第1章 緒論
一般に、周波数解析には、周波数の高分解性やFFT(高速フーリエ変換)による短時間処理が可能であることから、フーリエ変換が広く用いられている。しかしながら、フーリエ変換の基底に使われる指数関数e-jωxは、時間領域で無限の広がりを持つため信号の時間情報が失われる。このようなことから、フーリエ変換は定常的な周波数分布などの解析には有効であるが、現象の生起時間や生起頻度(継続時間)といった周波数の瞬時値解析を行なうことは困難となる。そこで、近年、フーリエ変換とは異なり、現象を時間と周波数の両面から捉えることが可能なウェーブレット変換を用いた時間周波数解析が注目されている。これは、時間経過とともに現象が変化するような時系列データの解析に適しており、現在では様々な分野において応用がなされ、有効な成果が多く報告されている。
一方、パワーエレクトロニクス分野では、電力変換装置の高効率化、高性能化、小型・軽量化を目的として、家電機器から電力機器、情報・通信機器といった広い応用分野に対して様々な研究が行なわれてきた。近年では、電磁環境問題もクローズアップされてきており、パワーエレクトロニクス機器が発する高調波やEMIノイズへの配慮も重要となってきている。このようなことから、高調波対策の新たな知見を得るためには、フーリエ変換による電力変換装置全体の定常的な周波数分布の解析だけを行なうのではなく、スイッチング時の過渡的な現象や変換回路の相互間での影響など、詳細な周波数解析を行なうことが必要となる。
そこで、本レポートでは複数の変換回路から構成される高周波ACリンク電力変換装置を例にあげ、その実測波形に対してウェーブレット変換を用いた時間周波数解析を行なう。そして得られた結果を元にウェーブレット変換のパワーエレクトロニクス分野への応用やその有効性について述べる。