3-2 特性評価と検討

 提案した2次側PWM制御DC-DCコンバータと従来の位相シフトPWM制御との比較をC言語プログラムによるシミュレーション解析により行い、提案方式の有効性について検討する。パラメータの値は表2に示す通りである。

 La,Lbの値が2つの方式で異なるのは、位相シフトPWM制御DC-DCコンバータはV1の反転時にi1も反転するため、ZVS動作するためには負荷電流以上の補助インダクタ電流を必要とするためである。なお、この値はZVSが行われるのに必要な最低限の補助インダクタ電流が流れるように設定している。 1つの例として、出力電圧120Vに制御した時の動作波形(電流)を図12に示す。

 この図より、2次側PWM制御DC-DCコンバータは循環電流がなく、位相シフトPWM制御DC-DCコンバータに比べて補助インダクタ電流iaのピーク値が大幅に押さえられていることが理解できる。このため、パワーデバイス(S1,D1)に流れる電流is1のピークも押さえられている。

 次に、提案方式の導通損失低減効果を確認するために損失を算出した結果を表3に示す。

 これはIGBTの飽和電圧Vsfと高速ダイオードの順方向電圧降下Vfdを用いて導通損失を算出したものである。この表より1次側の全てのパワーデバイスにおいて導通損失が低減されていることが理解できる。特に逆並列ダイオードD1,D2での導通損失Loss(D1)、Loss(D2)は従来方式に比べ15%未満と大幅に減少している。これは、提案方式の単独環流期間の効果により特有の循環電流や急激な電流変動が発生しないためである。しかしながら2次側では全てのパワーデバイスにおいて導通損失が増加する。特にLoss(D5),Loss(D6)の損失の増加は顕著となる。この増加は新たにパワーデバイスを接続したことにより、アームの順方向電圧降下が従来の1.2vから3.4vと約2.8倍となったためである。しかし、これらアームでの導通損失の相対値は280%とならずそれ以下の値になっている。これはこのアームに流れる電流が必要最小限の電流に制御されており、従来方式と比べて低く抑えられるからである。よって提案方式は、電圧降下がもっとも大きくなるアームに流れる電流が小さく制御できるので2次側での導通損失は増加するものの、その増加を最小限に抑えられていることになる。この導通損失をさらに減少させるには、飽和電圧の低い新型パワーデバイスの採用が効果的であると思われる。特に、2次側PWM制御DC-DCコンバータのS5,S6は、ZCSで動作するためIGBTやMCTなどのMOSゲートバイポーラデバイスの採用が最適と思われる。次に、電力変換装置内で生じる全ての導通損失を計算したところ出力電圧150V制御時で約94%、出力電圧120V制御時で約77%に低減されることが確認できた。これは提案方式の導通損失低減効果が低出力時においてより顕著となることを意味する。また、試作実験において出力電力500W制御時、電力変換効率は約93%を実現している。  

 以上のことから、提案する2次側PWM制御高周波ACリンクDC-DCコンバータは、系統連系用インバータの構成要素の1つである高電圧出力形式の高周波ACリンクDC-DCコンバータの高効率化、高性能化において有効な回路トポロジー及び制御方式であるといえる。



Back   Top  Next
道平研究室TOP