木観潮楼.森鴎外の長女として生まれた著者は,父鴎外の愛を一身に受けて成長する.日常の中の小さな出来事を題材にして鴎外に纏わる様々なこと,母のことなど,半生の想い出を繊細鋭利な筆致で見事に記す回想記.肖像写真ではなんとなく冷徹な印象の文豪も,家庭では子供を溺愛するやさしい父親であったことにホッとさせられる.親子の愛情がよく伝わってくる1冊である.エッセー



6月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
大阪古地図むかし案内本渡 章創元社大阪の古地図を題材に「読み解きスタイル」という見応えと読み応えを兼ね備えた独自の趣向で,古今の地誌や生活文化を探る案内書.「天下の台所」大阪の生き生きとした町の様子や大阪町人の息づかいが伝わってくる.歴史
技術屋の心眼E.S.ファーガソン平凡社ライブラリーかつて本校の都市工学科の学生の担任をされた某先生からのおススメの本.手と目の経験に裏打ちされた直感的で図像的な思考こそがモノを新たに作り出す.科学と技術の歴史の中にこの要諦をたどり,現場軽視の現状を批判する.モノヅクリに携わる全ての高専生にとって必読の一冊.技術史
生物多様性とは何か井田徹治岩波新書クロマグロの大量消費は何が問題なのか?人類を養う絶妙な生物ネットワークの破壊が進んでおり,生物多様性条約もその歯止めになっていない.世界各地のホットスポット(生物多様性が豊かな地域)を訪ね歩き,その現状と保全に向けた取り組みをレポート.人間と自然との関係修復を訴える.環境生態の授業に関連する話題も多いので,5年生に一読を薦めたい.生態学
地学のツボ鎌田浩毅ちくまプリマー新書物理・化学・生物学に比べるとどことなく地味な印象を持たれる地学.高校での履修率も7%を切っているというから驚きだ.地学には地震・火山・気象などの日常の自然災害に関連する項目が含まれている.地震国・火山国ニッポンに住む上でそれらの仕組みを知っておくことは防災上も意味のあることである.本書は,京都大学の人気講義をコンパクトにまとめた一冊.豊富な図版資料とわかりやすい解説にツボにはまること間違いなし.地学
翔太と猫のインサイトの夏休み永井均ちくま文庫哲学とは何よりもまず,好奇心と探究心に満ちた子どもの遊び場だ−.本書に登場するのは中学生の翔太と猫のインサント.「いまが夢じゃないって証拠は?」「たくさんの人がいる中で,ある一人だけが,「ぼく」なのはなぜ?」といった哲学的問いを巡り対話する.大事なことは自分の頭で考え抜くことである.本書は予備知識のいらない哲学の入門書だが,試験前は(考え出したら勉強に手がつかなくなるかもしれないので)おススメしない.哲学
宮本常一が見た日本佐野真一ちくま文庫私が尊敬してやまない民俗学者・宮本常一の足跡を丁寧に追ったノンフィクションの傑作.なかでも宮本さんが十五の春に故郷を離れる際,父親がこれだけは忘れぬようにと持たせた10のメモは,子を思う親心にあふれており胸を打った.以下は,そのメモの一つ.−人の見のこしたものを見るようにせよ.その中にいつも大事なものがあるはずだ.あせることはない.自分のえらんだ道をしっかり歩いていくことだ.−民俗学
これから「正義」の話をしようマイケル・サンデル早川書房NHK教育テレビで毎週日曜日の夕方に放送されていた「ハーバード白熱教室」の司会者マイケル・サンデルによる,正義(Justice)についての講義録.難破した船乗りが救助を待つ間,最も衰弱した1人を残りの3人が殺しその肉を食べて飢えをしのいだという実話を挙げ,「道徳的に許されるか」との問いを読者に投げかける.技術者倫理,住民の合意形成等を考える上でも一読の価値はある.哲学
レヴィナス入門熊野純彦ちくま新書レヴィナスのことを知ったのは最近になってであるが,フッサールとハイデガーに学びながらも,ユダヤの伝統を継承し,独特な他者論に惹かれた.自己の収容所体験を通して,ハイデガーのいう「寛大で措しみない存在」などはこうしたおそるべき現実の前では無化されてしまうと批判し,死や苦しみにまつわる切なさ,やりきれなさへの感受性といったものが,実は世界と生を結びつけているのではないかと訴えた.自分と他人との関係について考えさせられる一冊.哲学



5月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
日本語作文技術野内良三中公新書読みにくい日本語では,誰にも読んでもらえない.説得のあるわかりやすい文章をどう書くか?筆者はそのポイントとして,@短文を書くこと,A語順や読点に敏感になること,B段落の構成や論証の仕方に気を配ること,C起承転結ではなく,結起承「展」,これだけで,文章の説得力は大幅にアップするという.演習問題も豊富で,巻末の「使える定型表現」も文章を書く際に大いに役立つであろう.高学年の国語の授業で使ってみてはどう?と薦めたくなる1冊日本語
季節のない街山本周五郎新潮文庫とある街の片隅に”塵芥があつまるようにできた貧民街”.その街でギリギリの生活に追われ,貧しいゆえに自分を偽る暇もお金もなく,ありのままの自分をさらけ出しながら懸命に生きる人々を書いた異色作.変わり者達の様々なエピソードに人生の深い味わいが浮かび上がってくる.それまで山本周五郎さん=歴史小説家と思っていたが,それだけの分野にとどまらない文豪であることに気づかされた1冊.小説
ゲーテとの対話
<上・中・下>
エッカーマン岩波文庫水木しげるさんの自伝を読んでいたら,この本のことがよく引用されていたので,「ならば!」と思いGW中に一気に読み終えた.本書にはゲーテを崇拝してやまなかった筆者(エッカーマン)と晩年のゲーテとの親しい語らいが綴られている.その話題は,文学や芸術はもとより,個人生活や外国文化など多岐にわたっていて,読者自身もまたゲーテと語り合っているかのような不思議な感覚におそわれる.文学
哲学の教室小川仁志中経出版徳山高専の准教授で哲学者の小川仁志さん.いま全国の高専の一般科,それも文系の先生の中でもっともアクティブな先生ではなかろうか?本書にはハイデガーからニーチェまで13人もの著名な哲学者が講義形式で,様々な問題を解き明かしていく.14番目には小川先生ご自身が登場され,人生の中での哲学の位置づけを明確にされている.私自身は,「自分と他人について」語ったエマニュエル・レヴィナス,「正義について」語ったジョン・ロールズ,「人生について」語ったフリードリッヒ・ニーチェに興味をもったので,次はそれぞれの著作に挑みたい.哲学
私は虫である熊田千佳慕求龍堂伊丹市立美術館でみた熊田千佳慕さんの線密画は虫や花など生けるものへのやさしい眼差しにあふれている.本書は熊田氏の言葉の数々を寄せたものであるが,その言葉もやはり優しく,この言葉にしてこの絵ありだなと思った.エッセー
マンガ統計学入門アイリーン・マグネロ講談社ブルーバックス統計学が発展した歴史を追いながら基本的な概念を漏れなく解説している本書は,読み物としても最適であろう.様々な統計手法がなぜ必要なのか,どう役にたつのかがわかり,世の中に溢れる膨大な数やデータから有用な情報を見抜く目を養うことができる.数学
激濤矢口高雄講談社漫画文庫「釣りキチ三平」や「マタギ列伝」で知られる矢口さんが津波をテーマに漫画を描いていたとは知らなかった.本書は1983年5月26日正午頃に発生した日本海中部地震の時に海釣りをしていて津波に飲まれかかった主人公が,秋田県内で津波に遭遇した人々を訪ね歩いて彼らの体験談を聞いていくというもの.この日本海中部地震は地震そのものより津波による死者が非常に多い災害として知られ,秋田県内の死者83名のうち釣り人が12名を占めていた.秋田県つり連合会は津波を体験した釣り人本人や遺族に聞き取り調査をし,体験談を『釣り人が証言する日本海中部地震 大津波に襲われた』としてまとめた.これを読んだ著者が,自身が釣りを題材とした作品を執筆してきた経緯から,体験談の漫画化に取り組んだのが本作である.災害



4月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
山の遭難羽根田治平凡社新書中高年の登山ブームを背景に山での遭難事故があとを絶たない.本書は,登山者気質の変化など山岳遭難事故に潜むさまざまな要因を取り上げ分析し,ニュースでは報じられない山の遭難の真実が語られている.社会学
山が消えた
−残土・産廃戦争−
佐久間充岩波新書高度成長期,1,300を超える東京の高層ビルなどの建設のため,千葉県の中西部では約6億?の山砂が採取され,その代わりにおびただしい建設残土の山と“産廃山”が残された.現場のダンプ運転手や住民たちへのきめ細かな取材をもとに書かれた著者渾身のルポタージュ.「高度成長期」のもうひとつの一面をうかがい知ることができる.社会学
ゲゲゲの女房武良布枝実業之日本社現在放送中のNHK朝の連続テレビ小説の原作本である.結婚以来半世紀、赤貧の時代から現在まで夫の傍らに寄り添い,見守ってきた人生への思いを率直に綴った感動のエッセイ.若い頃の貧乏話には,特にいまの若い夫婦の間に一番大切なものは何かということを切実に教えてくれる.本書の副題には「人生は……終わりよければ、すべてよし!!」とあるが,そのような人生を我々も歩みたいものである.自伝

エッセー
ねぼけ人生水木しげるちくま文庫戦争で片腕を喪失,紙芝居・貸本漫画の時代と波瀾万丈の人生を,楽天的に生きぬいてきた水木しげるの面白くも哀しい半生記.漫画も面白いが,この人の書く文章もまた秀逸である.自伝

エッセー
ひょうご全史
(上・下)
神戸新聞「兵庫学」取材班・編神戸新聞総合出版センター本書は,かつて神戸新聞に連載されていた大型企画『兵庫学』をまとめたものである.上巻では原始・古代〜平安時代まで,下巻では鎌倉・室町〜江戸時代までの兵庫の歴史が収録されている.本書を読めば,「兵庫県」そして「神戸」が日本史の全体像の中でいかに重要な位置にあったかがわかる.上巻末に記載されている兵庫災害史も一読の価値あり.歴史
知的ストレッチ入門日垣隆新潮文庫健康維持のためストレッチに励む人は多いが,頭のストレッチの方はどうであろうか?本書は毎日の小さな習慣を重ねることで知力を劇的に向上させる方法を紹介してくれている.新時代の「知的生産技術」を身に着ければ,読む力,書く力,そしてプレゼンする力も確実に向上するであろう.「知は力なり」である.ビジネススキル





3月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
身体に必要なミネラルの基礎知識野口哲典サイエンス・アイ新書人間の身体は約60兆個の細胞が集まってでき,その成分は水,タンパク質,脂質,炭水化物,そしてミネラル(無機質)となっている.本書はこのうち個々のミネラルについて,健康維持や病気予防にどのように役立っているのかを解説してくれる.一日の摂取量や,そのミネラルが多く含まれる食品等も紹介されており,これらの知識は豊かな食生活に必ず役に立つであろう.サイエンス
図解 橋の科学土木学会関西支部・編講談社ブルーバックス1991年に刊行された講談社ブルーバックス『橋のなんでも小事典』は,当時中学生だった私が土木をやりたいと思うに至った本である(結局,私は構造力学の分野には進まなかったが・・).本書はこの本のリニューアル版と考えて良いだろう.橋の材料,構造,力学が平易な文章とイラストで解説されており,読み進めていくうちに材料学や構造力学を学ぶ理由が見えてくるだろう.都市工学
わたしはゲゲゲ水木しげる角川文庫この4月からNHK朝の連続テレビ小説は『ゲゲゲの女房』である.ゲゲゲとは『ゲゲゲの鬼太郎』の作者で神秘家の水木しげる氏であり,本ドラマは彼の奥さんを中心に話が展開される予定だ.本書は,この水木氏自身の自伝である.子どもの頃は妖怪の話が苦手だったが,いま大人になってみると,そこには自然への畏怖,生活の知恵が見えてきて大変興味深い.自伝

漫画
黄金峡城山三郎講談社文庫作家の城山三郎氏は経済小説を得意としたが,本書のような優れた社会派小説をも残しているとは知らなかった.東北の静かな山村で日本最大のダム建設計画が持ち上がる.交渉のため村に乗り込む開発側と,先祖伝来の土地に愛着を抱く住人たち.多額の立ち退き補償を巡り,村人は賛成派・反対派に分かれてゆく・・・.ダム建設は人々に何をもたらすのか?高度成長期の開発事業は何だったのか?深く考えさせられる小説である.小説
人間 井深大島谷泰彦講談社文庫ソニーの創業者・井深大氏の生涯を綿密な取材に基づき描いた秀作.発明家,事業者としての功績もさることながら,生涯かけて取り組んだ障害者教育と幼児教育事業など,時代を先見した活動には目を見張るものがある.井深氏は栃木県の日光で生を受けているが,最も多感な年頃である小学5年生から高校卒業までを神戸で過ごしていた話も興味深い.小説





2月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
形の美とは何か三井秀樹NHKブックス人は古来からさまざまな形にどのような意味をこめ,美を創造したきたのか?紋様や美術,工業デザイン,建築に表現された多様な形.山や雲,川など自然界の形とマルや三角,四角,放物線など幾何学的な人工の形.また,日本の造形美の秘密を解き明かし,近代的造形の世界で軽視されてきた自然界の奥深い形の復権をはかる意欲作. デザイン学
無防備な日本人広瀬弘忠ちくま新書現代人の生活は,新しい感染症の流行や自然災害,テロ,地域紛争などによって,危険で不確かなものになりつつあるが,専門家にとってはもちろん,普通の人にとってはなおさらのこと,そうしたリスクのほとんどは事前に対応するのが難しい.過去の経験や科学の知識に照らしても,実際の被害の大きさやその広がりの予測は、きわめて難しいからである.残された道は,被害の発生後に適切に対応することであるが,先日のチリ津波地震での避難の様子を見ていると,それすらも危うい状況だ.リスクマネージメント
近松門左衛門井上勝志・編角川ビギナーズクラシック江戸時代の文豪・近松門左衛門が生涯に残した浄瑠璃・歌舞伎の中から『出世景清』『曽根崎心中』『用明天皇職人鑑『けいせい反魂香』『国性爺合戦』』の5編をダイジェストで紹介.中でもおはつと徳兵衛の『曽根崎心中』は本音と義理をテーマにした日本劇の典型で,いまでも多くの人が鑑賞している.この話の舞台となる梅田・曽根崎の露天神(正式名称:露天神社)は,お初天神と呼ばれ親しまれている日本古典
理系のための研究生活ガイド坪田一男講談社ブルーバックス最近は高専から進学する学生も増えてきた.しかし,入りやすくなった分,何のために進学するのかよく考えず,後で後悔する学生も多い.進学する理由は様々あっていいが,高専との一番の違いは「研究する」ということだろう.研究は,高専でもできなくはないが,スケール,マンパワーではとうてい叶わない.なので,せっかく進学したからには「研究」の楽しさ・苦しさを味わなければ損である.本書は,現役の教授が,これから研究者を目指す若い人向けに,楽しくて充実した「研究生活」を送る方法をあますことなく伝授してくれている.
ん?山口搖司春秋社「ん」という字は,かなり特殊な日本語である.その特徴のひとつは,「ん」ではじまる言葉がないことであろう.この「ん」のローマ字標記には面白いルールがある.例えば,「さんのみや」の「ん」は「Sannomiya」とnで表されているが,「なんば」の「ん」は「Namba」とmが使われる.これは,次に来る子音が何によるかで決まる.その原則は次に来る子音が「m」「b」「p」の場合はm,そうでない場合はnが使われるというものである.英単語もこの原則に従っている.Condtion(条件),conclusion(結論),comb(くし),communication(伝達)など.本書は,こうした「ん」にまつわる意外な話が満載されている.心理学
シベリア抑留−未完の悲劇−栗原敏雄岩波新書太平洋戦争は1945年8月15日に終わりを迎えたが,国策によって多くの人々が満州に取り残された.その延長がシベリア抑留である.極寒・飢え・重労働の3重苦の中で約6万人が死亡した悲劇は今も完結していない.歴史





1月
書 名作者名出版社内容・コメント等ジャンル
「3」の発想芳沢光雄新潮選書ティッシュペーパーやドミノ倒しの原理,オモリを使った計測法等,身のまわりに拡がる「3」の世界の魅力を説く1冊.数学嫌いの人も,そうでない人も,「数字」と無縁の生活はありえないことに気付かされる1冊.数学
走れば人生見えてくる間庭典子講談社文庫本書に登場する14人のジョガーは,もともとは走ることには全く無縁だった夜遊びOL,片肺を無くした男性,大失恋をしたアラサー女性,介護に疲れた女性,がんを発症した男性などである.自分の成長を実感したい,自分に自信を持ちたい,今の状態から抜け出したい−そんな切実なる願いが走る原動力になって,走り続ける人々の姿に熱いものを感じた.今年のしあわせ駅伝でタイムを大幅に下げた私も,来年こそは真面目に走るつもりである.エッセー
空港-25時間-鎌田慧講談社文庫飛行機というとパイロットやパーサーなどを思い浮かべるかもしれないが,こうした乗務員だけで飛行機を飛ばしているわけではない.本書は,空港カウンター,貨物の搭載,機内クリーニング,整備,運航管理,航空管制、税関等,飛行機に関係する人々を取材.いずれも「安全に飛ばす誇り」が感じられ,仕事に対するプロ意識の高さがうかがえる.ノンフィクション
日本人はなにを食べてきたか原田信男角川文庫コメはいつから主食となり,なぜ肉は忌避されてきたのか?社会システムの変化に伴い,日本人がどんな食べ物を選び,どんな料理や文化を形作ってきたのか?食文化の視点で読み解く日本の歴史も面白い.民俗学
19歳の君へ日野原重明・編著春秋社自分の命も他人の命も軽く,リアルな実感を失いつつある現代は,一方で目の前の患者のたった一つのいのちをいかに大切にするか,それに生涯をかけている医療従事者がいる.本書はこうした人たちの深くて重い言葉を通じて,いのちの貴重さ,愛おしさをあますとこなく伝えている.心理学
モノができる仕組み事典成美堂出版身の回りの日用品から旅客機まで50種類の「モノ」の完成するまでの工程を数々の写真で紹介.「ものづくり」の魅力が伝わってくる!雑学
動物の値段白輪剛史角川文庫動物の売買と聞くと密漁や自然破壊のイメージが先立って,あまりいい顔をする人はいないかもしれない.しかし,動物保護のために合法的な取引で売買されていることもある.動物園なんかがそうである.動物によって値段もマチマチで,今年の干支のトラは約500万円が相場だそうだ.他にもカバ600万円,サイ1200万円(クロサイは4500万円!),ゾウ3000万円,ゴリラになると8000万円(!)もするという.ジャイアントパンダなんか借りるだけで3億円!本書は,動物商の裏舞台をユーモアたっぷりの文章で伝えてくれる.雑学