【 2011 年度 授業概要】
科   目 物理化学II ( Physical Chemistry II )
担当教員 (前期)渡辺 昭敬 准教授,(後期)松本 剛昭 非常勤講師
対象学年等 応用化学科・5年・通年・必修・2単位 ( 学修単位III )
学習・
教育目標
A4-C3(100%)
JABEE
基準1(1)
(d)1,(d)2-a,(d)2-d,(g)
授業の概要
と方針
4年生の物理化学で学習した原子構造論に引き続き,分子構造論を講義し,一通りの量子化学入門を行う.次に,固体や液体などの凝縮系の物理化学,分子分光学を講義し,現代物理化学の基礎を習得する.



1 【A4-C3】 変分法の原理,分子の形成や分子軌道についての基本的な概念を理解する.
2 【A4-C3】 等核2原子分子の分子軌道についてエネルギーダイヤグラムが書け,電子構造より結合次数が計算できる.
3 【A4-C3】 ヒュッケル法等の分子軌道法の仕組みを理解する.
4 【A4-C3】 固体のバンド理論が定性的に理解でき,導体,半導体,絶縁体とバンド構造の関係が理解できる.
5 【A4-C3】 固体の凝集力を,格子エンタルピーやマーデルング定数を通して理解する.
6 【A4-C3】 電気双極子や,電気双極子の相互作用の観点から,分子性物質の凝集力を理解する.
7 【A4-C3】 分子分光法に関する基礎的事項を理解する.
8 【A4-C3】 スペクトルの基本原理を理解し,スペクトルから分子定数を導出できる.
9  
10  












1 中間試験で,変分原理,分子を扱う際の種々の近似,分子軌道について説明させ,的確に説明できるかどうかで評価する.
2 中間試験で,2原子分子のエネルギーダイヤグラムを描き,結合次数等が計算できるかどうかで評価する.
3 定期試験で,ヒュッケル法等の分子軌道法について,近似の扱い等が的確に説明できるかどうかで評価する.
4 定期試験で,導体,半導体,絶縁体とバンド構造の関係が的確に説明できるかどうかで評価する.
5 定期試験で,ボルン-ハーバーサイクルと格子エンタルピー,マーデルング定数等が的確に説明できるかどうかで評価する.
6 中間試験で,電気双極子間の相互作用や,分子性物質の全相互作用について的確に説明できるかどうかで評価する.
7 中間試験で,ボーアの振動数条件と発光,吸収の関係などの分光学の基礎的事項を説明できるかどうか,評価する.
8 中間および定期試験で,実際のスペクトルデータを用いて分子定数を求めることができるか評価する
9  
10  




成績は,試験100% として評価する.「評価方法と基準」にある,1〜2を前期中間試験で,3〜5を前期定期試験で,6〜7を後期中間試験で,8を後期定期試験で評価し,それぞれの試験を25%として4回の試験の合計100点満点のうち,60点以上を合格とする.
テキスト 「物理化学要論」:P. W. Atkins著,千原秀明・稲葉章 訳(東京化学同人)
「量子物理化学入門」:寺坂 利孝・森 聖治(三共出版)
参考書 「初等量子化学 第2版」: 大岩正芳 (東京化学同人)
「アトキンス物理化学(上・下)」: P. W. Atkins著・千原秀昭 他 訳(東京化学同人)
「Molecular Spectrum and Molecular Structure」: G. Herzberg (KLIGER)
関連科目 1〜3年の数学・物理,3〜4年の応用物理I・II,4年生の応用数学I・II・物理化学I
履修上の
注意事項
1〜3年までの数学・物理を良く理解しておくことが望ましい.また,3〜4年の応用物理I・II,4年生の応用数学I・II・物理化学Iの内容をしっかりと理解しておくことが望ましい.

【授業計画( 物理化学II )】
上段:テーマ/下段:内容(目標、準備など)
1 分子の電子状態: 核の運動の分離,軌道近似
多核・多電子系のハミルトニアンに,ボルン-オッペンハイマー近似を用いて核の運動を分離し,多電子系のハミルトニアンへと移行できることを示す.さらに,多電子系のハミルトニアンが,電子-電子の相互作用のため,変数分離できないことを示し,軌道近似を用いることを解説する.
2 原子価結合法と分子軌道法
分子の中の電子の状態を方法として,原子価結合法と分子軌道法の特徴や限界について解説する.
3 分子軌道法:水素分子イオンの形成
近似問題の基本となる変分法について解説してからLCAO近似を導入し,分子軌道法を用いて,一番簡単な系である水素イオン分子が形成し,分子軌道が結合性軌道と反結合性軌道に分離することを解説する.
4 等核二原子分子
分子軌道法を用いて,等核二原子分子の電子構造について解説し,等核二原子分子の分子軌道の様子と電子構造から,幾つかの化学的性質が説明できることを示す.
5 異核二原子分子
等核二原子分子に続き,異核二原子分子の電子構造,イオン性と共有性について簡単に解説する.
6 他原子分子のエネルギー
他原子分子の中の電子のエネルギーがどう表されるか計算する.
7 ヒュッケル法
電子-電子の相互作用を一電子ポテンシャルと近似するヒュッケル法について解説する.一電子ハミルトニアを用いた場合の分子のエネルギーやその軌道エネルギーとの関係を示し,さらに,隣接原子以外で重なり積分と共鳴積分を無視して,LCAO係数を求め,分子のエネルギー状態等について講義する.
8 中間試験
中間試験
9 共役系の電子状態:ブタジエン
ヒュッケル法をもとにブタジエンの電子状態,物性等を解説する.
10 共役系の電子状態:ベンゼン
ヒュッケル法をもとにベンゼンの電子状態,物性等を解説する.
11 種々の近似法
ハートリー-フォック方程式とPPP,CNDO,MINDO等の近似法やab initio計算を簡単に説明するとともに,ハートリー-フォック近似の限界を超えるべく開発された,MP展開やCI法について簡単に解説する.
12 金属とイオン性固体・バンド構造
分子軌道法の概念を固体の化学結合系に適応し,固体ではバンド構造ができることを示し,バンドエネルギーやバンドギャップ,導体,半導体,絶縁体をバンド構造から解説する.
13 バンド構造
アルカリ金属,アルカリ土類金属,遷移金属,半導体,絶縁体で,原子軌道からどのように各バンドが形成されるかを解説する.
14 格子エンタルピー
固体の凝集力として格子エンタルピーを示し,ボルン-ハーバーサイクルより格子エンタルピーを解説する.
15 イオン性結晶とマーデルング定数
イオン性結晶の凝縮力はクーロン相互作用が主であることを示し,結晶格子上にあるそれぞれのイオンのクーロン相互作用の和が,結晶格子の構造で決まるマーデルング定数で簡潔に表されることを解説する.
16 分子性の物質:電気双極子
分子性物質の凝集力の主な原因となる電気双極子を定義し,電気双極子間の相互作用の大きさについて解説する.
17 永久・誘起双極子モーメント
電気双極子の形成として,永久双極子と誘起双極子を示し,分子を極性分子と非極性分子に分類する.次に,誘電率と分極率を解説し,極性分子,非極性分子,それぞれのまたはお互いの相互作用を解説する.さらに,分散相互作用,ファン・デル・ワールス力についても言及する.
18 全相互作用と相互作用ポテンシャル
電気双極子の相互作用が距離の6乗に反比例することに加えて,分子同士が近接したときの反発の相互作用を解説し,レナード-ジョーンズポテンシャルを示す.また,モースポテンシャルについても簡単に言及する.
19 分子分光法: 基本原理
ボーアの振動数条件と,吸収,発光などの基本原理について学習する.
20 分子分光法の特徴と実験
発光スペクトルや吸収スペクトル,ラマンスペクトルなどの測定原理と,実験に用いる装置について学習する.
21 回転スペクトルの基本原理
一番基本的な系として重力下での質点の運動を取り上げ,自由落下や放物運動を例に,いろいろな公式が運動方程式より導出できることを解説する.
22 回転スペクトルの解析
回転スペクトルの実測値から,回転定数,原子間距離,回転量子数などの分子定数を求める方法について学習する.
23 中間試験
中間試験
24 中間試験解答
中間試験の解答を黒板を用いて説明し,注意点を指摘する.
25 振動スペクトルの基本原理:調和振動子
調和振動子を例にとり,量子化された振動エネルギー,および選択則から得られるスペクトルなどの振動スペクトルの基本原理について学習する.
26 多原子分子の振動スペクトル
多原子分子における振動モード,赤外,ラマン活性などの事項について学習する.
27 可視紫外吸収スペクトル:基本事項
電子状態の変化する,可視紫外領域のスペクトルに関する基礎事項について学習する.
28 可視紫外吸収スペクトル:フランク‐コンドンの原理
フランク-コンドンの原理について学習し,振動電子スペクトルの遷移確率について学習する.
29 励起状態の緩和過程
電子状態間の遷移について,スピン状態や電子状態の変化がどのように起こるか理解し,特に励起状態の緩和過程にどのような種類があるか,量子収率はどのように表わされるのかを学習する.
30 光電子分光法
光電子分光法について,その基礎と実験法について学習する.


本科目の修得には,60 時間の授業の受講と 30 時間の自己学習が必要である. 前期,後期ともに中間試験および定期試験を実施する.