研究内容


 近年の電力需要の増大は著しく、昼間の電力ピークも年々上昇していく傾向にある。これは、我が国における産業の発展、そして一般家庭での電気機器利用増加に伴うものであり、この傾向はさらに強まっていくものと考えられる。このような電力需要の増大に対しても今後、電力の安定供給を行っていくためには、新たな電力供給源の確保が必要となる。  この対策として、大規模な発電システムの開発が考えられる。しかしながら、国土も狭く、経済、人口の都市集中から地価も高騰した我が国の現状を考えると新たな発電システムの建設用地及び長距離送電線用地の確保が困難となってきており、その実現は難しいものになってきている。そこで近年になって小規模ではあるが需要地近傍に設置が可能な系統連系分散型電源システムの導入が検討されている。このシステムは、建設工期が短く電力需要増に即応性があるという優れた特徴があり、長距離送電線も不要なことからその実現が大いに期待されている。特に、太陽光発電、風力発電、燃料電池発電、熱電発電といったクリーンな新エネルギーや未利用熱を利用する系統連系分散型電源システムは、地球規模的な保全などの課題を背景に注目を浴びている。実際にこのシステムから得られた電力を効率よく、安全に運用するためには、新エネルギー源と系統・負荷間のインターフェースとなる電力変換装置が不可欠である。このことから、電力変換回路方式及び制御方式の関するパワーエレクトロニクス分野の研究は、システムの実用化に向けての要素技術としてだけでなく、運用・制御を含めたトータルシステムとしても重要なポイントを占めていると言える。  近年のパワーエレクトロニクスの分野は、半導体技術の進歩に伴って電力用半導体デバイス/モジュール(以下、本研究ではパワーデバイスと略記する)の電力容量、スイッチング速度などの基本性能が飛躍的に向上したことにより主回路的にも制御回路的にも大きな発展を遂げている。主回路的には電力変換装置の高周波化が可能となり小型・軽量化が、制御回路的にはマイクロプロセッサやディジタルシグナルプロセッサ、A/D、D/A変換器などの周辺機器の高性能化によりDDC(Direct Digital Control)が推進された。その結果、現代制御理論の導入がなされ電力変換装置の高機能化やメンテナンスフリー化と言った実際応用上の大きなメリットを生むようになってきた。しかしながら、高周波化による高機能化、小型・軽量化がなされた一方で、スイッチング過渡時に生じる問題点がクローズアップされてきた。  スイッチング過渡時の問題点は、スイッチング時に伴う電圧サージ・電流サージによるスイッチングストレスの増大やスイッチング損失の増加である。これらは、システムの電力変換効率と信頼性に大きく影響する。また、最近では電磁環境保全に対する配慮が重要視されてきており、高周波化によって増加するEMI/RFI(Electro Magnetic Interference / Radio Frequency Interference)ノイズの抑制も強く要望されている。従って、電力変換装置の高周波化と同時に高効率化、電圧・電流サージの抑制、低EMI/RFIノイズ化が実現できるような電力変換方式の研究開発が重要となってくる。  従来の電力変換装置のスイッチング方式は、パワーデバイスによって電気エネルギーを強制的にオン・オフするため、スイッチング損失、サージそしてノイズの発生は原理的にさけられない。そこで近年、ソフトスイッチング方式と称される新しいスイッチング方式が提案された。この方式は、共振現象を巧みに利用しパワーデバイスの電圧または電流がゼロの状態でスイッチングを行うため、原理的にはスイッチング損失やサージを発生しないという特徴があり、現在では、ソフトスイッチング方式の高周波電力変換装置に関する様々な研究開発が活発に行われている。  一方、系統保護の面から考えると系統連系用インバータに用いられる電力変換装置は、新エネルギー源と系統・負荷間に絶縁が行える構成となっていなければならない。これは系統・負荷側の直流成分(零相電流)が新エネルギー側へ流入すること防止するためである。従来は、商用トランスによる絶縁方式が一般的であったが、電力変換装置の小型化・軽量化が望まれている現在、それに変わる方式としてトランスレス方式、高周波トランス絶縁方式が注目されている。トランスレス方式は新エネルギー源と系統が直接接続されるため小型・軽量化、低コスト化に有利であるが、零相電流に対する安定性は低く、これを抑制する新たな技術が必要となる。これに対して高周波トランス絶縁方式は高周波インバータ-高周波トランス-電力変換回路と接続される回路構成となるが、新エネルギー源と系統が直接接続されないため安全性も高く、高周波化による小型・軽量化のメリットも得られる。この回路構成は、1971年にW.McMurrayによって提案されたもので、現在では一般的に高周波ACリンク回路と称されている。  高周波ACリンク回路は、共振タンク回路を有しており原理的にはソフトスイッチングが可能で、高効率かつ低ノイズの電力変換が行われる。これらの特徴から、太陽光発電用系統連系システム等の研究がNASAやアメリカの大学を中心とする研究グループによって行われ始めた。また、高周波ACリンク回路は配電から、給電、そして直流、単相交流、三相交流が混在する電力変換装置が柔軟に構成され得るという利点があるため、航空機や人工衛星、宇宙ステーション用の高周波配電網の確立を目的とした研究も行われるようになってきた。このように、高周波ACリンク回路は多くの利点を有しており、現在では電力応用から家電民生応用まで広い応用範囲において様々な検討がなされている。  しかしながら、高周波ACリンク回路のソフトスイッチング動作は共振タンク回路を接続することにより行っているため、共振タンク回路が受ける負荷の影響を考慮して設計を行わなければ確実なソフトスイッチング動作は行われなくなる。これを考慮して設計を行った場合、共振タンク回路に流れる共振電流は負荷電流より高いものとなる。その結果、共振電流により生じる導通損失が増加し、また、パワーデバイスに流れる電流ピークストレスも高くなるという問題を生じる。さらに共振タンク回路を用いたソフトスイッチング動作には特有の循環電流が流れる。この循環電流はパワーデバイスや高周波トランスを介して流れるため、さらに導通損失を生じることになる。よって、ソフトスイッチング動作によりスイッチング損失の低減はなされるが、導通損失が増加するため電力変換効率の向上はあまり望めないことになる。これらのことから、電圧・電流サージ、EMI/RFIノイズの抑制といったソフトスイッチング方式の特徴をそのままに、さらなる電力変換効率の向上を図るためには共振電流、循環電流を低減させることが重要となり、これを満足できる新たな提案が必要となってくる。  そこで我々は、この問題を解決できる新しい制御方法として2次側位相シフトPWM制御を提案している。提案する制御方式は、共振タンク回路が負荷の影響を受けず、小さな共振電流だけで確実にソフトスイッチングが実現できる。また、循環電流の処理を2次側のパワーデバイスだけで処理できるため、電力変換システム全体の導通損失も低減させることができる。2次側位相シフトPWM制御の基本動作及び本方式を適用した場合の電力変換装置の特徴、評価については、本文中で詳しく述べていく。本研究では、高周波ACリンク電力変換装置の系統連系用インバータへの応用を前提としており、出力に要求される電力形態の一つである直流に応じた電力変換装置、すなわち高周波ACリンクDC-DCコンバータについて、系統モデルの組み込んである汎用の電力系統用解析ソフトATP(Alternative Transients Program)を用いて2次側位相シフトPWM制御を適用した場合の動作解析と特性評価及び制御回路を含めた試作実験を行っている。さらに、近年では、電磁環境問題もクローズアップされてきており、パワーエレクトロニクス機器が発する高調波やEMIノイズへの配慮も重要となってきている。このようなことから、高調波対策の新たな知見を得るためには、フーリエ変換による電力変換装置全体の定常的な周波数分布の解析だけを行なうのではなく、スイッチング時の過渡的な現象や変換回路の相互間での影響など、詳細な周波数解析を行なうことが必要となる。そこで、我々は複数の変換回路から構成される高周波ACリンク電力変換装置を例にあげ、その実測波形に対してウェーブレット変換を用いた時間周波数解析を行なう。そして得られた結果を元にウェーブレット変換のパワーエレクトロニクス分野への応用やその有効性について述べる。  このように本研究では、スイッチング過渡時に生じる諸問題を解決するための一方式であるソフトスイッチング方式を導入した高周波ACリンク電力変換装置に対して、ソフトスイッチングのメリットをさらに引き出せる新しい制御方式の提案とその評価に関するものであり、将来期待されている新エネルギー利用系統連系分散型電源システムの実用化とその発展に寄与するものと思われる。  尚、実際に高周波ACリンクDC-DCコンバータを制作した場合には、素子や配線のレイアウトによりシミュレーションでは考慮されなかった浮遊電界や浮遊磁界の存在により、動作に影響がでたり、EMIノイズなどの抑制も見積もり通り達成されないこともあり得る。これらの問題については、今後、高周波ACリンクDC-DCコンバータを試作実験を行っていく過程で解決するよう努めなければならないことを注記しておく。




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