【 2019 年度 授業概要】
科   目 応用物理U ( Applied Physics II )
担当教員 九鬼 導隆 教授
対象学年等 応用化学科・4年・後期・選択・1単位 ( 学修単位III )
学習・教育
目標
A2(100%)
授業の概要
と方針
化学では原子や分子等の微視的な系や,微視的な系と温度や圧力・体積等の巨視的な系の関連を理解する必要がある.そこで本講義では,まずは現代物理を学ぶ際の基礎であり,ニュートン力学を数学的に整備することで登場した解析力学を講義し,続いて,微視的な系と巨視的な系をつなぐ統計熱力学の基礎を講義する.次に,微視的な系を理解するためには必須の量子力学の基礎と原子への応用を講義する.



1 【A2】 ラグランジュ形式,ハミルトンの正準変換形式の理論を理解し,力学系に適応できる.
2 【A2】 熱力学や統計力学の基本原理を理解し,微視的な物理量と巨視的な物理量を関連づけることができる.
3 【A2】 波動現象と波動方程式を理解し,波動の基本的性質,重ね合わせや干渉が説明できる.
4 【A2】 黒体輻射と比熱理論,光電効果と電子線回折,ボーアの模型等から,古典物理学の限界,エネルギーが離散的であること,波動と粒子の二重性等について説明できる.
5 【A2】 ハイゼンベルクの不確定性原理,ボルンの確率解釈,シュレディンガー方程式の解の性質や境界条件とエネルギーの関係を定性的に説明できる.
6 【A2】 量子力学で基本的な系の厳密解が求められる.
7 【A2】 水素型原子の主量子数,方位量子数,磁気量子数の意味,量子数と波動関数の節の数との関係等を理解し,水素型原子の原子軌道の概形が描ける.
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1 主に後期中間試験とレポートで,基本的な力学系に解析力学の手法を適応し,力学系の運動が解けるかどうかで評価する.
2 主に後期中間試験とレポートで,熱力学や統計力学の基本原理を説明させ,的確に説明できるかどうか,あるいは,微視的な物理量から巨視的な物理量が導出できるかどうかで評価する.
3 主に後期中試験とレポートで,波動方程式を求めたり解いたりすることができるかどうかや,波動方程式の解の性質が波動方程式から説明できるかどうかで評価する.
4 主に後期定期試験とレポートで,黒体輻射や比熱理論,光電効果,ボーアの模型等を説明させ,古典物理学の限界,エネルギーが離散的であること,波動と粒子の二重性等について的確に説明できるかどうかで評価する.
5 主に後期定期試験とレポートで,不確定性原理やボルンの確率解釈,シュレディンガー方程式の解の性質等を説明させ,的確に説明できるかどうかで評価する.
6 主に後期定期試験とレポートで,与えられた基本的な系の厳密解が求められるかどうかで評価する.
7 主に後期定期試験とレポートで,水素型原子中の電子の軌道について説明させ,量子数の意味が的確に説明でき,かつ,電子の軌道の形が描けるかどうかで評価する.
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成績は,試験90% レポート10% として評価する.中間・定期試験の単純平均を試験成績とする.総合成績で100点満点中60点以上を合格とする.
テキスト 「量子力学入門ノート」:九鬼導隆 著(神戸高専生協)
「物理化学要論(第6版)」:P. W. Atkins・J. de Paula 著/千原秀明・稲葉章 訳(東京化学同人)
参考書 「物理の考え方1 力学の考え方」:砂川 重信(岩波書店)
「物理の考え方3 熱・統計力学の考え方」:砂川 重信(岩波書店)
「物理の考え方4 量子力学の考え方」:砂川 重信(岩波書店)
「初等量子力学(改訂版)」:原島 鮮(裳華房)
「アトキンス物理化学 第10版 上・下巻」:P. W. Atkins・J. de Paula 著/中野・上田・奥村・北河 訳(東京化学同人)
関連科目 1〜3年までの物理学・数学,4年生の応用数学I・II,確率統計,応用物理I
履修上の
注意事項
統計力学や量子力学といった数理物理学の花形とも言える分野の基礎を学習するので,当然,基礎的な物理学とその基礎となる数学に精通していることが望ましい.1〜3年までの物理学や数学のみならず,同時進行で学習する応用数学I・IIや確率統計,応用物理Iの内容も必要となるので,これらの科目を十分に理解しておくことが望ましい.また,本講義の後期後半は,同時進行の応用物理Iの後期後半の内容を前提にさらに掘り下げた内容になっているので,関連を十分念頭に置いて受講すること.

【授業計画( 応用物理U )】
上段:テーマ/下段:内容(目標、準備など)
1 解析力学:ラグランジュ形式
ニュートン力学を座標に依存しない形で数学的に整理すべく,実際に起こる力学的運動は,作用積分が最小値をとるというハミルトンの原理から,ラグランジアンを定義してハミルトンの原理を適応し,ラグランジュ形式の運動方程式を導く.また,ラグランジュ形式の運動方程式がニュートンの運動方程式と等価であることも示す.
2 解析力学:ハミルトンの正準変換形式とポアソンの括弧
正準運動量を定義し,正準運動量と位置を基本的な独立変数と見なして,ラグランジアンよりハミルトニアンを定義する.ハミルトニアンの全微分より,ハミルトンの正準方程式を導き,ハミルトンの正準方程式がニュートンの運動方程式と等価であることも示す.また,物理量の時間発展を記述するポアソンの括弧も紹介する.
3 熱力学の復習
熱力学の諸概念やギブズの自由エネルギーについて復習する.
4 統計力学の視点からのエントロピーの意味
エントロピーを確率論から解釈し直す.エントロピー増大の法則を確率論からとらえ,巨視的には同じ状態となる微視的な状態の場合の数がエントロピーであることを示し,エントロピー増大の法則が巨視的状態の実現確率の問題であることを示す.
5 ミクロ正準集団の統計力学
ミクロ正準集団の統計力学を解説する.エネルギーが離散的な系で,エントロピー増大の法則(微視的な場合の数が最大になる巨視的な状態が実現される)からミクロ正準集団での分配関数等を導き,ボルツマン分布等についても講義する.また,微視的なエネルギー状態と巨視的な物理量との関係等も説明する.
6 波動現象と波動方程式
弦の振動を例に,波動方程式を導出し,波動方程式の解・波動関数を求める.
7 波動関数の性質と波動方程式
波動方程式の解である波動関数の性質について解説し,また,波動関数の定数倍や線形結合が波動方程式の解となっていることを示し,波動の重ね合わせや干渉について解説する.
8 中間試験
1〜7回の内容に関する試験
9 アインシュタインの比熱理論,中間試験の解答・解説
固体の比熱におけるデュロン-プティの法則と現実とのズレやアインシュタインの比熱理論を解説し,プランクの量子仮説の発見過程とエネルギーが離散的であることの意味を講義する.また,中間試験の解説も行う.
10 前期量子論(ボーアの模型)
ラザフォード型原子模型と,ボーアの量子条件を用いて,水素型原子の中の電子のエネルギーを計算し,水素型原子のスペクトルが輝線となることや,水素原子のスペクトル系列(バルマー系列やライマン系列等)が説明できることを解説する.
11 量子力学の一般原理(重ね合わせの原理と状態ベクトル)
非定常状態と定常状態のシュレディンガー方程式と状態ベクトル等について解説する.注目している物理系が,定常状態のシュレディンガー方程式の解が形成するヒルベルト空間内で状態ベクトルとして記述され,物理系の時間発展が,非定常状態のシュレディンガー方程式より,状態ベクトルの運動として記述できる事を解説する.
12 波動関数の性質
シュレディンガー方程式の解である波動関数の性質(一価・有界・連続)を解説し,特に波動関数の連続条件(境界条件)からエネルギーが離散的になることを講義する.
13 一次元有界の井戸型ポテンシャル
一次元有界の井戸型ポテンシャルを用いて,波動関数の性質を利用して解を求める方法を概観し,ポテンシャルを無限大に飛ばしたときの状況についても解説する.
14 波動関数の完備性,固有値と固有関数
一次元無限大井戸型ポテンシャルの波動関数を例にして,物理量演算子の固有値と固有関数が物理量と波動関数であることを示し,さらに,波動関数の規格化と直交性,完全性の仮定より,波動関数が完備性を持ち,線形空間を張る基底ベクトルとなることを解説する.
15 回転運動(円環上の粒子)の厳密解,定期試験の解答・解説
量子力学の基本でありかつ近似法等の応用の基本となる厳密に解ける系について解説する.2次元極座標系での回転運動について,厳密解を求め,回転運動の特徴と磁気量子数について講義する.また,定期試験の解説も行う.


本科目の修得には,30 時間の授業の受講と 15 時間の自己学習が必要である. 後期中間試験および後期定期試験を実施する.