【 2005 年度 授業概要】
科   目 半導体工学 ( Semiconductor Engineering )
担当教員 西 敬生
対象学年等 電子工学科・4年・通年・必修・2単位
学習・教育
目標
工学系複合プログラム JABEE基準1(1)
A4-2(100%) (d)1,(d)2-a,(d)2-d,(g)
授業の概要
と方針
現代のエレクトロニクスは半導体によって支えらえている.この半導体を,エネルギーバンドや電子輸送現象などの固体物理の基礎から,材料として学ぶとともに,ダイオードやトランジスタに代表される半導体デバイスとして,応用面からも深く理解できるよう学んでいく.授業で出てくる数値のほとんどは実生活では使わない桁のものばかりであるため,演習などで比較検討することで慣れながら理解していく.



1 【A4-2】  半導体の物質名(SiやGaAsなど)を紹介でき、材料の構造や機能で分類できる。
2 【A4-2】  金属、半導体、絶縁体を抵抗率、バンド構造、温度特性の違いで説明できる。
3 【A4-2】  固体中の荷電粒子の個数であるキャリア密度を数式で表現し、意味を簡単に説明することができる。
4 【A4-2】  半導体中のキャリアの挙動をオームの法則やホール効果などドリフト電流に関するものと、アインシュタインの関係式や拡散方程式から拡散電流に関するものについて区別して説明できる。
5 【A4-2】  pn接合における荷電粒子の挙動をエネルギバンド図で説明できるとともに、階段接合や傾斜接合における空乏層幅や容量をポアソンの方程式から導出できる。
6 【A4-2】  金属-半導体の接触の仕方による電気特性の違いを説明できる。
7 【A4-2】  バイポーラトランジスタの動作をバンド図や構造を用いて説明し、増幅作用の原理を注入率や到達率等、荷電粒子の挙動から理解できる。
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1 半導体の物質名や、他物質との違いを問うことを授業中の小テストと前期中間試験の中で実施し評価する。
2 グラフや図を描かせ、3つの違いを問うことを授業中の小テストや前期中間試験の中で実施し評価する。
3 キャリア密度の式の意味を説明し、実際例から値を計算させる問題を授業中の小テストおよび定期試験で出題し、評価する。
4 授業中の小テストおよび前期定期試験で移動度やキャリア密度とオームの法則やホール効果の関係を説明させる問題を出題する。また拡散方程式の各項について論じさせる。
5 pn接合をエネルギバンド図で説明させ、その接合状態によって空乏層幅や容量をポアソンの方程式から導出する式の展開を授業中の小テストおよび後期中間試験で出題し、評価する。
6 金属-半導体の接触の仕方による電気特性の違いを授業中の小テストおよび定期試験で説明させ、評価する。
7 バイポーラトランジスタの動作をバンド図や構造図を、注入率や到達率と合わせて定性的に説明させる問題を授業中の小テストおよび定期試験で出題し評価する。
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前期中間・前期定期試験を20%ずつ,後期中間・後期定期試験を25%ずつ,授業中の小テスト(これがレポートになることもあり)を10%で評価する.
テキスト 「半導体デバイス」:松波弘之、吉本昌広(共立出版)
参考書 「半導体素子」:石田哲朗、清水東(コロナ社)
「応用物性」:佐藤勝昭(オーム社)
「図解による半導体デバイスの基礎」:玉井輝雄(コロナ社)
「半導体工学」:高橋清(森北出版)
関連科目  
履修上の
注意事項
関連科目:応用物理(4年),電気材料(4年),固体デバイス工学(5年)
この科目の延長が5年の固体デバイス工学である.

【授業計画( 半導体工学 )】
上段:テーマ/下段:内容(目標、準備など)
1 半導体の電子構造:半導体材料,結晶構造,不完全性
金属や半導体,セラミックスなど日常で使われる材料の分類,単結晶や多結晶,非晶質などの固体の分類,ダイヤモンド構造,閃亜鉛鉱構造という結晶構造による分類について説明や,結晶の不完全性について説明する.予習として教科書1〜4ページまでをよく読み,周期律表をよく見ておくこと.
2 半導体の電子構造:エネルギ帯構造,エネルギ準位
1原子の中,そして固体の中の電子がとるエネルギ準位について説明する.このエネルギ準位から形成される帯構造,また電子の存在が許されない禁制帯について発展させる.テキスト5〜7ページ中の重要な言葉の意味や1 eVの意味を理解する.予習はテキスト5〜7ページまでをよく読み,式(1.1)を理解してくること.
3 半導体の電子構造:結晶中の電子
前回の帯構造を使って金属,半導体,絶縁体を描写し違いを説明する.また“遷移”という言葉の意味を理解するとともに,禁制帯幅が物質固有のものであること,禁制帯の遷移により正孔が生じることなどを説明する.予習はテキスト7〜10ページまでをよく読み,わからない言葉を抜き出しておくこと.
4 半導体の電子構造:真性半導体と外因性半導体
n形半導体とp形半導体,ドナーとアクセプタ,多数キャリアと小数キャリアについて説明する.固体中の電子と正孔の違いをより理解するため,有効質量についても説明する.予習として教科書11〜14ページまでをよく読み,周期律表をよく見ておくこと.また水素原子の軌道半径の導出について復習しておくこと.
5 半導体の電子構造:状態密度と占有確率
多数の荷電粒子の挙動を扱うため,一個の粒子の運動方程式ではなく,統計力学を用いて粒子群を表現する.粒子の個数に対応する「キャリア密度」を表現するための「状態密度」と「占有確率」を説明する.理解の助けとして計算問題も出すため,電卓を持ってくること.予習は球の方程式や運動量について復習しておくこと.
6 半導体の電子構造:キャリア密度の導出と真性キャリア密度
あるエネルギの範囲内にあるキャリアの密度を導出するには,前回導いた式をその範囲内で積分して求める.その積分の式の展開によって導電帯(価電子帯)中の電子(正孔)密度の式を導出する.これにより,真性半導体のキャリア密度である真性キャリア密度が定義され,pn積に発展する.前回の講義をよく復習しておくこと.
7 半導体の電子構造:フェルミ準位
半導体デバイスの動作を説明するのによく用いられる「フェルミ準位」について説明する.水がどれだけ溜まっているかを表すのに水面の高さを測るのに似て,フェルミ準位も電子がどのエネルギの高さまでいるかを表す量である.予習は20〜23ページをよく読み,わからないところをチェックしておくこと.
8 中間試験
半導体の特徴を,電気的な性質や帯構造などの観点から説明させる.半導体の種類分類わけについても出題する.またキャリア密度の導出や式の展開,フェルミ準位の意味などを出題する.必ず電卓を持ってくること.
9 試験解答,半導体における電気伝導:キャリアの熱運動
半導体の結晶が格子の形を保ちながら,熱によって原子が揺れ動くことを格子振動といい,それを量子化したもの(粒子として見たもの)をフォノンと呼ぶ.この格子振動について説明する.平均自由行程という重要な言葉も出てくる.予習は25〜26ページをよく読んでおくこと.
10 半導体における電気伝導:ドリフト電流
電子が多数集まって流れを形成すれば電流となり,流体として扱うことができる.外部から印加された電界で電子が動くことによって生じた電流をドリフト電流と呼び,ドリフト移動度が定義される.キャリアの流れで考えたときのオームの法則も導出する.予習として27〜28ページを読むことと,抵抗率について復習しておくこと.
11 半導体における電気伝導:ホール効果
ドリフト電流中のキャリアは電流と直交方向に磁界を印加すると電流,磁界いずれとも直交する方向にローレンツ力が働き,起電力が生じる.この現象をホール効果と呼び,この効果を測定して何がわかるかを説明する.予習はローレンツ力に関して調査してくること.
12 半導体における電気伝導:キャリア密度の温度特性
金属と半導体の違いとしてよく表現される抵抗率の温度依存性について,半導体のキャリア密度の温度依存性を詳細に説明して理解してもらう.予習として30〜31ページをよく読むことと,金属の抵抗率は温度が上がるとどうなるかを調べてくること.
13 半導体における電気伝導:拡散電流
粒子が拡散する様子を数式で表すとどうなるかを説明し,それを電子や正孔に適用した場合に電流がどのように記述できるかを説明する.またアインシュタインの関係式についても説明する.予習は31〜33ページをよく読むことと,電流の定義を忘れている者は思い出しておくこと.
14 半導体における電気伝導:連続の式と拡散方程式
半導体中で起こるキャリアの生成と消滅について論じ,そこからキャリアの拡散による流れを記述した拡散方程式へとつなげ,38ページの式(2.37)の各項について説明する.半導体の中で重要な役割を演じる「トラップ」についても論じる.予習は33〜41ページを読んでおくこと.
15 半導体における電気伝導:半導体電気伝導に関する演習
これまで出てきた式や現象を使って演習を行い,理解を定着させる.演習形式で行うため,前回の授業の終わりにプリントを配布したものをやってくることが予習である.
16 試験解答,pn接合:整流性の原理
単体でも,そして多くの半導体デバイスの中に用いられているpn接合の動作原理をこの週から7回に渡って解説する.まずダイオードとして用いられる整流作用がなぜ起こるかを帯構造から定性的に説明する.拡散電位や空乏層といった言葉が重要単語である.予習は45〜47ページをよく読むこと.
17 pn接合:拡散電位,少数キャリアの注入
前回の定性的な説明をもとに今回は数式を用いて電流電圧特性を表現する.キャリア密度の式やアインシュタインの関係式を用いるので,47〜51ページを読んで,忘れている式などがあれば1章や2章の該当部分を読み直しておくこと.実際の数値を使って拡散電位を導出するので電卓を持ってくること.
18 pn接合:拡散方程式による電流密度の導出
理想的なpn接合は電圧印加時に拡散によって粒子の流れが起こる.2章で説明された拡散方程式を用いてpn接合中の電流を導出する.実際の数値を使って電流を導出するので電卓を持ってくること.予習として51〜55ページをよく読んでおくこと.
19 pn接合:理想特性からのずれ,再結合電流
前回求めたpn接合の理想特性に対して,実際のpn接合の特性がどれだけずれているかを確認し,そのずれの理由を説明する.キャリアの生成と再結合について2章の33〜40ページの関連部を復習しておくこと.また56〜60ページをよく読んでおくこと.
20 pn接合:空乏層の静電容量と幅
pn接合のp形−空乏層−n形という構造はコンデンサと考えられ,静電容量を有している.印加電圧によって空乏層の幅が変わることから,その静電容量も変化する.この静電容量と空乏層幅を導出する.階段接合や傾斜接合といった接合形態でどう変わるかを確認する.電磁気学のポアソンの方程式を復習しておくこと.
21 pn接合:降伏現象
pn接合の逆バイアス時は理想的には電流はほとんど流れないはずであるが,ある電圧を境に急激に電流が流れ始める.この現象について説明する.65〜67ページをよく読んでおくこと.
22 pn接合:交流特性,少数キャリア蓄積効果
pn接合に正弦波やパルス波を印加した場合,順バイアス時に注入され,空乏層近傍に存在する過剰少数キャリアが,どのような挙動を示すか,電流電圧特性がどう影響受けるかについて説明する.予習として68〜74ページまでよく読んでおくこと.
23 中間試験
pn接合をエネルギバンド図で説明させたり,拡散電位や空乏層幅や静電容量の導出を行う.電卓を持ってくること.
24 試験解答,金属―半導体界面の整流性
半導体デバイスには電圧を印加し電流を流すための「電極」が必要である.半導体にどの金属を接触させても良い電極となるわけではなく,接触の状態や金属と半導体の組合せによっては抵抗が非常に高くなったり,整流性を示したりする.この現象について説明する.78〜83ページを読んでくること.
25 金属―半導体界面の空乏層の解析,オーム性とトンネル効果
金属−半導体接触によって生じた空乏層について,pn接合時を参考に解析する.またオーム性を示す時のエネルギーバンド図などについても説明する.またここで出てくるトンネル効果についても解説する.予習は84〜88ページを読むこと.
26 絶縁物−半導体界面,MOS構造の特性
MOSトランジスタの基本であるMOS構造について説明し,蓄積,空乏,反転状態のエネルギーバンド図の違いを描けるようにする.またそのときの静電容量の変化や周波数特性についても解説する.予習は88〜94ページを読んでおくこと.
27 バイポーラトランジスタ:基本構造と動作特性
バイポーラトランジスタの基本特性や構造(特にIC上での)を述べた後,接地形式ごとに特性を説明していく.予習として95〜100ページをよく読んでおくこと.
28 バイポーラトランジスタ:直流特性
バイポーラトランジスタの直流特性について解説する.エネルギーバンド図で表した場合や,到達率や注入率について説明する.予習として100〜106ページをよく読んでくること.
29 バイポーラトランジスタ:電気的諸特性
バイポーラトランジスタの電流増幅率のコレクタ電流依存性やベース抵抗,アーリ効果,なだれ破壊や熱暴走など,イレギュラーな場合の特性について紹介する.107〜111ページをよく読み,わからないところを授業で質問できるように抜き出しておくこと.
30 バイポーラトランジスタ:高周波特性
バイポーラトランジスタを高周波で動作させたときの空乏層容量による応答の遅れについて述べ,遮断周波数について,またパルス特性について解説する.111〜117ページまでをよく読んでおくこと.


・中間試験を実施する.
・定期試験を実施する.