【 2005 年度 授業概要】
科   目 分子分光学 ( Molecular Spectroscopy )
担当教員 九鬼 導隆
対象学年等 応用化学専攻・1年・後期・選択・2単位
学習・教育
目標
工学系複合プログラム JABEE基準1(1)
A4-3(100%) (d)1,(d)2-a,(d)2-d,(g)
授業の概要
と方針
驚異的な分析能力を発揮する機器分析の多くは,基本原理として分子分光学を用いている.本講義では,分子の中の核や電子の運動とエネルギー状態および励起と緩和の動力学を中心に据え,分子分光学の基礎理論を解説する.



1 【A4-3】  分子の電子・振動・回転状態状のエネルギー準位とそれぞれの関係を理解し、分子の励起・緩和過程やその機構を定性的に説明できる。
2 【A4-3】  可視紫外吸収、発光(蛍光・燐光)スペクトルの原理と得られる情報について説明できる。
3 【A4-3】  多体系の振動問題が、固有値問題・主軸変換問題であることを理解し、GF行列法による基準振動解析の基本を説明できる。
4 【A4-3】  振動分光(赤外吸収とラマン分光)の原理と得られる情報について説明できる。
5 【A4-3】  基本的な系について、回転運動に関する慣性モーメントや角運動エネルギーを計算できる。
6 【A4-3】  マイクロ波分光の原理と得られる情報について説明できる。
7 【A4-3】  核スピンのエネルギー状態や核磁気共鳴の基本原理を説明できる。
8 【A4-3】  局所磁場や局所的遮蔽、化学シフトを理解し、環境によって化学シフトが変化すること、また、スピン結合によって吸収線が分裂することを説明できる。
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1 中間試験で、分子の励起と緩和の動力学をポテンシャル曲面上の代表点の運動として的確に説明できるかどうかで評価する。
2 中間試験で、可視紫外吸収、発光(蛍光・燐光)の選択律、フランク-コンドンの原理、分子の中の電子のエネルギー状態、電子遷移に伴う分子構造の変化等が的確に説明できるかどうかで評価する。
3 中間試験で、強制振動や簡単な系の連性振動を解くことができ、また、GF行列法の基本原理を的確に説明できるかどうかで評価する。
4 中間試験で、赤外線吸収・ラマン分光の基本原理、分子振動と分子構造の関係について的確に説明できるかどうかで評価する。
5 期末試験で、基本的な系の慣性モーメントや角運動量、角運動エネルギーが計算できるかどうかで評価する。
6 期末試験で、で分子の構造や対称性と慣性モーメント、対称性から見た分子の回転エネルギーの分類等が的確に説明できるかどうかで評価する。
7 期末試験で、核磁気の大きさや、外部磁場による核スピンのエネルギー分裂、分裂エネルギーのラーモア周波数表現等が的確に説明できるかどうかで評価する。
8 期末試験で、局所的遮蔽による局所磁場の変化と化学シフトへの影響、局所的遮蔽の原因、スピン結合と吸収線の分裂パターン等に関して的確に説明できるかどうかで評価する。
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中間試験,期末試験をそれぞれ50%とし,2回の定期試験の合計で100%として評価する.ただし,場合によっては臨時に追加の試験を行い,中間・定期試験の評価に加える場合がある.
テキスト  
参考書 「アトキンス物理化学 第6版 下巻」:P.W. Atkins 著/千原秀明・中村亘男 訳(東京化学同人)
「分子の構造」:坪井正道(東京化学同人)
「分子の構造をきめる」:G. M. Barrow著/島田章 訳(東京化学同人)
関連科目  
履修上の
注意事項
量子力学の知識を前提とするので,本科4年生の物理化学や5年生の応用物理をしっかりと理解しておくことが望ましい.また,専攻科1年前期の量子物理を履修しておくことが望ましい.さらに,振動現象や回転運動も取り扱うので,本科4年生の応用物理もしっかりと理解しておくことが望ましい.

【授業計画( 分子分光学 )】
上段:テーマ/下段:内容(目標、準備など)
1 分子のエネルギー準位、励起と緩和の動力学
並進運動を分離したあとの分子のエネルギー状態(電子・振動・回転)、分子が光励起を受けた後の挙動[輻射遷移、無輻射遷移(内部転換、項間交叉)、振動緩和等]について解説し、分子の励起と緩和の動力学を講義する。
2 フェルミの黄金律と電子遷移、フランク-コンドンの原理と垂直遷移
ボルン-オッペンハイマー近似より、電子遷移が垂直遷移であることを示し、量子力学的に状態間の遷移を取り扱うフェルミの黄金律を紹介する。さらに、黄金律を分子の電子遷移に適応して、電子遷移の選択律やフランク-コンドン因子、振動の波動関数の重なりと遷移確率について解説する。
3 可視紫外吸収分光、発光(蛍光・燐光)分光
可視紫外吸収分光、蛍光・燐光分光の実際を簡単に解説しながら、分光測定より得られる情報(分子の中の電子のエネルギー状態、電子励起に伴う構造変化、等々)について講義する。
4 赤外線吸収とラマン効果
分子振動との相互作用である赤外線吸収とラマン効果、分子振動の状態について解説する。
5 強制振動、連性振動
分子振動を取り扱う基礎として、赤外線吸収をモデル化できる強制振動と、分子振動をモデル化できる連性系の振動を解説する。
6 分子振動と基準振動解析
分子振動を理解するために、基準振動解析(GF行列法)を解説する。
7 赤外線吸収分光とラマン分光
赤外線吸収分光、ラマン分光の実際を簡単に解説しながら、分光測定より得られる情報(分子振動のエネルギー状態、分子構造、無輻射遷移での分子振動の役割、等々)について講義する。
8 中間試験
 
9 マイクロ波の吸収
分子の回転運動との相互作用であるマイクロ波の吸収と分子の回転状態について解説する。
10 剛体回転子
分子の回転運動を取り扱う基礎として、剛体の慣性モーメントと角運動量・角運動エネルギーについて解説する。
11 分子の回転運動
重心回りの回転運動の慣性モーメントと角運動量・角運動エネルギー、球対象回転子、対象回転子、直線回転子の回転エネルギー準位と回転スペクトルにおけるB項・C項の関係等について解説する。
12 マイクロ波分光(回転スペクトル)
マイクロ波分光の実際を簡単に解説しながら、分光測定より得られる情報(分子の回転のエネルギー状態、慣性モーメント、分子構造、等々)について講義する。
13 核磁気共鳴の基本原理
核スピン、外部磁場による核スピンエネルギーの分裂とラーモア周波数等、核磁気共鳴の基本原理を解説する。
14 局所磁場の形成と遮蔽定数
分子に外部磁場をかけた場合の磁場応答を考え、外部磁場の局所的遮蔽を解説する。さらに、局所的遮蔽が、原子核の回りにある電子や化学結合に関与する電子、隣接基、溶媒等の遮蔽の総和として考えることができ、核の置かれている環境によって、共鳴エネルギーが変化することを解説する。
15 化学シフト、分裂パターン
化学シフトを定義して、核磁気共鳴のスペクトルが外部磁場の大きさに関わらない形で表現できることを示す。さらに、核の置かれている環境の違いより局所的遮蔽が変化し、化学シフトが変化すること、核スピン間の相互作用(結合)によりスペクトル線が分裂することを解説する。


中間試験を実施する。
期末試験を実施する。