3.3 ソフトスイッチング方式

 高周波化による問題点を解決する一方式としてソフトスイッチングと称される回路技術の導入が注目されている。この方式は、パワーデバイスのスイッチング時に共振現象を巧みに利用し、電圧または電流がゼロとなった状態でスイッチングを行なうものである。このため、原理的には電圧、電流の過渡交差は発生せず、スイッチング損失のない動作が行なえる。一般に電圧がゼロの状態で行なうスイッチングをZVS(Zero Voltage Switching)、電流がゼロの状態で行なうスイッチングをZCS(Zero Current Switching)と称されている。
 これらのスイッチング動作が行なわれれば、従来のように直流電源電圧を直接遮断・導通させるようなスイッチング方式(ハードスイッチング方式と称される)とは異なり、パワーデバイスで生じるスイッチング損失やストレスを抑えることが可能となる。また、di/dt、dv/dtの抑制効果もあることから、スイッチングに生じる高調波やEMIノイズなども低減できると考えられる。
 図3.3.1に比較的構成が簡単なハーフブリッジタイプのインバータを示す。(a)はハードスイッチング方式、(b)はZVS方式、そして(c)はZCS方式である。ZVS方式に接続されているC1、C2は、ロスレススナバキャパシタでスイッチング時に負荷等に含まれるインダクタ成分と共振し、ゼロ電圧状態でのスイッチング動作を実現している。ZCS方式に接続されている、L1、L2はロスレススナバインダクタで、スイッチング時に負荷等に含まれるキャパシタ成分と共振し、ゼロ電流状態でのスイッチング動作を実現している。簡単にまとめると、ZVS方式では電圧の、ZCS方式では電流のスイッチングに生じる急峻な変化を押さえることでスイッチング損失やストレス、di/dt、dv/dtを抑制しているといえる。図3.3.2にZVSを行ったときのIGBTのスイッチング過渡時の波形例を示す。この図に示すようにスイッチング時の電圧の立ち上がりは、ロスレススナバキャパシタの効果により、ハードスイッチングに比べて緩やかになる。この結果、di/dt、dv/dtや電圧サージ等が抑制される。また、テール電流との交差部で生じるスイッチング損失も低減されることが確認できる。

 次に図3.3.1に示したハーフブリッジインバータのハードスイッチング方式、ZVS方式によって得られたターンオフ時の電圧・電流(上)とスイッチング損失(下)の実測波形を図3.3.3に示す。電圧・電流波形とスイッチング損失波形を比較しやすくするため、時間軸のスケールは同じとした。この図を見てもわかるように、ソフトスイッチングを適用することにより、EMI/RFIノイズの原因となる高いdi/dt、dv/dt、電圧、電流サージが抑制されていることが確認できる。また、スイッチング損失についてもソフトスイッチング適用時にはかなり低減されることがわかる。よって、電力変換器内のスイッチングにソフトスイッチングを適用することは、ノイズ、スイッチング損失ともに大きく低減できると考えられる。



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