【 2013 年度 授業概要】
科   目 応用物理II ( Applied Physics II )
担当教員 九鬼 導隆 教授
対象学年等 応用化学科・4年・通年・必修・2単位 ( 学修単位III )
学習・
教育目標
A2(100%)
JABEE
基準1(1)
(c),(d)1
授業の概要
と方針
化学では原子や分子等の微視的な系や,微視的な系と巨視的な系の関連を理解する必要がある.そこで,本講義では,3年生の応用物理Iの続きである,二体問題系の力学や回転運動,解析力学を講義し,続いて,微視的な系と巨視的な系をつなぐ統計熱力学の基礎を講義する.次に,微視的な系を理解するのに必須の量子力学の基礎と原子への応用を講義する.



1 【A2】 運動量保存則,重心系の運動と相対運動等の基本的な概念を理解し,粒子の衝突等の基本的な2体問題を解くことができ,また,運動量等の物理量や衝突後の粒子の軌道等が計算できる.
2 【A2】 慣性モーメントや角運動量保存則等の基本的な概念を理解して,中心力場における質点の運動について,基本的な力学問題を解くことができ,また,角運動量やエネルギー等の物理量が計算できる.
3 【A2】 ラグランジュ形式,ハミルトンの正準変換形式の理論を理解し,力学系に適応できる.
4 【A2】 熱力学や統計力学の基本原理を理解し,微視的な物理量と巨視的な物理量を関連づけることができる.
5 【A2】 波動現象と波動方程式を理解し,波動の基本的性質,重ね合わせや干渉が説明できる.
6 【A2】 黒体輻射と比熱理論,光電効果と電子線回折,ボーアの模型等から,古典物理学の限界,エネルギーが離散的であること,波動と粒子の二重性等について説明できる.
7 【A2】 ハイゼンベルクの不確定性原理,ボルンの確率解釈,シュレディンガー方程式の解の性質や境界条件とエネルギーの関係を定性的に説明できる.
8 【A2】 基本的な系の厳密解が求められる.
9 【A2】 水素型原子の主量子数,方位量子数,磁気量子数の意味,量子数と波動関数の節の数との関係等を理解し,水素型原子の原子軌道の概形が描ける.
10 【A2】 パウリの排他律,軌道近似等の概念を理解する.












1 前期中間試験で,基本的な2体問題が解けるかどうか,また,質点の軌道や運動量等が計算できるかどうかで評価する.
2 前期中間試験で,中心力場における基本的な2体問題が解けるかどうか,また,慣性モーメントや角運動量等が計算できるかどうかで評価する.
3 前期定期試験で,基本的な力学系に解析力学の手法を適応し,力学系の運動が解けるかどうかで評価する.
4 前期定期試験で,熱力学や統計力学の基本原理を説明させ,的確に説明できるかどうか,あるいは,微視的な物理量から巨視的な物理量が導出できるかどうかで評価する.
5 後期中間試験で,波動方程式を求めたり解いたりすることができるかどうかや,波動方程式の解の性質が波動方程式から説明できるかどうかで評価する.
6 後期中間試験で,黒体輻射,比熱理論,光電効果,電子線回折,ボーアの模型等を説明させ,古典物理学の限界,エネルギーが離散的であること,波動と粒子の二重性等について的確に説明できるかどうかで評価する.
7 後期中間試験で,不確定性原理やボルンの確率解釈,シュレディンガー方程式の解の性質等を説明させ,的確に説明できるかどうかで評価する.
8 後期定期試験で,与えられた基本的な系の厳密解が求められるかどうかで評価する.
9 後期定期試験で,水素型原子中の電子の軌道について説明させ,量子数の意味が的確に説明できかつ電子の軌道の形が描けるかどうかで評価する.
10 後期定期試験で,パウリの排他律,軌道近似の意味等について説明させ,的確に説明できるかどうかで評価する.




成績は,試験100% として評価する.「評価方法と基準」にある,1〜2を前期中間試験で,3〜4を前期定期試験で,5〜7を後期中間試験で,8〜10を後期定期試験で評価し,それぞれの試験を25%として4回の試験の合計100点満点中60点以上を合格とする.
テキスト 「裳華房テキストシリーズ - 物理学 力学」:川村 清著・阿部 龍蔵・川村 清監修(裳華房)
「量子物理化学入門」:寺坂 利孝・森 聖治(三共出版)
「物理化学要論」:P. W. Atkins著/千原秀明・稲葉章 訳(東京化学同人)
参考書 「物理の考え方3 熱・統計力学の考え方」:砂川 重信(岩波書店)
「物理の考え方4 量子力学の考え方」:砂川 重信(岩波書店)
「初等量子化学 第2版」:大岩正芳(東京化学同人)
「アトキンス物理化学 第6版(上・下)」:P. W. Atkins(東京化学同人)
「物理化学 -分子論的アプローチ-(上・下)」:D. A. McQuarrie, J. D. Simon(東京化学同人)
関連科目 1〜3年までの物理学・数学,3年生の応用物理I,4年生の応用数学I・II,確率統計
履修上の
注意事項
統計力学や量子力学といった,数理物理学の花形とも言える分野の基礎を学習するので,当然,基礎的な物理学とその基礎となる数学に精通していることが望ましい.1〜3年までの物理学や数学のみならず,同時進行で学習する応用数学や確率統計の内容も必要となってくる.これらの科目を復習したり,良く学習しておくことが望ましい.

【授業計画( 応用物理II )】
上段:テーマ/下段:内容(目標、準備など)
1 応用物理IIの全般的な説明と諸注意.3年生の応用物理I後期の復習
本講義で教授する内容の全般的な概説と受講時の諸注意を行い,続いて,本講義の基礎となる3年生の応用物理I後期で学んだ内容(1体問題の力学系)に関する簡単な復習を行う.
2 運動量保存則
互いに力を及ぼしあって運動する質点系の運動方程式について説明し,運動量,運動量保存則について解説する.
3 衝突の問題
運動量保存則を応用し,基本的な衝突問題を解説する.また,弾性係数や力積,エネルギー保存則についても解説する.
4 重心系の運動と相対運動
2体問題での運動を重心系の運動と相対運動に分離し,運動量保存則が成り立つ場合や外力が働いている場合等,力学系がどう記述できるかを解説し,運動エネルギーと重心系の運動・相対運動がどういう関係にあるかを説明する.
5 中心力場における2体問題
惑星の運動よりケプラーの法則と万有引力等を説明し,角運動量や角運動量保存則等について解説する.
6 万有引力によるポテンシャルエネルギー,動径運動と角運動のエネルギー
万有引力によるポテンシャルエネルギーを説明し,エネルギー保存則を極座標で書き直して,各エネルギー項,動径運動による運動エネルギー,角運動による角運動エネルギー,中心力場のポテンシャルエネルギーを解説する.
7 慣性モーメント
簡単な系で慣性モーメントを説明し,質量と運動量や運動エネルギーの関係と対比させながら,角運動量や角運動のエネルギーと慣性モーメントの関係を解説する.
8 中間試験
中間試験
9 解析力学:ラグランジュ形式
ニュートン力学を座標に依存しない形で数学的に整理すべく,実際に起こる力学的運動は,作用積分が最小値をとるというハミルトンの原理から,ラグランジアンを定義してハミルトンの原理を適応し,ラグランジュ形式の運動方程式を導く.また,ラグランジュ形式の運動方程式がニュートンの運動方程式と等価であることも示す.
10 ハミルトンの正準変換形式
正準運動量を定義し,正準運動量と位置を基本的な独立変数と見なして,ラグランジアンよりハミルトニアンを定義する.ハミルトニアンの全微分より,ハミルトンの正準方程式を導き,ハミルトンの正準方程式がニュートンの運動方程式と等価であることも示す.
11 ハミルトンの正準変換形式とポアソンの括弧
正準変換について簡単に触れ,物理量の時間発展を記述するポアソンの括弧も紹介する.
12 熱力学の復習
熱力学の諸概念やギブズの自由エネルギーについて復習する.
13 統計力学:エントロピーの意味
エントロピーを確率論から解釈し直す.エントロピー増大の法則を確率論からとらえ,巨視的には同じ状態となる微視的な状態の場合の数がエントロピーであることを示し,エントロピー増大の法則が巨視的状態の実現確率の問題であることを示す.
14 ミクロ正準集団の統計力学
ミクロ正準集団の統計力学を解説する.エネルギーが離散的な系で,エントロピー増大の法則(微視的な場合の数が最大になる巨視的な状態が実現される)からミクロ正準集団での分配関数等を導き,ボルツマン分布等についても講義する.
15 統計力学の応用
微視的なエネルギー状態と巨視的な物理量との関係を説明する.また,簡単な系について,分配関数から巨視的な物理量等を計算する.
16 波動現象と波動方程式
弦の振動を例に,波動方程式を導出し,波動方程式の解・波動関数を求める.
17 波動関数の性質と波動方程式
波動方程式の解である波動関数の性質について解説し,また,波動関数の定数倍や線形結合が波動方程式の解となっていることを示し,波動の重ね合わせや干渉について解説する.
18 古典物理学の破綻
19世紀末から20世紀初頭にかけての物理学界の状況を概観する.いわゆるエーテル問題と黒体輻射から,相対論と量子論が誕生した歴史的経緯を,簡単に説明する.
19 黒体輻射とアインシュタインの比熱理論
黒体輻射におけるレイリー-ジーンズの法則と紫外部の破綻およびプランクの輻射式について解説し,プランクの量子仮説の発見過程およびその意味を講義する.また,固体の比熱におけるデュロン-プティの法則と現実とのズレ,アインシュタインの比熱理論を解説し,エネルギーが離散的であることの意味を講義する.
20 光電効果・電子線回折
光電効果の実験とアインシュタインの解釈を解説し,電磁波(波動)が光子(粒子)としての性質を持つことを,また,電子線回折の実験より,電子(粒子)が波動としての性質を持つこととド・ブロイの物質波について解説し,波動と粒子の二重性について講義する.
21 ド・ブロイ波とボルンの確率解釈,不確定性原理
電子線回折等の実験より,ド・ブロイ波が確率振幅であることを示し,ボルンの確率解釈について解説する.さらに,ド・ブロイ波と粒子の運動量の関係,波動関数が確率振幅であることからハイゼンベルクの不確定性原理を解説する.
22 前期量子論(ボーアの模型)
ラザフォード型原子模型と,ボーアの量子条件を用いて,水素型原子の中の電子のエネルギーを計算し,水素型原子のスペクトルが輝線となることや,水素原子のスペクトル系列(バルマー系列やライマン系列等)が説明できることを解説する.
23 中間試験
中間試験
24 微視的な系の力学
フェルマーの定理から導出される幾何光学のアイコナール方程式と,ハミルトンの原理から導出される解析力学のハミルトン-ヤコビの方程式が酷似していること,波長が0の極限で,波動光学から幾何光学へ移行できること等から,古典力学に対応する波動力学とも言えるべき理論体系が示唆されることを簡単に説明する.
25 シュレディンガー方程式
シュレディンガー方程式の特徴とその解である波動関数の性質(一価・有界・連続)を解説し,特に波動関数の連続条件(境界条件)からエネルギーが離散的になることを講義する.
26 一次元井戸型ポテンシャルの厳密解
量子力学の基本でありかつ近似法等の応用の基本となる厳密に解ける系について解説する.1次元の井戸型ポテンシャルに拘束された粒子を解説し,また,一次元無限大井戸型ポテンシャルの応用例として,直鎖共役系分子の共役系の長と主吸収帯の極大波長が比例することを説明できることを示す.
27 波動関数の完備性,固有値と固有関数
一次元無限大井戸型ポテンシャルの波動関数を例にして,物理量演算子の固有値と固有関数が物理量と波動関数であることを示し,さらに,波動関数の規格化と直交性,完全性の仮定より,波動関数が完備性を持ち,線形空間を張る基底ベクトルとなることを解説する.
28 回転運動(円環上の粒子)の厳密解
量子力学の基本でありかつ近似法等の応用の基本となる厳密に解ける系について解説する.2次元極座標系での回転運動について,厳密解を求め,回転運動の特徴と磁気量子数について講義する
29 水素類似原子の構造:量子数と原子軌道のエネルギー・形
中心力場に拘束された粒子を取り上げ,その解法を定性的に説明し,主量子数,方位量子数,磁気量子数とその意味について解説する.また,これらの量子数の組み合わせと,水素型原子の電子の軌道の種類や特徴について解説し,量子数と電子の存在確率の節・節面の数の関係から,各軌道の形が予測できることを示す.
30 電子スピン,軌道近似
同一粒子が区別できないこと,そのためフェルミ粒子にパウリの排他律が存在することを示し,スピン量子数についても解説する.また,多電子原子や分子の中の電子について議論するときに良く用いられる軌道近似について簡単に解説する.


本科目の修得には,60 時間の授業の受講と 30 時間の自己学習が必要である. 前期,後期ともに中間試験および定期試験を実施する.