【 2005 年度 授業概要】
科   目 量子物理 ( Quantum Physics )
担当教員 九鬼 導隆
対象学年等 電気電子工学専攻・1年・前期・選択・2単位
学習・教育
目標
工学系複合プログラム JABEE基準1(1)
A2(100%) (c),(d)1
授業の概要
と方針
量子力学は現代物理学の基礎理論の一つであり,我々の生活を見渡しても,半導体に代表される電子部品や新材料のみならず,蛍光灯や白熱球といったものまでもが,きわめて量子的な現象の上に成り立っている.本講義では,量子力学の基礎を解説するとともに,変分法・摂動論といった近似法にも言及し,一通りの量子力学入門を行う.



1 【A2】  黒体輻射と比熱理論、光電効果と電子線回折等から、古典物理学の限界、エネルギーが離散的であること、波動と粒子の二重性等について説明できる。
2 【A2】  ハイゼンベルクの不確定性原理、ボルンの確率解釈、シュレディンガー方程式の解の性質や境界条件とエネルギーの関係を定性的に説明できる。
3 【A2】  基本的な系(井戸型ポテンシャルや調和振動子等)の厳密解が求められ、また、零点エネルギーやトンネル効果等、量子力学特有の現象を説明できる。
4 【A2】  水素型原子の主量子数、方位量子数、磁気量子数、スピン量子数の意味を説明できる。
5 【A2】  摂動論の基本原理を説明できる。
6 【A2】  変分法の基本原理を理解し、ハートリー近似の意味を説明できる。
7 【A2】  物理量と波動関数がHilbert空間の線形作用素とベクトルであること、そして、量子力学が固有値問題であることを説明できる。
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1 中間試験で、黒体輻射、比熱理論、光電効果、電子線回折等を説明させ、古典物理学の限界、エネルギーが離散的であること、波動と粒子の二重性等について的確に説明できるかどうかで評価する。
2 中間試験で、不確定性原理やボルンの確率解釈を含む、シュレディンガー方程式の解の性質等を説明させ、的確に説明できるかどうかで評価する。
3 中間試験で、与えられた基本的な系の厳密解が求められるかどうかで評価する。
4 期末試験で、水素型原子中の電子の軌道について説明させ、量子数の意味と電子の軌道の形が的確に説明できるかどうかで評価する。
5 期末試験で、摂動エネルギーが指示通り求められるかどうかで評価する。
6 期末試験で、変分法かハートリー近似について説明させ、的確に説明できるかどうかで評価する。
7 期末試験で、指示に従って量子力学が固有値問題であることを説明できるかどうかで判断する。
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「評価方法と基準」にある1〜3を中間試験で,3〜5を期末試験で評価し,それぞれの試験を50%,2回の試験の合計が100%となるように評価する.ただし,場合によっては臨時に追加の試験を行い,中間・定期試験の評価に加える場合がある.
テキスト 「岩波基礎物理シリーズ6 量子力学」原 康夫(岩波書店)
参考書 「量子力学の考え方」砂川 重信(岩波書店)
「初等量子力学」原島 鮮(裳華房)
関連科目  
履修上の
注意事項
量子論は古典物理学の限界を乗り越えるために発展してきた学問である.それゆえ,物理学全般,数学全般にわたる理解を必要とする.本科1〜3年の物理学や数学のみならず,4〜5年生の応用物理や応用数学・確率統計をしっかり復習しておくことが望ましい.特に,物理でいえば古典力学や振動・波動現象,数学でいえばいわゆる解析学や線形代数学,確率論と関わりが深いので,これらの分野をしっかりと理解しておくことが望ましい.

【授業計画( 量子物理 )】
上段:テーマ/下段:内容(目標、準備など)
1 古典力学の破綻と前期量子論1:黒体輻射、固体の比熱等
黒体輻射におけるレイリー-ジーンズの法則と紫外部の破綻およびプランクの輻射式、また、固体の比熱におけるデュロン-プティの法則とアインシュタインの比熱理論を解説し、プランクの量子仮説(エネルギーが離散的である)ことの発見過程およびその意味を講義する。
2 古典力学の破綻と前期量子論2:光電効果、電子線回折、ボーアの模型等
光電効果の実験とアインシュタインの解釈を解説し、電磁波(波動)が光子(粒子)としての性質を持つことを、また、電子線回折の実験より、電子(粒子)が波動としての性質を持つこととド・ブロイの物質波について解説し、波動と粒子の二重性について講義する。
3 シュレディンガー方程式の導出
プランクの量子仮説とド・ブロイの物質波より、粒子のエネルギーや運動量を波動として表現して波動関数(波を記述する関数)に代入し、非定常状態のシュレディンガー方程式を導出する。さらに、非定常状態のシュレディンガー方程式を変数分離して、定常状態のシュレディンガー方程式を導出する。
4 ボルンの確率解釈・不確定性原理
電子線回折等の実験より、ド・ブロイ波が確率振幅であることを示し、ボルンの確率解釈について解説する。さらに、ド・ブロイ波と粒子の運動量の関係、波動関数が確率振幅であることからハイゼンベルクの不確定性原理を解説する。
5 シュレディンガー方程式の特徴と波動関数の性質
シュレディンガー方程式の特徴とその解である波動関数の性質(一価・有界・連続)を解説し、特に波動関数の連続条件(境界条件)からエネルギーが離散的になることを講義する。
6 厳密に解ける系1:一次元井戸型ポテンシャル
量子力学の基本でありかつ近似方等の応用の基本となる厳密に解ける系について解説する。1次元の井戸型ポテンシャルに拘束された粒子を取り上げ、まず、ポテンシャルが有界の場合を解説し、極限移行でポテンシャルを無限大とし、ポテンシャルが無限大の系でのエネルギー波動関数の厳密解を求める。
7 固有方程式と固有値・固有関数、ヒルベルト空間の基底ベクトルとしての波動関数
一次元無限大井戸型ポテンシャルの波動関数を例にして、物理量演算子の固有値と固有関数が物理量と波動関数であることを示し、さらに、波動関数の規格化と直交性、完全性の仮定より、波動関数が完備性を持ち、線形空間を張る基底ベクトルとなることを解説する。
8 中間試験
 
9 厳密に解ける系2:散乱問題(一次元箱形ポテンシャル)
量子力学の基本でありかつ近似方等の応用の基本となる厳密に解ける系について解説する。1次元の箱形ポテンシャルに衝突する粒子を取り上げ、散乱問題の基本を解説し、粒子の反射係数と透過係数をもとめ、トンネル効果についても説明する。
10 厳密に解ける系3:一次元調和振動子
量子力学の基本でありかつ近似方等の応用の基本となる厳密に解ける系について解説する。1次元調和振動子を取り上げ、通常の微分方程式を解くとき方でなく、場の量子論の基礎ともなる、生成・消滅演算子を用いた、代数的な解法で調和振動子のエネルギーを求める。
11 水素型原子中の電子の軌道、4つの量子数
量子力学の基本でありかつ近似方等の応用の基本となる厳密に解ける系について解説する。中心力場に拘束された粒子を取り上げ、その解法を定性的に説明し、主量子数、方位量子数、磁気量子数とその意味について解説する。さらに、パウリの排他律とスピン量子数について解説し、水素型原子の電子の軌道について講義する。
12 近似法1:摂動論
代表的な近似方の一つである摂動法について解説する。ハミルトニアンを基本系と摂動ハミルトニアンに分離し、摂動パラメータで展開し、2次までの摂動エネルギーを求める。
13 近似法2:変分原理と変分法
代表的な近似方の一つである変分法について解説する。近似系のエネルギーは厳密解の基底状態のエネルギーよりも必ず高くなる(変分原理)ことを証明し、エネルギーが停留値をとるという条件よりシュレディンガー方程式が導出でき、さらに、試行関数を制限することでハートリー方程式が導出できることを示す。
14 量子力学の一般原理1:ヒルベルト空間での状態ベクトルと基底ベクトル
固有関数系がヒルベルト空間の基底ベクトルとなり、物理系の状態がヒルベルト空間内の状態ベクトルとして表され、状態ベクトルの基底ベクトルへの射影成分が、その固有状態を実現する確率になっていることを解説する。
15 量子力学の一般原理2:固有値問題と表示
物理量演算子が行列として表示され、量子力学が固有値問題であることを解説する。また、基底ベクトルの選定と物理量の行列の対角化より、表示の問題、特に位置表示とエネルギー表示について解説する。


中間試験を実施する。
期末試験を実施する。