【 2006 年度 授業概要】
科   目 物理化学 ( Physical Chemistry )
担当教員 九鬼 導隆
対象学年等 応用化学科・4年・通年・必修・2単位 ( 学修単位I )
学習・教育
目標
工学系複合プログラム JABEE基準1(1)
A4-3(100%) (d)1,(d)2-a,(d)2-d,(g)
授業の概要
と方針
3年生の物理化学で学習した化学熱力学,化学平衡,電気化学に引き続き,化学反応速度論,原子・分子構造論を講義し,化学の基礎理論である物理化学全般にわたる基礎知識を理解させる。また,現代化学のことを考えて基本原理からの取り扱いを強調する。



1 【A4-3】  反応速度式やそこに表れる反応次数,速度定数の意味を理解し,一次・二次反応について積分形速度式を導くことができ,反応・生成物の濃度と時間の関係を説明できる。
2 【A4-3】  反応速度の温度依存性(アレニウスの関係式)や活性化エネルギーと頻度因子の意味を説明できる。
3 【A4-3】  一般の反応が素反応の組み合わせであることを理解し,連鎖反応や光化学反応を含む場合もある複雑な反応の反応機構から反応速度が計算できる。
4 【A4-3】  黒体輻射と比熱理論,光電効果と電子線回折,ボーアの模型等から,古典物理学の限界,エネルギーが離散的であること,波動と粒子の二重性等について説明できる。
5 【A4-3】  ハイゼンベルクの不確定性原理,ボルンの確率解釈,シュレディンガー方程式の解の性質や境界条件とエネルギーの関係を定性的に説明できる。
6 【A4-3】  基本的な系(井戸型ポテンシャルや調和振動子等)の厳密解が求められる。
7 【A4-3】  水素型原子の主量子数,方位量子数,磁気量子数の意味,量子数と波動関数の節の数との関係等を理解し,水素型原子の原子軌道の概形が描ける。
8 【A4-3】  電子スピンとパウリの排他律の意味,電子の遮蔽効果や浸透で原子軌道の縮退が解けること,フントの規則等を理解し,多電子原子の電子構造を記述できる。
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1 中間試験で,一次・二次反応の反応速度定数の決定法について説明させ,反応速度式が書き下せ,積分形反応速度式が導出できるかどうかと,反応速度定数の決定について的確に説明できるかどうかで評価する。
2 中間試験で,アレニウスの関係式,活性化エネルギーや頻度因子を示し,活性化エネルギーが反応のポテンシャル障壁であることや頻度因子が衝突過程に関係していることを的確に説明できるかどうかで評価する。
3 中間試験で,複合反応(連鎖反応や光化学反応を含む場合もある)の反応機構を与え,反応速度が計算できるかどうかと,計算過程に付随する条件の物理化学的意味が的確に説明できるかどうかで評価する。
4 定期試験で,黒体輻射,比熱理論,光電効果,電子線回折等を説明させ,古典物理学の限界,エネルギーが離散的であること,波動と粒子の二重性等について的確に説明できるかどうかで評価する。
5 中間試験で,不確定性原理やボルンの確率解釈を含む,シュレディンガー方程式の解の性質等を説明させ,的確に説明できるかどうかで評価する。
6 中間試験で,与えられた基本的な系の厳密解が求められるかどうかで評価する。
7 定期試験で,水素型原子中の電子の軌道について説明させ,量子数の意味が的確に説明できかつ電子の軌道の形が描けるかどうかで評価する。
8 定期試験で,与えられた原子の物理化学的性質に関して周期性を説明でき,かつ,その周期性を原子の電子構造より的確に説明できるかどうかで評価する。
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成績は,試験100% として評価する.「評価方法と基準」にある,1〜3を中間試験で,4を定期試験で,5〜6を中間試験で,7〜8を定期試験で評価し,それぞれの中間・定期試験を25%として4回の試験の合計が100%となるように評価する。ただし,場合によっては臨時に追加の試験を行い,臨時の試験を含めた平均とする場合がある。
テキスト 「物理化学要論」:P. W. Atkins著/千原秀明・稲葉章 訳(東京化学同人)
参考書 「アトキンス物理化学 第6版(上・下)」:P. W. Atkins(東京化学同人)
「物理化学 -分子論的アプローチ-(上・下)」:D. A. McQuarrie, J. D. Simon(東京化学同人)
「化学反応はいかに進むか:反応の速度と機構」:E. L. キング(化学同人)
「初等量子化学 第2版」:大岩正芳(東京化学同人)
関連科目 1〜3年までの物理学・数学,3年生の物理化学,4年生の応用物理・応用数学
履修上の
注意事項
物理化学は,物理の視点から化学の基本原理を考察する教科であるので,当然,物理学とその基礎となる数学に精通していることが望ましい。1〜3年までの物理学や数学のみならず,同時進行で学習する応用物理や応用数学の内容も必要となってくる。さらに,3年生の物理化学で学んだ熱力学も,反応速度論を中心に必要となる。これらの科目を復習したり,良く学習しておくことが望ましい。

【授業計画( 物理化学 )】
上段:テーマ/下段:内容(目標、準備など)
1 経験的反応速度論:実験手法,反応速度
化学反応速度に関する実験手法と化学反応速度論の基本的事項について解説する。幾つかの実験手法を簡単に紹介したあと,反応速度が濃度の時間微分で定義できること,反応速度式の定義,反応の次数,速度式の決定等について講義する。
2 積分形反応速度,半減期
一次反応,二次反応について反応速度式を積分して積分形反応速度式を導き,反応・生成物の濃度と時間の関係について解説する。さらに,半減期を定義し,一次反応,二次反応の半減期を導き,初期濃度と半減期の関係について解説する。
3 反応速度式の温度依存性
アレニウスの関係式について解説する。反応速度定数と温度の間にアレニウスの関係式があること,アレニウスの関係式が反応の活性化エネルギーと頻度因子といった要素で決まることを講義する。
4 活性化エネルギーと頻度因子
活性化エネルギーが反応を起こすために乗り越えなければならないポテンシャル障壁であり,頻度因子が分子の衝突や立体因子に関わる量であること,濃度の積が衝突頻度と比例すること等を解説し,活性化エネルギー・頻度因子と反応速度定数が結びつくことを講義する。また,活性錯体理論や触媒作用についても触れる。
5 速度式の解釈:素反応と反応機構
素反応(単分子・二分子反応)を定義し,通常の反応が複合反応であることを示し,反応機構とその反応速度式について解説する。逐次反応や定常状態近似,律速段階等の考え方を用いて,複合反応の反応速度がどのようにして組み立てられるかを示す。
6 連鎖反応:連鎖反応の構造,爆発
連鎖反応について,反応速度式をどのように計算したらよいか,いくつかの例を示しながら講義する。
7 光化学反応
量子収率等の光化学に関わる基本的考え方を示し,光化学過程を含む複雑な反応の反応機構および反応速度式について解説する。
8 中間試験
中間試験
9 統計力学
エントロピーを確率論から解釈し直し,ミクロ正準集団の統計力学を解説する。エントロピー増大の法則を確率論からとらえ,巨視的には同じ状態となる微視的な状態の場合の数がエントロピーであることを示し,ミクロ正準集団での分配関数等を導き,ボルツマン分布等について講義する。
10 熱力学と統計力学
熱力学の諸概念等を復習しつつ,それらが統計力学からどのように解釈され,応用されるかを,簡単に講義する。
11 古典物理学の破綻:黒体輻射
黒体輻射におけるレイリー-ジーンズの法則と紫外部の破綻およびプランクの輻射式について解説し,プランクの量子仮説(エネルギーが離散的であること)の発見過程およびその意味を講義する。
12 アインシュタインの比熱理論
固体の比熱におけるデュロン-プティの法則と現実とのズレ,アインシュタインの比熱理論を解説し,エネルギーが離散的であることの発見過程およびその意味を講義する。
13 光電効果・電子線回折
光電効果の実験とアインシュタインの解釈を解説し,電磁波(波動)が光子(粒子)としての性質を持つことを,また,電子線回折の実験より,電子(粒子)が波動としての性質を持つこととド・ブロイの物質波について解説し,波動と粒子の二重性について講義する。
14 ド・ブロイ波とボルンの確率解釈,不確定性原理
電子線回折等の実験より,ド・ブロイ波が確率振幅であることを示し,ボルンの確率解釈について解説する。さらに,ド・ブロイ波と粒子の運動量の関係,波動関数が確率振幅であることからハイゼンベルクの不確定性原理を解説する。
15 前期量子論(ボーアの模型)
ラザフォード型原子模型と,ボーアの量子条件を用いて,水素型原子の中の電子のエネルギーを計算し,水素型原子のスペクトルが輝線となることや,水素原子のスペクトル系列(バルマー系列やライマン系列等)が説明できることを解説する。
16 微視的な系の力学:シュレディンガー方程式
シュレディンガー方程式の特徴とその解である波動関数の性質(一価・有界・連続)を解説し,特に波動関数の連続条件(境界条件)からエネルギーが離散的になることを講義する。
17 一次元井戸型ポテンシャルの厳密解
量子力学の基本でありかつ近似法等の応用の基本となる厳密に解ける系について解説する。1次元の井戸型ポテンシャルに拘束された粒子を取り上げ,まず,ポテンシャルが有界の場合を解説し,極限移行でポテンシャルを無限大とし,ポテンシャルが無限大の系でのエネルギー波動関数の厳密解を求める。
18 波動関数の完備性,固有値と固有関数
一次元無限大井戸型ポテンシャルの波動関数を例にして,物理量演算子の固有値と固有関数が物理量と波動関数であることを示し,さらに,波動関数の規格化と直交性,完全性の仮定より,波動関数が完備性を持ち,線形空間を張る基底ベクトルとなることを解説する。
19 井戸型ポテンシャルの応用例(共役系分子の吸収スペクトル)
直鎖共役系分子のπ電子が,一次元無限大井戸型ポテンシャルの中の粒子としてモデル化でき,共役系の長さが長くなるにつれて,主吸収帯の極大波長が長波長シフトすることを説明できることを示す。
20 回転運動(環上の粒子)の厳密解
量子力学の基本でありかつ近似法等の応用の基本となる厳密に解ける系について解説する。2次元極座標系での回転運動について,厳密解を求め,回転運動の特徴と磁気量子数について講義する。
21 一次元調和振動子
量子力学の基本でありかつ近似法等の応用の基本となる厳密に解ける系について解説する。1次元調和振動子を取り上げ,通常の微分方程式を解くとき方でなく,場の量子論の基礎ともなる,生成・消滅演算子を用いた,代数的な解法で調和振動子のエネルギーを求める。
22 原子の構造:水素類似原子の構造
量子力学の基本でありかつ近似法等の応用の基本となる厳密に解ける系について解説する。中心力場に拘束された粒子を取り上げ,その解法を定性的に説明し,主量子数,方位量子数,磁気量子数とその意味について解説する。
23 中間試験
中間試験
24 量子数と原子軌道のエネルギー・形
主量子数,方位量子数,磁気量子数の組み合わせと,水素型原子の電子の軌道の種類や特徴について解説し,量子数と電子の存在確率の節・節面の数の関係から,各軌道の形が予測できることを示す。
25 電子スピン,スペクトル遷移と選択率
同一粒子が区別できないこと,そのためフェルミ粒子にパウリの排他律が存在することを示し,スピン量子数についても解説する。また,水素型原子の中の電子遷移の選択率についても解説する。
26 多電子原子の構造:軌道近似,浸透と遮蔽
多電子原子になると,シュレディンガー方程式の厳密解が得られず,軌道近似を用いることを示し,電子-電子の電気的相互作用が核電荷の遮蔽という概念に置き換えられて,有効核電荷が定義できることをしめす。さらに,浸透の効果により,動経方向に節の多い軌道ほど安定化し,縮退が解けることを解説する。
27 構成原理
多電子原子では原子軌道の縮退が解けるため,電子が増えていった場合にどういう順番で原子軌道を占めていくかやフントの規則を示し,原子を形成するときの電子構造を解説する。さらに,カチオンやアニオンの安定な電子配置などについても言及する。
28 多電子原子の構造と周期律
原子の電子構造より,原子の性質に周期的な特徴がでることを示し,周期表を原子の電子構造より議論する。また,周期的性質のみならず,周期表上での原子半径やイオン化エネルギー,電気陰性度などの特徴の変遷も,原子の電子構造より説明できることを解説する。
29 化学結合:基本概念
化学結合の基本概念を解説する。
30 原子価結合法・分子軌道法
化学結合を考える際に用いられる,原子価結合法と分子軌道法の基本概念を解説する。


中間試験および定期試験を実施する.